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第二章 ② ―動き出す運命―

 簡単に大会までの日程を決めた後は、ちょうど夕飯時ということでコゼットは虹星とシュナイトにも食事を振舞った。

 合間に繰り広げられるシュナイトと虹星のド突き漫才のせいか、なんとも賑やかに食事の時間は過ぎていった。虹星とリデラの溝も埋まった。……かもしれない、と勇吹はこっそり思う。

 食事が終わり、虹星とどうしても話をしなければいけないと思った勇吹は、彼女を自室に招いた。

 少し緊張した様子の虹星などに気づかない勇吹は、椅子に腰掛けると、虹星をベッドに座るように促した。

 勇吹からしてみれば、少しばかり小さく感じるベッドも虹星が座るととても大きなものに見えた。


 「悪いな、今日は早く休みたかっただろうけど」


 「いいわ、気にしないで。どちらにしても、お互いがこの二ヶ月の間に何が起きていたかも話しておかないといけないし。モヤモヤしたまま闘技大会を迎えるていうのも、なんか嫌でしょ?」


 もう一度、「悪い」と勇吹が謝れば、自分から話しだすのが正しい順番に思えて、口を開く。


 「俺は、あの後。ここから馬車で何時間もかかるような村の近くの森で目が覚めた。最初はバジリスクに襲われたりして、大変だったけど……。その後、村の人に助けられて、そのツテでここにいる。今はここの店で働きながら、班の人間達を探していたところだ」


 チラリと勇吹は、虹星を見る。


 「そして、私に出会った。同時に、魔導書にも選ばれた。……まるで、そうなるように描かれたご都合主義のシナリオみたいね」

 

 足を組み、虹星はその目にどこか遠くを見るように窓の外を見る。


 「そういう、虹星はどうしていたんだ? なんか、偉そうな役職を貰っているみたいじゃないか」


 「事実、偉いのよ。私はね、一人で街の外れで目が覚めた。そこはアンタと一緒。でも、その後……盗賊に襲われたの」


 「盗賊!? だ、大丈夫だったのか!?」


 自分もモンスターに襲われた。何かしら、危険にあっているのではないかと思ったが、やはりそれは虹星にも例外ではなかった。驚きで腰を上げる勇吹を見て、指を鼻に当ててクスリと笑う虹星。


 「ごらんの通り。髪の毛一本たりとも触らせていないわ。まあ、最初は驚いたけど、そのすぐ後にもっと驚くことが起きたから、怖がる暇もなかったの」


 勇吹は、もったいぶるように言う虹星の答えを代わりに口にする。


 「そこで、魔導書に助けられたんだな」


 「そう。奇跡的にもね。もしかしたら、勇吹の状況と似ていたから、主人の危機に覚醒するかもしれないわね。……それから、あのやかましいシュナイトにこの世界のことを聞いて、例のメールの後。勇吹も来たでしょ? 

私も勇吹と同じように班のメンバーを探そうと決めたの。……他にすることもなかったし、目的もないまま行動するのも嫌だったからね」


 「そして、自分の力で、ここまでやってこれるなんてさすがだよ。なあ、ところで、あのメールの送った人間て誰か分かるか?」


 「名前、わかんないのよ。見たことのないアドレスから来てたから……」


 「見たことない? どうやって、送ったんだろう……。でも、俺達以外にも最低もう一人はいるはずだな」


 肩をすくませながら言う勇吹、虹星はその表情は穏やかに見つめる。


 「いいじゃない、それでも今こうして再会できたなら。それから、魔導師の試験を受けて、実技で魔導人己を出現させてみたら、すぐに合格よ。で、習うより慣れろの精神でやっていったら、それなりに有名になったみたいなのよ」


 勇吹は、そこで合点いく。

 ガントゥが虹星をすぐに見て驚いていた。魔導師が、国に何人いるかは分からないが、それでもすぐに気づくというのは、目立った活躍をしている証拠ともいえた。


 「ああ、さすが虹星。凄いよ」


 本当に凄いと思い、心の底からの賞賛の言葉を向ける勇吹。

 いきなり褒められたことで、虹星は照れたようで恥ずかしそうに左右の指をもじもじと擦り合わせる。


 「……あ、当たり前よっ」


 フン、と顔を逸らす虹星に勇吹は苦笑を浮かべた。

 杜若虹星は、実のところ優等生だ。元の世界でも、期末テストでも上位に必ず名前があった。勇吹の通っていた高校は、割と有名な進学校で、その中で上に行くというのは既に全国レベルともいえた。

 今回の機転や、異世界での順応力、やはり本人の高いポテンシャルがそう導いているのだろう。


 「いつもいつも、助けてもらって助かるよ」


 「そ、そんなの、気にしないで、いいわよっ。だって、私達――」


 口の中でごにょごにょとで言う虹星。彼女自身、久しぶりの戸惑いに困惑していた。


 「ん? どうかしたか?」


 大きく首を傾げる勇吹を見て、虹星は顔を逸らした。


 「――なんでもないっ! なんでもないわよぉ」


 何故か半泣きになる虹星に、勇吹は頭の上にクエスチョンマークを浮かべた。

 自分は彼女に対して、何か失礼なことでも言ったのだろうか。

 高校生になってからの短い付き合いだが、入学してすぐの勇吹に対しても何かと良くしてくれた。風邪で休めば、ノートを見せてくれたり、食堂で財布を忘れて困っていれば、お金を貸してくれたり。

 何気なく、親切だと思っていた彼女の行動。しかし、異世界に来た今、改めて疑問が生まれていくのだった。



                  ※



 翌日。朝早く叩き起こされるところから、勇吹の一日が始まる。

 虹星に蹴り飛ばされて起き、体を起こそうとしたところで、シュナイトに耳元で大声で「おはよう!」と声をかけられる。

 起きてみれば、空はまだ青い。寝直そうかとベッドに戻ろうかと思えば、笑顔のリデラ。嫌な予感がして逃げようかと思えば、引きずり出されて洗面器に張った水の中に顔を突っ込まされた。

 あまりに強引過ぎる目覚めの後、初めは体力をつけるところだと虹星に言われて、街の中を何週もぐるぐると走る。一緒に走るシュナイトは相変わらず暑苦しく、それからも逃げるように走り回る。

 やっと終わったかと思って帰ってくれば、腕立て、腹筋を数セット行う。ちなみに、最初は二十回三セットの予定だったが、筋トレを行う際に虹星のパンツを覗き見しようとして、気が済むまでやらされた。

 コゼットの朝食を強引に流し込むように食べれば、悲しそうなコゼット。それを見たリデラに一発殴られた。

 さあ、仕事の時間は心休まるだろうと思えば、虹星が予想外の方法を使ってきた。――虹星が依頼主となったのだ。

 虹星が客となり雇ってきたことで、勇吹はこれから大会まで全力で体を鍛えることとなる。

 めまぐるしく時間が流れ、早朝ランニングで息が上がらなくなってきた頃。――それは闘技大会の前の晩になる。

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