∞42曖昧な決意42∞
「シャッター下ろすよ」
どうしてか、オレがシャマに引きずられてきた先には、黒のキャミソールにひらひらのスカートに身をまとったリウの姿があった。そして、彼女はオレたちを見るなり、付近にある不思議なレバーを上から下に下ろし始めた。
「ええ、よろしく」
リウへと了承の意を向けるシャマ。すると、天井部から巨大な歯車がぶつかり合うような音が響き、漸次それは大きくなり始めた。
何事かとしばらく様子を伺っていたのだが、その正体は目の前に降りてきたもので一目瞭然となった。
ガラガラと、STP会議室の真横の階段を封鎖しようとするシャッターが現れたのだ。しかも、それはそこだけに限らず、父親のいる玄関前も同じように塞がれていった。
と、閉じ込めるという作戦か。
死を目の当たりにしたオレは、今にも吐きそうな気持ちを抑えながらシャマから腕を離してもらって立ち上がる。
クソッ……。アイツは本当にオレを殺す気だった。大男を連れてきたのも、一人ではオレには勝てないという自身の体力を考慮してのことだったのか……? 相手が三人にせよ、シャマがいなかったら危なかった。
壁に安堵の息を吐きつつ寄りかかったオレだったが、そんなオレをシャマが鋭い瞳で睨み始めた。
「……あんた」
今までになかった、激怒の表情ではなく、裏切られたという悲しみの表情で。
「もういい、ここまで来たらいくら馬鹿なあたしでも、あんたの不幸が目に見えるほどわかる。あたしは人の不幸を聞くのが大嫌い。もちろん幸福な話を聞くのも大嫌い。でも、今回はそんなこと言ってられない。あたしとリウに、あんたがどうしてこの島にくる羽目になったのか、教えてくれないかしら」
正々堂々と、面と向かってオレに訊くシャマ。すぐ傍のリウに目を向けてみたのだが、彼女もオレを見つめながらオレの口が開くのを待っていた。
まったく、こいつらは圧倒的にオレより大人だ。自分が嫌なことすらも、状況把握で無理をする。積極的なシャマに、皆から信頼されているリウ。怠惰のオレには遠く及ばない存在の二人になら、オレの不幸を話しても……いいかもしれないな。
内心忸怩たるものを感じながら、オレは父親との関係の全容を明かした。
心臓病で苦しんでいた子供のこと、子供を亡くした父親の激怒のこと、悲しみに溢れていた母親のこと、そして、オレがクローンであることも――。
一語一句余すことなく、オレはシャマとリウに全てを伝えた。
「…………」
黙り込むシャマ。やはり不幸な話を拒絶しているシャマには厳しすぎる内容のようだった。
「それで、亡くなった子供の無念を果たす為、今もまだ戦い続けているということね」
リウがオレの言葉を、一言にまとめた。
戦い続けている……か。別の解釈からしたらそうなるかもしれないが、オレたちのこの永遠に続くであろう戦いは、ただの殺し合い。オレが一方的に狙われるだけの殺し合い。相殺なんてありえない戦いなんだ。
「……オレ、決着をつけてくる」
相殺がないのなら、分かり合えるきっかけを作ればいい。例えそのようなきっかけが存在しないなら、そのきっかけを作ればいい。終わりにしよう。父親との案件を……家族との戦いを――。
「ライ、ひとついい?」
父親たちがいる玄関へと足を踏み出そうとした時、リウの声がオレを止めた。
「なんだ」
「死ぬ気は、ないんだよね……? 決着というのは、自分が死ぬことではないんだよね?」
その疑問に、オレは答えない。
「…………じゃ、行ってくる」
消して振り返ることなく、一歩踏み出した。




