∞43人間離れの大男(1)43∞
刹那――
ズシャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――…………
「!?」
急に父親たちを覆い隠すシャッターから大きな爆発音が聞こえたと思ったら、白煙と同時に、一人のスキンヘッドである大男が全身を表し始めた。
「クソ野郎どもがァ! 全員まとめてぶっ殺してやる!」
そして、なりふり構わず真正面にいるオレたちへと狙いを定め、身を低くして牛のように突進をかましてきた。
「お、お前ら逃げろ!」
意想外な行動に困惑したオレは、急いでシャマとリウの手をとって、すぐさまSTP会議室とは反対方向の右側の廊下を走り出した。
その端には銭湯があり、さらに右へと曲がる場所があるのだが、果たして無事曲がれるかどうか……。
階段を封鎖したシャッターを破壊するかのようなインパクトで激突した大男は、すぐさま体勢を立て直して再びオレたちを追いかけてくる。
コイツ……大きいだけじゃない。速さも一流だ。
三〇メートルはあったはずのオレたちの距離は、徐々に縮まり、十メートル、九メートル、八メートル。だんだんと距離が縮まっていく。
ゴツゴツの腕がオレの背へと伸び始め、オレの脳裏が危険信号を点滅させ始める。
どうする、どうする……どうするどうするどうするどうするどうする!?
距離がさらに縮み、オレの服を奴の手が――
「曲がりなさいよ!」
「う、うおぉ!?」
右手で掴んでいたシャマが急に足に力を入れてオレを引っ張り出すものだから、オレの身体がリウを連れて右壁に激突する。
「がはっ……」
その際にオレは顔面を壁に強打する。痛みに二人から手を離し、鼻血が壁を濡らす。
「な、なにを!」
全速力でオレへと向かっていたからだろう。大男は急に目の前から消えたオレに対応できず、そのまま真正面の壁へと激突して穴を開けていた。
凄まじい破壊力。あの大男にもしオレが掴まれていたら一体どうなっていただろうか? もしかしたら、オレごと壁に潜り込む気だったのかもしれない。……と、いうことは!
「マズイ! さっさと逃げるぞ!」
オレは再び二人の手を引いて、銭湯とは反対側の廊下を走る。確か、ここを一直線に進めば食堂に行き着くはずだ。さらにそこを右に曲がれば、勉強室。一旦そこで身を隠すことにしよう。
突発的な考えに焦りを感じながらも、またも右を曲がろうとしたところで――
「……出てきた」
「な、なんて頑丈なのよアイツ!」
リウとシャマが口々に大男の情報を伝えてくれる。
穴の空いた壁から出てくるとは、とんだ化物だ。クローンであるオレをも超えた人間離れした奴。本当に貶され馬鹿にされ罵られるべきなのは、こういった人間のことを指すのではないのだろうか?
空気抵抗をも気にすることなくオレを追いかけてきた大男は、オレが右へ曲がるなり、刹那の如く食堂の壁を壊した。
「はぁっ!? なんだよアイツ!」
荒い息を立てながら、走るオレに食堂から出た大男が押し寄せてくる。
「畜生が! お前ら、先に勉強室の中に入ってろ!」
そう言って、二人を手元から離し、オレは少し距離をとる。奴の狙いがオレということは確実なのだから、リウとシャマを追ったりはしないだろう。
「クローンの分際で、人間様にたてつこうとしてんじゃねーよ!」
オレに狙いを定めた大男はさらに加速し始め、オレが目の前に見えると、右拳を放ち始めた。
「ウオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!」
爆発的な大声。避けるなら、今しかなかった。
強烈な右拳にオレは体を反転させ、ギリギリの間合いで壁に手をつけながら、思いきり壁を押し、勉強室側へと身を投げ入れるようとする。
空気抵抗を知らない大男の身体からは、沢山の風が彼の体の両端から流れ出ている。そしてオレは、その空気の流れを狙った。
壁を手で押したことにより、勉強室側へ倒れるような体制になったオレは、目の前に現れた大男の身にまとわれた凄まじい狂風がオレの身体を思いきり勉強室の内部へと吹き飛ばした。
「ゴヘッ――待ちやがれクロ――」
オレを呼ぶ前に、目の前の封鎖されたシャッターへと激突する大男。そのまま砂煙を撒き散らして姿が見えなくなるものの、どうにか、助かったようだ。
あまりの狂風だったせいか、砲弾のように勉強室へ入り、前方の机をまるごと割り尽くすオレ。最終的に分厚い壁によって動きを止められたものの、今のは流石に効いた。死んでもおかしくないレベルだったからな……。
「ライ、大丈夫?」
床に横たわっているオレに手を差し伸べるリウ。オレはその手を取って立ち上がり、散乱した机を見て大きく息を吐く。
「なんだったんだアイツ……。人間というのは、あそこまで力を引き出せるのか……?」
「いや、あれは異常な気がする」
「そうね、運動を毎日欠かさないあたしですら、あんな速く走れたことも、壁に穴を開けてもケロッとしれたことなんかないわ……」
毎日運動をしていることは偉いことだが、壁に激突したことあるんだな。そこは是非とも気をつけてもらいたい。




