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∞48選択肢48∞

「……」


 まったくだよ、とんだ人生なのかもしれない。いくら幸せな人生を送れていたとしても、最後が病院での死なら、それは幸せだったのかも分からなくなってしまう。もしかしたら、アイツはオレ以上に不幸だったのではないのだろうか?


 慈悲に思う一面もあるが、オレにはまだ、疑問に思うことが残っている。それを聞かない限り……オレの心はいっそう静まらないだろう。


 オレは心を落ち着かせるべく、瞼を閉じる。


 オレが聞きたいのは、公園でも聞いたことについてだ。しかし、それは聞くことによってオレをデメリットの状態におとしいれられるかもしれない。父親はよくこの疑問については怒りを顕にするからだ。リウに向けられた銃口が、そのままの状態で弾丸が発射する可能性が出てくるかもしれない。あるいは、オレに銃口が向けられ打たれるかもしれない。それはどちらも嫌なことで、回避しなければならないこと。


 流れ出ていたそよ風に勢いがます。


「さて、質問は終わったか?」


「……い、いや」


「いや、終わりだ。これ以上質問させることは許さない」


 リウに銃口を向けたまま、鋭くオレを睨む父親。そんな父親が、黙っているリウの肩を掴んだまま、肩に置いた左手の人差し指をオレに向かって突き出した。


「それじゃ、今度は私がお前に質問をしよう。最初で最後の、質問をな」


 その言葉に、オレは唾を飲み込んだ。最初で最後とはどういうことだろうか? この質問の回答で全てが決まるということなの……か?


 そう言った父親は、相変わらずリウに銃口を向けたままだった。


「最初で最後の質問だ。お前が正直に答えるんだな。……今から、オレは生き物を殺す予定だ。一人は人間。もう一人は、人間の形をした化物、クローンだ。しかし、生憎私には二人も殺す勇気などない。一人で十分だ。いや、一人は殺さないと気が済まないのだよ。これは報復、恨み、妬み、復讐。だから、どちらを殺せばいいか、私の息子を見捨てた時を振り返って、お前が決めて欲しい」


 ……どちらかを、殺す? なんだよそれ、オレにどう答えろって言うんだよ!


 解答の見えない質問に困惑するオレ。こんな残酷な質問に、オレはどう答えを返せばいいんだよ!


 悩みに悩み、頭を抱え始める。不意にリウの顔が目に映ったのだが、彼女の表情はオレへと向けられた悲しみの目。しかし、その瞳が何を訴えているのか、オレには何一つわからなかった。だが、もちろんリウが犠牲になるのは御免だ。そして、オレ自身を死滅させることでも、アイツへの約束を阻害することとなってしまう。


「……黙っていてもこの質問が終わることはないぞ。むしろ、選択肢にない自殺という手段もあるのだが、どうする?」


 不敵に笑みを浮かべる父親。


 分からない。どうすればいいのか、分からない。今、ここにいるのがオレではなく、アイツだったらどうするのだろうか? あまり話したことはないが、元気で皆から頼られていたというアイツなら――……この状況をどう打破するのだろうか?


 無意味な発想をしては拒み、また発想をしては拒みと試行錯誤するオレだったが、最もよい解答が生まれることは断固なかった。


「はぁ……やはり、人間の容姿をしていたとしても、所詮クローンか。何もできない。何も考えつかない。何事にも自分が最優先」


 自分が最優先……? オレは、そんな醜い奴だったか? そんな人を大事にしない存在だったか?


「自分に向けられたさいは全て見逃し、他者の不幸を嘲笑う」


 オレって奴は、いつもそんなことをしていたのか?


「幸福な感情がなく、人間に向ける眼差しはいつも憎悪と嫉妬で詰まっている」


 ……違う。違うはずだ。オレにも、オレにもオレらしい何かが……


「思いやりさえなく、人の気持ちを分かち合うことができない」


 ……違う……違う!


「私たちの息子を見逃したのも、ただの恐怖という一言で片付けられる、他愛も無い殺戮さつりく。そうやってお前は、常に人間という意志を持った生き物を憎み、またはそう言った生き物に恐怖を抱き、殺そうと――」


「それは違う!」


 父親の熱く語る言葉に水を差すオレ。


 なにが憎悪だ。なにが嫉妬だ。コイツは、クローンという存在以前に、オレという存在を分かっていない。どうしてそこまで誇張にする? どうしてそこまで絵空事をでっち上げる? お前は、お前は……


 ……そうか、そういうことなんだな。


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