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∞5いつまでも孤独5∞

 オレの傍には、既に沢山の雪が積もって歩きにくい状態になっていた。公園のはずが雪によって砂も見えず、オレが彼方へと飛ばした紙切れは既にオレの傍に姿を現してはいなかった。


 それにしても、アイツの父親がこの場を検知しちまったのは誤算だった。てっきりあのあと父親はオレに対して何もしてこないとばかり思っていた。しかし、今こうしてこんな脅迫状じみたものを貼り付けていきやがった。ここまでくれば相手がどういう手段で来るかもわからない。オレを殴りに来るのかもしれない。殺しに来るのかもしれない。どっちにしろ、警戒は必要だ。現時点でクローンに人権がないことを察するに、オレの命がいつ狙われようとおかしくないのだ。


 恐怖に身を震わせつつ、オレは滑り台の下から立ち上がる。


 アイツが安らかな眠りについてから二年は経っている。既にオレの住処となったこの公園も、ともに冬を迎えるのは初めてだ。夏、秋なら気温が安定だったのでまだしも、冬を乗り過ごす計画などまるで考えつかない。この町の人々に一泊止めてくださいなんて言っても、クローンとして知られ、はたまた町の全ての人々に嫌われているオレを止めてくれる奴なんていない。


「ちっ……とんだ嫌われ者だな」


 仕方はない。アイツ――オレの父親でもある――奴から逃げ出したあと、病院とは数キロ離れたこの場所を陣取った。初めは町の人皆がオレを一人ぼっちの可哀想な子供として、時には面倒、時には泊めてくれた。しかし、それは半年足らずで幕を閉じた。ある日の夕方、公園の近くの家にスイカをもらいに茶の間のテレビをお爺さんと見ていると、いつも見ていたお笑い番組から急にチャンネルが変わり、画面には見知った顔が映し出されたんだ。オレは咄嗟に身の危険を感じた。母親だったのだ。


 腰まで届く髪、白い肌に、綺麗に整った輪郭。美人で、しかし目の下には遠くからでも見えるほど色濃くなったクマが映し出されていた。ニュースキャスターとともに並んでいた母親が、キャスターの口を遮るように、画面上に威圧的な目線を向けて口を開いた。


『今回、私がこのようにテレビに出向いたのは他でもありません』


 急な言葉に驚くものは誰一人としていなかった。何故か、それはアイツの死が原因なのである。


 アイツがこの世を去ったあと、無造作に押し寄せてくる記者の群体に母親の顔が映し出されていたせいか、ニュースを見る人にとってあの顔は目立ちすぎたからだ。無理もない。初のクローン化に成功したのだから、噂も増幅するだろう。


 なので、テレビ好きの町の人たちにとって母親は有名人的なものだった。


 画面上に映し出されている母親は、威圧的な視線を一旦逸らし、キャスターに何やらコソコソと話し掛けていた。何をしているんだ? そんな気持ちも浮かんできたが、咄嗟に右上に現れた画面に、オレは驚愕した。


『既にご存知だと思います、今画面に映し出されている写真、これは私の子です』


 母親が、何を口にするのかオレにはだんだん理解できてきた。


 隣で見ているお爺さんが、オレに向かって、「お主と感じが似ておるな」などと微笑みながら言っている。


『二年前、この子は私の育てた子、いわばクローンに殺されました』


 更に、今度は右下に似たような顔がもう一つ映し出された。


 オレだった。


『私の息子は、昔から心臓病という重い病に悩まされていました。病院に寝泊まりしていなかった頃、人前では優しい子でしたが、いざ一人になると急に胸を押さえ出したり、奇声を上げたり……他人には強い自分でいたかったのでしょう。病院に通っている最中も、心臓が治ったら一緒に遊ぼう。ちゃんと学校へ行けるようになったら、友達百人作りたい。そんなことを心なしか言っていました。私も応援していました。早く心臓が治ってほしいなと。しかし、それを……唯一の救いであったクローンが壊したのです!』


 すぐさま画面から目を離したオレが、隣にいるお爺さんの表情を見てみると、オレの方を向いて目玉が飛び出さんばかりに瞼を開け放っていた。


 終わった。そう思った。


 オレはすぐさま茶の間から逃げるように走り出し、廊下を掛けて玄関から靴を履いて飛び出した。快晴の、虫のなる煩い声を聴きながら。して、オレがクローンであること、本体を見逃したことは町中に知れ渡り、オレの世話をしてくれるものは風のように消え去った。孤独になったのだ。


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