∞50クローンと人間50∞
父親の左手が、リウの肩から離れる。そして、右手に持った拳銃を両手で持ち、銃口はオレの頭蓋骨を捉えていた。
歯を食い縛る父親。一撃で仕留めるのか、数激で仕留めるのか、オレにはもう関係ないことだ。父親が思うままに行動してくれるのなら、オレはそれで、いい。
「おらっ! もたもたしてっとお前もクローンと同じクソ同然だぞ!」
瞼から涙が溢れ出たまま、父親を煽る。煽られた父親は口を大きく開け、オレと同様瞼から涙を垂らして叫び始める。
「おおおあぁおおおおぁぉぉおぉおぉぉぉぉおぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――……!」
その叫びが歓喜のものなのか、後悔のものなのかはオレにはどう試行錯誤してもわからなかった。でも、ひとつだけ、父親に言いたいことがあったんだった。今思いついたことだが、最後に聞こえていたら……いいな。
「……オレを造ってくれて……ありがとな」
小さな声で、聞こえるかもわからない音量で感謝するオレ。それと同時に、父親の持つ拳銃が獣の唸りと同様に叫んだ。
目を瞑るオレ。そして、今までのことを思い出す。
病院でのこと。町でのこと。公園でのこと。そして、断行の島でのこと――……。
父親の撃った弾丸は、空気抵抗を無視してまっすぐと大きな音を響かせながら、父親のさまざまな感情を詰めた弾丸は――オレのこめかみを掠めた。
「……え」
こめかみから発する痛みに瞼を開けるオレ。そして、目の前の光景を見て自身の目を疑った。
「お前は、どこまで私を追い詰めれば……気が済むのだ」
そこには、大粒の涙を大量に流している、父親の姿があったのだ。
拳銃を下げて、棒立ちの父親が。
「お……親父」
「なあ、私は化物なのか? クローン……いや、今はライと言ったな。私はお前を殺すことだけを考えてこの世界を日々生きていた。やはり、そんな感情しか抱いてこなかった私の方が化物なのかもしれないな」
拳銃を落とし、袖を使って涙を拭う。
「わかるか、いくらここまで化物じみた心になっても、息子にそっくりな顔に向かって撃つことが出来ないこと! ……私の負けだよ。お前にも、自分を犠牲にしてまでも守りたいものができたんだな。それがなんであれ、そういった感情があるのなら、人間として生きていけるのなら……私はお前との戦いに終止符を打つ」
床に落ちた拳銃を明後日の方向に蹴り飛ばし、古い緑のコードを脱ぎ捨てる。
「さあ、これで本当の最後だ! 今までの感情を込めて、私に思いきり殴ってこい! 私も、お前に全ての感情をぶつける!」
右拳を握り、オレの出方を見据える父親。
そして、オレはやっと父親の気持ちが理解できた。コイツは、コイツもオレと同じで、この戦いを終わらせたかったんだ。そして、これで本当に終わらすことを実現させようとしている。
オレの右手に力が入り、瞳が父親を捉える。
こうやって向き合ったのは、何年ぶりだろうか? 小さい頃、まだアイツに命の灯火が宿っていた頃だったか、父親と一緒にキャッチボールをして、帰りには泥だらけになっていた。
あの時以来だな、こうして爽快にやりあえるのは。
「いつでもかかって来い! 私がぶっとばしてやる!」
その父親の一言で、オレは脚を動かす。右拳を構え、父親の顔面へと腕を振り上げる。対して父親の腕もオレの顔面を捉え、二人の拳が同時に――
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉっ!」
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!」
両者の拳がそれぞれの顔面を打ち付ける。




