最高のプレゼント
ある雪が深々降る肌寒い日に俺は目覚めた。最悪の体調で……。
「寒いな、俺って後何日程度かな……」
俺が居るのは、病院だ。点滴をずっと着けたままの状態で。あれから幾日近く経ったのだろう。俺としたらあの日から殆ど経ってないような感覚なのだが……。それでもカレンダーが指してある月日と俺がまた倒れた月日が違う。確か倒れたのは十一月だったよな。今はもう十二月のカレンダーだ。
「う……。あ、あれ? 英也? ……ひ、英也!」
「ちょ、ちょっと待て! ……痛い痛い、里緒奈そこまで強く抱きしめないで」
「あっご、ごめん」
そこまで時は経ってないような気はするけど、起きた瞬間に結構な痛みが走るってどうよ。まあ、無理もないか、大体一ヶ月近く寝てたようだからな。心配かけちゃったかな。
里緒奈は俺の恋人だ。小さい頃からの幼なじみでこの16歳になるまでずっと一緒に居た。髪はきれいな黒髪で顔、スタイル共に世に言う美少女と言うのが一番良く分かる説明だろう。俺の方は自分で言うのも何だが美少年に入っているんだと思う。少し茶髪気味の黒髪。学校にいたときは女子達がよってき過ぎて逆に動きずらい。里緒奈の家は父と母が弁護士をしているらしく、殆ど一人で過ごしているらしい。里緒奈は俺の事が大好きならしい。俺だって好きだ。只、俺は原因不明の病を患っている。自分でも分かる。自分に残された時間がもう少ない事を……。だからこそ里緒奈に俺なんかではなく、もっと普通の高校生と付き合ってほしい。里緒奈に俺の死顔など見せたくない。俺に優しくしてくれた人として、俺は里緒奈にもっと人一倍に良い人生を送ってほしい。なのに里緒奈は俺が何を言っても受け入れてくれる。優しくしてくれる。俺の前で涙を見せないでくれる。俺が里緒奈に別れようと言っても里緒奈は「隠さないで、私の事はいいから自分の気持ちを大事にして」と何でもお見通しのような感じで俺をとても大事にしてくれている。だが、俺は分かっている。里緒奈が俺のいないところで苦労している事を。俺の事で沢山涙を流している事を。それを隠している里緒奈を見ているのが一番辛い。俺の事をそんなに心配させている自分が憎い。でもそんなに俺を愛してくれてとても嬉しい。
「あっ今、先生呼んで来るね」
「待って」
「え、何?」
「……いや、今何日かなと思って」
「12月22日だけど」
「分かった」
「じゃあ、待っててね」
そう言って里緒奈は俺の病室を出て行った。
そっか、もうすぐでクリスマスなんだ。それまで俺の身体は保ってくれるだろうか。もし保てたとしても死期は近いだろう。治療法も分からない状態で今まで生きて来たのだ。死ぬ事への覚悟は出来ている。……いや、俺に必要なのは死ぬ覚悟ではなく、生きる覚悟なんだろうな。
ガラガラ。しばらくして先生が入って来た。
「やあ、英也くん。調子は……良いわけがないか」
「はい」
「里緒奈さん、英也くんと二人だけにさせてくれるかな」
「……はい」
そう言って里緒奈はまた俺の病室を出て行った。このとき俺にも先生が言いたい事は分かっていた。
「英也くん、分かっているとは思うが君に残された時間はもう僅かでしかない」
「……」
分かっていたのに、先生が何を言いたがっていたのか、俺の身体がどうなっているか分かっていた筈なのにいざそれを聞くとなると胸が締め付けられる。死などもう怖くなかった筈なのに震えている。
「だが、もっと大きな病院へ行けばもしかしたら助かるかもしれない」
「それは前にも言った筈です。俺はその気はないです……」
俺はもう母と父を1年前に亡くしている。だから唯一こんなにも優しく接してくれている里緒奈と離れる気はない。ここで死ぬのも良いかもしれない。唯、俺の死顔を里緒奈には見してあげたくはない。
「そうか、君がそこまで言うのなら私は止めない」
「すみません、いろいろと俺を気遣ってくれたのに……」
「いやいや、こちらこそ何も出来なくてすまない」
「それともう一つ、最後にお願いがあるのですが」
「言ってみなさい」
「最後を自宅で過ごしたいと思っています」
「なるほど」
−−−−−−−−−−
この後20分程度、先生と話しをした。
「英也……」
先生との話しが終わって先生が出て行った直後に里緒奈は入って来た。どうやら先程の話は聞かれてしまったみたいだ。
「その……ごめんな。心配ばっかかけて」
「そっそんな、英也は全然、全然絶対に悪くないもん!」
「そっか、ありがとな。それともしよければその、イヴに一緒に遊園地とか行かないか……」
「……うん。行きたい。でも、いいの?」
「ああ、別に問題ない」
「分かったわ」
−−−−−−−−−−−
12月24日 クリスマスイヴの日
「おーい、里緒奈。こっちこっち」
俺は今駅前にいる。気分は最高。一応発作が起きないように何度も実験を繰り返し、その中でも特に効果が出た薬を飲んで来た。俺と里緒奈が一緒にいる姿は彼氏と彼女と見ない方がおかしな位、普通の恋人同士と言った感じだ。
−−−−−−−−−−−
2時間後
俺等が今いるのは立派な遊園地だ。所々にカップルがいる。
他の人達から見たら俺等もあんな感じに見えてるのかな?
「英也、行こ」
「ああ」
そう言って俺等も遊園地に入り、普通のカップルいや、それ以上に見える程に楽しく過ごしている。只、里緒奈は俺の身体の事を気にしてか、あまり激しいものには乗っていない。
里緒奈の優しさが良く分かるな。
数時間程して里緒奈が言った。
「そろそろ何か食べよっか」
「ああ、そうするか」
と言う事で今は昼食を食っている。そう言えば外食なんて久々だな。俺の今の状況は最高って程ではないがまあまあ良いところをいってある。あれからも何回か薬を飲んだからと言うのが結構効いているからだと思うけど。
そう言えば、先生は俺がこの日まで生きていられるかは分からない。もしかしたらもう明日には死んでしまっている可能性もあるって言ってたよな。それが今の俺は普通とは決して言い切れないが歩く事が出来ている。
奇跡だな。
それとこれからは今使っている薬も使用する頻度をもっと少なくしなければな。この薬は一時的に痛みを和らげる事が出来るが、決して病状の進行が止まっているわけではない。それに服用し過ぎると今の俺にはリスクが高い。最悪の場合、すぐに死ぬと言う事も有り得るのだ。
神様、人は全て平等でしょうか。俺は出来るなら何時までも里緒奈の隣で笑っていたいです。もっと普通の人生を送っていきたいです。ですが、それが出来ないのならこの時間、この里緒奈と一緒にいる事が出来る時間だけは普通の恋人として生きていられるようにしてください。
「どうしたの?」
「いや、何でもない」
そうして俺は日が暮れても里緒奈と一緒いた。
「そろそろ、帰らなきゃ行けないな」
「……そうだね」
里緒奈は名残惜しそうにそう言った。
「あ、ちょっとトイレに行って来る」
「あっうん」
そう言って俺はトイレの方に向けて走る。
良し、誰もいない。うっ。
「くっ流石にきついな」
そう言って俺は口から血を吐き出した。真っ赤に染まっている自分の血を。だが、ここで終わるわけには行けない。もう少しなんだ。もう少しで、もう少しだけなんだ。耐えろ、耐えろ俺! そう自分に言い聞かせた。
「よし」
最後の薬を飲んで里緒奈のところへ向かう。さっきのでこんなんだったんだ。これを飲んでしまったんだから後の事はもう振り返られない。
「あっ英也。ねえ、最後にあのイルミネーションを見て行こうよ」
「ああ、じゃあそれを見ていこう」
そう言って俺等はそのイルミネーションを見ることにした。
「きれい」
「ああ、とってもきれいだ」
そう言って、里緒奈の方を見る。そこには良い笑顔でイルミネーションを見ている里緒奈がいた。そしてそんな笑顔から一滴の涙が流れ落ちた。
ああ、神様。俺は確かに身体は皆に劣るものでした。ですが、俺の人生は決して悪いものではありませんでした。良い家族に恵まれ、良き友に恵まれ、何より良き恋人が出来ました。俺は幸せ者です。世界一の幸せ者です。
イルミネーションを見終わった俺等は元の街に戻り、里緒奈の家まで一緒に帰った。
「じゃあ、英也。またね」
「ああ、またな。それとこれを」
「何これ?」
「いいから。俺が帰った後、出来れば見てくれ」
そう言って俺は里緒奈に手紙を渡した。
「分かったわ」
「じゃ、さよなら」
「うん、またね」
うっ、流石にもう限界か……。今日の深夜頃が峠になるかな。そう思い、身体を起こすが自分の体の筈が誰かに乗っ取られたかのように動きが鈍い。壁にもたれながらやっとの事で俺は立ち上がる事が出来たのだが、勢いを付け過ぎて横の裏路地の方に倒れてしまった。意識はまだ何とかあったから裏路地の壁にもたれるように姿勢を変えた。こりゃもう駄目かな……。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
さて、少し時間を遡る。
そう言って帰って行った俺の後ろ姿は里緒奈にとって何処か遠くへ行ってしまいそうなものだったらしい。
そうして、家に帰った里緒奈は片付けをして英也に貰った手紙を読んだ。
『これを里緒奈、君が読んでいると言う事はもしかしたら俺はもうこの世にいないのかもしれない。俺は父と母を亡くし、絶望と言う檻に一度閉じ込められた。だが、そんなときに俺を救ってくれたのは君だ。君がいるだけで俺は勇気を貰えた。とてつもない大きな大きな勇気だ。俺は君といるだけでとても楽しい人生を送れた。もし俺が死んでしまったのなら俺の分までもっと楽しい人生を送ってほしい。俺の事は忘れても構わない。だけど君には絶対に幸せになってほしい。そしてもし俺が生き残る事が出来たのなら、それは奇跡としか言いようがないものだ。そうなったのならもっといろんな事にチャレンジしてみたいな。今まで出来なかった事を全てしてみたい。そして、二人で良き家庭を作りたい。最後になってしまったが俺を愛してくれてありがとう。時には喧嘩をして、時には笑い合って、時には一緒に悔しがる。とても充実した人生でした。最高のプレゼントをありがとう。俺の愛した大好きな里緒奈へ。』
これを見た瞬間、里緒奈は家を飛び出して英也の家までの道を英也を探しながら全力で走った。靴も履かずに……。いつもはこんなに泣かないのに顔がしわくちゃになる程にまで泣いた顔で……。その事に気づいていない里緒奈は涙を流さないと言う事が出来なかった。いや、気づいていてもこの涙は、英也の事を思うこの涙だけは明日になろうとも明後日になろうとも流さずにはいられない。先程までふらつきながら歩いていた英也の姿は里緒奈の前から消えていた。
終わりました〜。現代物で恋愛ものなんて初めてなのでうまく出来ていないかもしれません。
兎に角、見て頂いてとても嬉しく思います。