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∞38復讐38∞

「ライ様、何か心当たりはあるのですか?」


 オレの驚きに真っ先に食いつくファーブルのおっさん。


「いや、五人といえば、よくテレビでやっている戦隊ものの人数だろ? もしかしてそいつらがこの島を救いに現れたんじゃねぇのか? やべぇ……興奮してきた……。オレもアイツらに――」


 期待に胸を膨らませたオレをよそに、またしても言葉を遮られたのだが、今回は人ではなく、ファーブルのおっさんの真後ろにある固定電話だった。


「おや、電話とは珍しいものですね」


 そう言いながら、ファーブルのおっさんが受話器を持ち上げ耳元に近づける。その際に急に周りが静かになったのだが、これは電話時のマナーかなにかなのだろうか? 電話中に別人に声を出されちゃ困るからな。こういったことの経験がないオレにとっては、とても勉強になる行為だ。


 と、感心していたのだが、受話器を取ったファーブルのおっさんは、どうしてかオレに受話器を差し出してきた。


「すいませんが、恐らくライ様にお電話かと思います」


 ……オレにお電話?


「いや、オレに電話をもらえるほどの者はいないと思うんだがな?」


 リウでもない。シャマでもない。三○九号室のアイナさんでもない。ファーブルでもない。ならば誰なんだろうか? もしかして、いや、可能性は低いが、断行の島の者ではないのかもしれない。しかし、それはあくまでも理屈に過ぎない。なんたって、あそこにいた町の人間は、オレが断行の島にきたことを知らないのだから。知っていても、アイツらには関係のないことだから。だが、しかし、もしかすると……。


 ファーブルのおっさんに差し出された受話器に手を伸ばすごとに、恐怖心が高まり鳥肌が立つ。


 こんなことを考えてもらちがあかない。


 オレは一度深呼吸の末、意を決して受話器を手に取り、耳元に当てた。


「もしもし……?」


 少々の恐怖に声が乱れる。が、オレの恐怖心は射抜いていた。この電話の主が誰なのかを。そして射抜かれていたんだ。オレがこの断行の島に来ているということを。


『もしもしだって? 随分と様になってきたじゃないか、クローン……。曰く息子を見殺しにした殺人者が!』


 その声は……


「な……なんだよ、なんでお前がこんなところに電話なんて掛けてきてんだよ!」


 恐怖に目を見開き、オレは慌てて受話器を投げる。すると、運悪くか、受話器が固定電話の音声ボタンにヒットし、机の上に叩きつけられた受話器から、皆にも聞こえる音量で、アイツの声が鳴った。


『おいおい、そんなに叩き落とすなって。耳がキーンとしたじゃねぇか~』


 勝ち誇ったような、オレを嘲笑うような声。その声が、問答無用に放たれていく。


『別にお前の居場所を知りたかったってわけじゃねぇんだ。なあに、一度会ったらすぐ帰るさ、まあ、そんときゃお前はオレに殺されてんだけどな~』


 ヒャハハと笑う。そう、コイツは、オレが最も嫌いとする、オレの本体の――つまり本体の親……そう、コイツは五日前の公園で一度殺し合いをした、父親だったんだ。


『あ、命乞いしたいっていーんなら、直接私に会ってしな? 即殺してやるからよ』


 獣のように、殺生、殺生と連呼する父親。


 恐怖心に負け、絶望のあまり膝から崩れ落ちるオレ。

すぐさまリウがオレの肩を掴んでくれるが、絶望心の方が強く、リウへと顔を向けることさえできない。


 やっと幸せを築けるチャンスが来たというのに、またオレは……この家族によって居場所を失う。そして今度こそ、オレは罪ある自分を悔やんで、父親に殺されこの世を去る羽目になる。


「こうなるなら……最初から交通事故で死んでおけばよかった……」


 小さな声で、そう呟く。


 悪いのはオレだ。それは否定できない。否定できないからこそ、頭の中が恐怖のもやに埋め尽くされてしまっている。


 そんなオレを見たファーブルのおっさんは、受話器を取り出し、口元に近づけ申し訳なさそうに口を開いた。


「すいませんが、どちら様ですか? あなたのような者、私どもは受け付けた覚えが――」


『あ~? もしかして聞いてらっしゃったんですか? ちっ、意気地無しが、一人で対処もできないのかよ……』


 舌打ちをして、キレ気味な声を上げる。が、それを聞いたファーブルのおっさんは、メガネを光で反射させ瞳を輝かせた後、思いきり息を吸い込んで大声を吐き出した。


「いい加減にしなさい! いくらあなた様が言おうが、こちらとしては他人を侮辱するような言動は言語道断。許されません」


『あぁ~、うるせぇ~! 鼓膜破るつもりか?』


 ファーブルのおっさんの怒りの乗った声に奇声を発する父親。が、しばしの後、不敵に笑いながら最後の言葉を放った。


『じゃあ、もうすぐそっちに着くんで、殺されたくなけりゃ……早くそのクローンを私に渡せ!』


 後半から抑揚を上げ、聞こえそうなほどの音を立てて電話を切られる。


「待て! 誰がそんなことをするか!」


 ファーブルのおっさんの怒声も虚しく散っていく。釈然としないファーブルのおっさんが、不快な顔をして受話器を固定電話に置き直したところで――


 ズシ――――――――――ン!


 STP会議室ではなく、その先の廊下側から大きな音が鳴り響いた。


「な、何事だ!?」


 廊下側から沢山の人の悲鳴が聞こえ、それは次第に大きくなってくる。


「ちょ、なんなの!? 急にみんなどうしたのよ!」


 謎の大きな音に二番先に驚いたのはシャマだった。


「……もしかして、電話通りに――」


「あ、ああ……リウの言う通りだ。恐らく……」


 父親が、このセントパル塔にやって来たのだろう。一本の電話を残して、オレに復讐をしに……。


「と、とりあえず、皆様は急いで逃げてください。何があったか私が見てきます」


 ファーブルがオレとリウ、シャマ、二人のメイドを逃がそうとするが、何があったか見てきますだって? そんなの、何があったかなんて一目瞭然じゃないか。


「すまん……オレが行く」


「ライ様!?」


 崩れ落ちていた膝を上げ、STP会議室を走り廊下に出る。後からファーブルのおっさんもついてきたが、オレは足を止めファーブルのおっさんの方へと目を向けた。


「すまんが、この島には警察みたいなものはいるのか?」


「ええ、おりますとも。それではライ様――」


「いや、オレじゃなく、あんたが電話してきてくれ。おそらくあの大きな音は電話の主がやった音だ。オレが関係者な以上、オレが行くしかないだろ」


 ファーブルのおっさんに強くそう言って、廊下で激しく混乱している人々の下へ掛ける。生憎逃げ惑う側はオレとは反対方向なので、一対複数の競り合いとなる。が、当然のこと複数対複数でない以上、オレに関わるまでもなく、端で固まったオレを避けることなくファーブルのおっさんの方まで進んでいった。


 この状況を打破するには、ファーブルという人材が必要なのだろう。


 オレは、全ての人がファーブルのおっさん側に集まったのを見るなり、一人だけ逆方向に向かった。


「ちょっと、待ちなさいよ!」


 玄関方面へ向かおうと再び足を動かそうとした刹那――オレの腕を一人の少女が掴みだした。


「あんた、一人でどこに行くつもりなのよ! 今の音あんたにだって聴こえてたでしょ? ちょっとは自分の立場ってものを考えなさいよ」


 オレに鋭い視線を向けるシャマの瞳は、何故か本気のように見えた。


 だが、どうしてオレがわざわざ危険な場所に向かっていることくらい想像がつくだろうよ。考えるのはオレではなく、シャマの方なんじゃねぇか?


「これは予想……いや、確実的な予想なんだが、今の音は何かの爆発音で、きっとそこにいるのは、オレの………………………………父親なんだ」


「え……」


 オレの言葉に、シャマの瞳が大きく開かれる。だが、恐らくシャマの解釈はオレの解釈とは違ったものなのだろう。なんたって、ここは不幸者の集まる断行の島。そこに親が現れるということは、その親が子供を引き取りに来た。それが一番ありうる行動なのだから。だからして、オレの不幸を知らないシャマにとって、父親がオレを殺しに来たなんてことは、まったくもって思えないことなので――


「よかったじゃない。これであんたも晴れて不幸者じゃなくなるのよね。うん、凄いことだわ」


 ニッコリと微笑ましい表情をしながら、こういった発言になってしまうのである。


 だが、今はこういった認識をしてくれた方が好都合だ。


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