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第一章 ① ー旅立ちー

はじめまして。または、お久しぶりです。

いろいろ実験的な作品になります。

少しすけべな主人公ですが、最後まで楽しく読んでいただければ幸いです。


※予告なくタイトルが変更になるかもしれません。その時は、申し訳ございません。

 ある世界のある大陸のある辺境の村から、この物語は始まる。

 この村の多くの人間は、農作業で生計を立ててる家が多く、村のいたるところで牛を引き、畑を耕す姿を多く見られる。争いもない平和な村のさらに奥の小高い丘の上に、赤色レンガの家が立つ。

 赤レンガの家の前、白と黒のフリルだらけのドレスに身を包んだ少女と継ぎ接ぎのとこどころ目立つ学ランを着た少年が向き合っていた。

 大きな皮でできたリュックを背負う少年の顔には緊張が浮かび、少女の顔には母親のことが笑みが浮かぶ。


 「お世話になりました」


 眉にかかるほどの前髪、耳にかかるかどうか分からない髪の長さは彼を好青年に見せた。爽やかな笑みをその顔に、ただ青年と呼ぶにはまだ早い少年は女に頭を下げた。


 「本当に行ってしまうのか?」


 実年齢は二十六歳だが、外見年齢は明らかに十四歳前後にしか見えない。

 少女の髪は淡い桃色。目立つ髪の色をしてはいたが、化粧をしている様子もない。それは幼く見えるという意味ではなく、彼女が本来持つ美しさの前では不要なもの。そして、その顔は舞台役者のように目鼻立ちがはっきりとした美形と呼ぶに値する女性だった。


 「はい、俺これから、この世界を見て回ろうと思います。それに、生き残った人が他にいると信じているんで」


 二ヶ月前の辛い経験なんてなかったかのように、十六歳の少年――刀利勇吹トウリ イブキは、瞳に希望を持って笑う。

 呆れたようにため息を吐く女の名前は、レイラ・ハルティカイネン。この村で、医者兼発明家をしている。彼女としては、医者よりも発明家を本業だと言いたいようだが、趣味に走り過ぎる発明のせいで、そうもいかないようだった。

 彼女は成り行きで、自分の子供でも弟でもない勇吹を二ヶ月間養ってきた。


 「君が、私の元へ来てから、もう二ヶ月か。長いようで短く思えるな」


 「そうですね、あの時は、瀕死の俺を助けてくれてありがとうございました。先生がいなければ、今頃俺はどうなっていたか分かりませんよ」


 「先生先生って、やかましいよ。何度も言うけど、私はそんな柄じゃないんだけどね。……まあでも、ある程度、驚きには耐性がある方だと思っていたけどね。さすがに、アンタには驚かされたよ。アレ、今も持っているかい?」


 興味深そうにレイラが言えば、勇吹は最初はピンと来てないようで、レイラが『アレだよ、アレと』催促することで、その存在を思い出した。

 勇吹がポケットから取り出したのは、一台の電池切れのスマートフォン。


 「持ってますよ。コレは、俺が異世界人である証明みたいなもんですから」 


 そう、刀利勇吹は、異世界人である。

 それは、二ヶ月前の村はずれの森の中での出会いから始まる――。



                ※



 「痛い……」


 目を覚ました勇吹の第一声は呻き声だった。


 「ごほっごほっ!」


 呼吸を急ぎ過ぎたせいで、何かが口に入り込む。咳き込めば、喉を激痛が襲う。あまりの痛さに、喉が切れているんじゃないかとすら考える。

 全身が酷く痛み、体のどこかが折れているかもしれないと思った。体を起こそうと、力を入れてみれば、激しい激痛を伴う。


 「いてぇけど……」


 歯を食いしばり必死に起こした上半身。勇吹の学ランは、血で赤く染まり、ところどころ破けている。

 鈍い思考で周囲を見回せば、視界を覆い尽くすほどの木々たち。どこか山の中だろうか。遠くの方で獣らしき、鳴き声が聞こえるが、今の勇吹はそれが何なのかと考える余裕もない。


 (ここは、どこかの山奥か?)


 周囲を見ても、自分の現状は一切理解できない。そのため、勇吹は自分の過去の記憶を辿る。


 (俺は修学旅行に出かけて、そう、確か二日目だった)


 二日目。京都で自由行動をしていたことは、はっきりと覚えている。

 街中を班で歩いていた時、悲鳴が聞こえたんだ。そして、たくさんの悲鳴が聞こえて、声のした先を見た。


 (そのまま、光に包まれて……。ダメだ、思い出せない)


 朦朧とする意識で記憶を探してみても、何も見当たらない。


 「他のみんなは……?」


 足元がまるで泥のように重たく、歩こうとするために足を上げようとしても、うまく進まない。

 今にして思えば、動かない方が懸命な判断なのかもしれないと勇吹は思う。しかし、勇吹はそう判断できるほど、冷静な人間ではない。それと同時に、彼は自分のこと以上に誰かを救おうと思う人物だった。

 何十本目かの木の間をすり抜けた時、彼の目に飛び込んできたのは思いもよらぬ生物だった。


 『グゥゴォ!』


 開けた場所に獣がいた。

 目の前の獣は、何かの肉を貪りながら、旨そうに声を上げた。

 トカゲを自動車ほどの大きさにして、大きな背ビレを生やしたその姿はまるで恐竜。斑模様の肌は、光沢を張ったようにギラギラと光る。


 (なんだ、あの生き物……)


 弱りきった足が、反射的に逃げろと信号を送る。信号を受けた足は、一歩後退する。


 ――パキッ。乾いた音が森に響く。


 勇吹は足元の枝を踏み、その音は勇吹どころか、間違いなく目の前の獣にも届く。

 反射的に前方を見れば、獣は五本の指を地に這わせて勇吹を見る。


 「く、来るなっ」


 勇吹は怯えきった表情でそう言うが、それはむしろ逆効果となった。

 その一言で、勇吹を息のある元気の良い食事だと獣は判断したのだ。


 『ウグァゴォ!』


 奇声を上げると同時に、獣は地面を蹴り上げた。その柔軟な手足で、まさしくドタバタと近づく姿は映画で見るような陸上の恐竜のようだ。

 ズンズンと音が響けば、巨大な石を何度も地面に打ちつけるような重たい印象を与えるそれとは正反対の身軽な動作で獣は勇吹に近づいてくる。

  二本の大きな前足が勇吹の前で急停止すると舌をぺろりと口先を這うように動かしたかと思えば、人の体が丸呑みできるのではないかと思うほどの大きな口がパックリと開いた。


 「――ひっ」


 悲鳴を上げたくても声が出ることはなかった。

 あまりの驚きで、呼吸の仕方を忘れてしまった勇吹は、今まで出したことのない高い奇妙な声を発した。


 (死ぬ、死ぬ、死ぬ! 食べられるのか!? 呑まれるのか!? 俺、こんなところで死ぬのか!? なんで、なんでだ、なんでだよ!?)


 動かない体とは正反対に、勇吹の思考は慌しく動く。それ

 勇吹の脳裏に死のイメージがはっきりと浮かんだその刹那――。


 『はあぁ!』 


 ――爆発的な音が周辺の木々を振動させれば、目の前の獣は空高く舞い上がった。耳に残るのは女の声。

 飛び上がった獣の体が、勇吹の頭上に影を作る。影が流れていけば、遠方に落ちていく。巨体が飛んで行ったかと思えば、大きな音と一緒に、鳥達の鳴き声が響いた。先程の獣の足音に比べれば、小さな音から察するにかなり遠くに落ちたことが勇吹にも推測できる。

 獣が吹き飛ばされた光景以上に、勇吹の前に出現し彼を救ったもう一つの存在に目を奪われていた。

 巨大ロボット。それが、まず最初に勇吹の頭に浮かんだソレの俗称。

 パッと見ただけで分かる外見は二階建ての建物ほどの大きさ、突出したところもなければ、特別丸いところもない、金属ブロックで組み立てられた人型。頭部は、人間らしい部分は少なく、無機質な水晶玉を包むように兜が覆いかぶさっている顔をしていた。

 黄色を基本色にして腕と足を駆動音と共に動かせば、二本足の巨人は勇吹を見下ろした。

 先程、蹴り飛ばされた獣のせいで起こされたのだろうか、二人の間を数十羽の鳥達が羽ばたいていく。


 『キミ、大丈夫かい』


 レイラの声が耳に届くと、勇吹は辛うじて保っていた神経の意図が解け、その場に倒れこんだ。


 『お、おい! キミ!?』


 こうして、勇吹はレイラの家で居候として過ごすこととなる。



                ※



 ――これが、勇吹とレイラの出会いであった。そして、二人は二ヶ月の時間を経て、別れを告げようとしていた。

 しみじみと思い出していたのか、レイラは懐かしそうに目を細めた。


 「あれからキミを我が家で看病して、自分は他の世界から来たと言い出したときは驚いたものだよ」


 「そりゃ、しょうがないですよ。動けるようになってから、この辺の地図とか見せてもらっても、見たことない土地で見覚えのない街、山には”バジリスク”なんてモンスターもいるなんて、驚きですよ」


 「……ああ、キミの世界にはモンスターがいなかったな。そうだな、最初は記憶に異常が出たかと心配になったが、その魔導機を見てから考えが変わったよ。興味深い話もたくさん聞けたし、キミを我が家で預かって正解だったと思ったね」


 スマホを興味深そうに見つめるレイラの顔を見て、勇吹は照れ笑いを浮かべつつ、それをポケットに入れた。


 「これ、魔導機じゃないですよ。俺の住んでいるところでは、電球とかと同じちゃんとした機械なんですから。でも、これのおかげで、俺は今動くことができるんです」


 そう、この世界のこの大陸――ポリフェニアは刀利勇吹の住んでいた地球とも世界とも違う。

 それは、山の中で勇吹を襲った”バジリスク”でもそうだが、このポリフェニアには当たり前のように住人達が”魔力”を操り、”魔導具”という道具を使い生活している。

 魔導具は、バジリスクから勇吹を守った巨大ロボットのこともその一種だが、その種類は様々で、部屋を明るくする照明から、生鮮類を冷やす冷蔵庫のような物、寒さを防ぐ暖炉が魔力に反応し火を起こしたりもする。当たり前のように、この世界には、魔力が満ちている。それらを全て、総括して人は魔導機と呼ぶ。

 ちなみに、あの時の巨大ロボットは、魔導機の”魔導人己マドウジンキ”と呼ばれている。

 すなわち、今勇吹がいる場所は全く違う世界とえる。どういうことが原因なのか分からないが、勇吹は何らかの事故に巻き込まれて、このポリフェニアにやってきてしまったのだ。


 レイラに助け出された勇吹は、辺境の地に飛ばされた状況と友人達が死んでしまったかもしれない度重なるショックで、しばらくは死んだようにまともに食事をとることもなかったが、救出された三日後に放り出していたスマホに一件のメールが入る。


 〈今、ポリフェニアてところにいます。みんなは、元気ですか?〉


 生きていた。電波という概念の存在しないこの世界で、誰かが生きている。

 すぐに返事をしようとした勇吹だったが、彼がそのメールを返信するどころか名前を確認する前に、運命のイタズラとも思えるタイミングで電源が完全に落ちてしまう。

 それでも、その瞬間から勇吹の中には生きる希望が芽生え始めていた。

 それからは、急いでこの世界での最低限のことを学習して、元の世界の友人を探すための準備を始めたのだ。――精一杯の努力を始め、二ヶ月を経て、勇吹は旅立とうとしていた。


 「そうだな、それはキミと友人を結び付けるものになるだろう。これからの旅は、キミにとって困難な道だ。……それでも行くか?」


 「ええ、行きますよ。俺の友達が助けを待っているんですから。みんなを見つけ出してから、その先のことは考えようと思います」


 ニッと歯を見せて笑いかける勇吹の顔を見て、無意識に親心のようなものを抱いていたレイラはホッと安堵の声を漏らす。

 

 「後、これ餞別せんべつだ。受け取れ」


 レイラは、肩にかけていたカバンの中からB6サイズ程の大きさで辞書のようにぶ厚い本を差し出した。


 「これは?」


  差し出されるがままに、それを受け取れば、随分と年季が入っているようで、

 本のページ部分には染みが目立つ。


 「”魔導書”だ。それも、かなり希少価値の高いものだ」


 「え!? そんなもの、持ってていいんですか!?」


 何度も見返しながら、勇吹が聞けばレイラは腕を組みながら深く頷いた。


 「構わないよ、私が持っていても宝の持ち腐れなんだ。この世界には、いくつか魔導書があるけど、使おうと思ってもこの世界に生きる多くの人間が生まれて持って持つ”魔力”によって、互いが反発しあって意味がない。しかし、この世界にそれが存在するということは、意味があるはずなんだ」


 「意味、ですか……」


 レイラの魔導書へ向けたはずの言葉が、何故か勇吹には自分のことのように胸の中に残響する。

 改めて、魔導書を見てみる。表紙の中央には十字架、それを守るように円を描く竜が二匹、それを包むほどに大きく描かれているのは魔法陣。確かに見てみれば、何か特別な感じがする。


 「イブキ、キミも魔力を持たない。同時に、その魔導書も強大な魔力を持つが、この世界では美術品扱い。この巡り合わせは、何か運命じゃないかと思ったんだよ、私は。キミがこの世界にやってきたのことに、意味がある。そう信じて、魔導書を託すよ。最低限の知識だけでは……この世界はかなり生き辛いと思う。しかし、キミが道を踏み外さない限りは、きっとソイツも力を貸してくれるはずさ」


 あえて厳しいことを言いながらも親身になって語りかけてくるレイラの声を聞き、うんうん、と勇吹は何度も頷いて、本来なら生徒手帳があるはずの胸元のポケットに押し込んだ。


 「ありがとうございます、先生! ……あ、あの、先生。最後にお願いがあるんですけど」


 「ん? なんだい」


 先生、という言葉を否定することもなく、レイラはこのやりとりを楽しむように耳を傾けた。

 二人の頬を穏やかな風が流れた。


 「――最後に、パンツ見せてもらえませんか?」


 「消えろ」


 レイラの冷たい言葉と共に、刀利勇吹の旅は始まった。

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