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∞51最初で最後の・・・51∞

 あれは、夕日が沈む頃だったか……。


 ――ねぇ、ぼくもキャッチボール? してみたいな――


 ――キャッチボールか? んー、俺も久しぶりだからな――


 ミットとボールを両手に持った若い男が唸り声を上げる。


 ――やってよ、まだまだ力はあるでしょ、そんなに歳いってないんだから――


 ――そうだなー……わかった。相手してやるよ――


 ――わーい、やったぁ!――





 両者から鼻血が飛び散り、鮮血が拡散する。





 ――ちょっと、いきなり思いきり投げすぎ! ゆっくりねっ――


 ――すまんすまん、ホント久しぶりなもんでな、気をつけるよ――


 若い男が後ろ頭を掻きながら、苦笑いをする。


 ――もぉー、じゃあ行くよ、えい!――


 まだ小さな手で、野球ボールを思いきり投げる。


 ボテボテの球だった。


 ――おぉ、やるじゃねぇか。んじゃ俺も――


 目の前まで転がってきた球を拾い上げて、四十五度を意識した球を投げる。


 それを、慌てながらもミットでキャッチした。


 ――あはは、とれたとれたー、もう一回っ――


 若い男にボテボテの球で返す。


 ――よっしゃぁー、気の済むまで付き合ってやるよ!――


 投げてはキャッチ。ボールを掴んでは相手に投げる。


 二人の、儚くも、最初で最後の思い出……。






 鼻血が出ようと、意識が飛びそうになろうと、オレたちの拳が互の顔面から離れることはない。そのまま押し合いになり、最後に力を振り絞ることができたのは、オレだった。


「これで、終わりだああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 握った拳に最大限の力を溜め込み、そのまま父親を吹き飛ばす。


「ぐ……がはっ……」


 三メートル弱程だろうか、それほどの高さを飛んだ父親は、落下して廊下に腰を打ち、シャッターへと身を投げ入れてピクリとも動かなくなってしまう。


 これで、終わったのか……? これで、やっと終わったのか……?


 まだ現実を理解できないオレは、荒い息とともに脚を曲げて座り込む。


「終わったね。おめでとうとは言わないけど、お疲れ様」


 オレたちのことを一部始終見ていたリウが、そっとオレの頭部を撫で始める。そんなオレは少々照れくさく思いながら、そっとリウの手を退かして立ち上がる。


「ああ、お疲れ様だ。リウも、助かってよかったよ」


 やんちゃな笑みを浮かべていると、そよ風の心地よい音色を遮るようにパトカーのサイレン音が耳に入ってきた。おそらくファーブルのおっさんが呼び出したこの島の警察だろう。遅すぎるにも程がある。だが、このタイミングであったからこそ、オレはこの戦いを終わらせることができたんだ。……オレはまだ、神に見放されていなかったんだな。


 オレには、彼らとの思い出なんて二つとして作っていない。いや、オレは本来アイツへ心臓を受け渡すために作られた存在。思い出作りなんてただ心が苦しくなるだけだ。生きとし生きるもの、皆弱くて皆傷つく……。


 思い出が無いってのは、オレにとっては悲しいことなんだ。でも……今日のこれも、一つの家族としての思い出に繋がったりはしないのだろうか……? 繋がらないにせよ、オレは忘れない。父親との生死を分ける戦いの終始を――


 警察が林立をきってセントパル塔に入り込んでいる姿を見ながら、オレは輝く月の光に照らされつつふと思った。




 ――父親が刑務所から出てきたら、オレが彼らの息子のように接してやろう――




 味わうことのできなかった、家族の暮らしを――


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