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第二章 ⑩ ―守るべき人達のために②―

 ゼナイダの切り裂くような拳を受けたリーシャの体は、高く浮き上がり、観客席へとその体を沈める。大きな体を寝かせたことで、観客席からはいくつもの瓦礫が転げ落ちていく。

 伸ばしたままの腕を引けば、ゼナイダは体を横にしてピクリとも動かないその姿を見た。


 「何を寝ているんだよ。まだ、元気なんだろ?」


 勇吹がそう口にすれば、ガントゥの吹きだし笑いが響く。


 「いやなに、優越感にでも浸らせてやろうかと思っていてな」


 上半身のみを起こすリーシャ。


 「余計なお世話だ。……どうせ、油断したところを襲うつもりだったんだろ?」


 「襲う? そんなことをするわけなかろう――」


 糸でも付けて引っ張られたように、リーシャはその体を真っ直ぐに起こした。ピンと背筋を伸ばしたように起こしたその姿は、やはり微動だにはしていない様子だ。

 予想していたことだったが、他の魔導人己ならば粉砕しているような一撃を受けて簡単に起き上がる姿を見れば、勇吹もその顔に冷や汗を流した。

 完全に体を起こして、客席からこちらを見下ろす状態でガントゥは口にした。


 「――圧倒的な力で蹂躙するのだ!」


 その発言を聞き、勇吹は直感的に危険を察知する。すぐさまゼナイダは、真横に回転して地面を転がる。

 ガタガタ! と音を耳に、勇吹きは自分が立っていた方向に目をやれば、そこに突き刺さるのは数本の剣。


 (不意打ち……!?)


 『ご主人様! 油断しないでください!』


 回避できたことに安堵して出した息を吸い込み、緊張で息を止める勇吹。吐いてしまえば、集中力まで抜けてしまうと思ったからだ。

 転がってそのまま立ち上がったゼナイダは、走り出した。機敏な動作で駆けていくその姿は、人と変わらずシルエットだけで見れば、まるで人間そのものだろう。そして、それを追いかけるのはリーシャから放たれる何十という剣。


 (コイツ、今の僅かな間にコレを用意していたっていうのか……!?)


 端から端に走り回るが、足跡のように続く剣により少しずつ自分の走るスペースが奪われていく。


 「走れ走れ走れぇ! どうした、さっきまでの大口は! この程度で、俺を! このガントゥ様を殺めようというのか! 弱者が! 愚か者が! 偽善者が!」


 ゼナイダは、壁にまで追い詰められたかと思えば、すぐさま地面を蹴り上げる。そして、観客席に飛び込めば、地面を抉りながら半円を描くように観客席の先で待つリーシャの元へと駆け出す。


 「うるせえその口を黙らせてやるよ!」


 このまま走っていけば、同じく繋がった観客席のリーシャの元へと到達することが可能だ。しかし、横に走って逃げていたものを、近づけば近づくほどに正面から受けなければいけなくなる。

 いくら円を描いたようにできた闘技場の席だとしても、それはいつか直線になる。そこまでいかなくても、最後のカーブを曲がった時点で、放たれる剣の命中率は増していくはずなのだ。

 最初は驚きで声を上げることを忘れていたガントゥだったが、擦り切れかけた思考が思い出して、にんまりと笑みを溢す。


 「馬鹿か、お前は! このまま、俺に近づけば近づくほどに命を散らすのさ! ――撃滅する覚悟をしろやぁ!」


 避ける避ける。

 背後に突き刺さる剣の音を聞くたびに、あれが自分に突き刺さるかもしれないと最悪な映像が目元をチラつく。

 頭を振り、最後のカーブを曲がれば、リーシャと一直線に向かい合う。

 勇吹もゼナイダは、二人とも馬鹿な方法だと思いはしたが、覚悟だけはしていた。瞬間に全てを賭ける覚悟を。

 一直線になるリーシャとゼナイダ。距離にしてみれば、この闘技場の広さに驚かされる。走れば、三十秒以内には到達できるはずだ。


 (手加減しねえ。今度は、本気でぶっ潰す!)


 ゼナイダの訪れを待っていたかのように、リーシャはそのマントを大きく広げた。先程よりも大きくなった暗黒から、無数の突起が出現する。

 勇吹の総力戦であると同時に、ガントゥの全総力をかけた交戦でもある直線。


 「消え失せろ――! 剣貯蔵庫!」


 己の武器の名前をガントゥが口にすれば、数十本の剣が連射する弾丸のごとく射出される。勇吹の目には、映画なんかで見たことのあるマシンガンやガトリングガンといったものが浮かんだ。つまりは、それだけの剣が飛んでくるということ。


 「うおおおおぁ――ー! ゼナイダ!」


 『ご主人様ッ――!』


 ゼナイダの目が強い熱を持ったように輝けば、剣の弾丸の中に飛び込んでいく。全身の感覚を忘れてしまうほどの集中力で対抗したが、それでもいくつもの剣がゼナイダを刺し貫く。

 合計五本、勇吹が痛々しいその姿を見て刺さっていた剣の数。


 「ぐぅ……!」


 剣の雨が止んだ。顔を上げれば、二射目を放つようで、暗闇から再び剣の突起が形を作り出していた。

 支えていたものが外れたように、再び銀の輝きと共に数十の剣が放たれていた。


 「じゃあな、小僧。お前のところの女は俺が抱いてやるから安心しろよ」


 醜悪な笑顔を浮かべたガントゥの声に押し出されるように、剣が射出された。


 「お前には、指一本触れさせねえ!」


 ゼナイダは手を交錯すれば、自分の両肩に突き刺さった剣を抜き取る。


 「やるぞ、ゼナイダ!」


 『やるですの――!』


 右手に一本、左手に一本で握られた剣で突き進む。ぐるりと二本の剣を振り回してみれば勇吹とゼナイダは、二人して咆哮を上げて走り出す。


 ゼナイダには武器がない。しかし、それはある意味では最強の証明。

 本来の基本性能が高いゼナイダは、武器がない代わりにあらゆる武器に順応できる。さらには、その武器を応用して使うことができるほどに、卓越した能力を持つ。

 ゼナイダには触れることはできない、盾は矛になり矛は盾に変わる。

 ――そう今のように。


 ゼナイダは接近する剣を自分の手に持つ二本の剣で叩き落していく。


 「俺の武器を取りやがったのか……!?」


 ガントゥは、その顔を驚きで歪ませた。

 ゼナイダは剣のカーテンを切り裂いて向かってくる、それだけでは完全に防ぐことができず、なおもその体を傷だらけにしながら突っ込んでくるゼナイダにガントゥは焦りを感じていた。


 「く、く……! 来るなぁ!」


 狼狽しながらガントゥは三射目を放つ。

 ゼナイダは両手に持っていた二本の剣をリーシャへ向かって投げつければ、片足と頭部を貫いた。


 「ひ、ひぃぃ!?」


 動きと視界を封じられたガントゥは、あらゆる方向に己の持つ異次元からの剣を放出する。

 ゼナイダは、脇に突き刺さる二本の剣に手を伸ばした。それを抜き取れば、先程よりもかなり狙いの荒くなった、リーシャの剣を振り回して落としていく。

 劣化が激しかったのか、リーシャまで後僅かというとこで剣が悲鳴を上げて粉々に砕けた。ようやく、後、数歩で触れられるところまで近づいたゼナイダ。

 肩に突き刺さる最後の一本の剣を引き抜いた。


 「――この剣を抱いて、死ね」


 ゼナイダは大きく跳躍すれば、頭上からその剣をリーシャの頭から深々と突き刺した。

 周囲に響き渡るガントゥの絶叫により、勇吹は戦いの終わりを知った。

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