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∞37STP会議室37∞

 オレは、電話の主であるファーブルのおっさんに「ああ、時間なら空きまくってる」と答えた。


『そうですか。失礼ですが、どうしてもひとつ疑問に思うことがあるので、一階の玄関からまっすぐの『STPセントパル会議室』に来ていただけないでしょうか? 大きな部屋なのですぐに見つかると思います』


 疑問に思うことがある? あのファーブルのおっさんに疑問を抱えることができるのか。それ以前に、どうしてオレにそんなことを……? もしかしてオレ関連か?


「ああ、あんたの頼みなら速球で行くしかないな」


 疑問について聞きたいのは山々だが、それはSTP会議室とやらに行ったあとにしよう。


『はい、ご迷惑をおかけします』


「いやいや、ご迷惑をおかけしてるのはこっちのほうだ。すぐ行くから電話切るぞ?」


『ええ、それでは』


 受話器を固定電話の元あった位置に戻し、部屋の証明を消したあと、オレは廊下を走る。生憎オレの部屋からエレベーターまでは結構な距離があるからな、走らなければさらに待たせちまう。


 額に汗を垂らしながらエレベーターに乗り、一階のボタンを押す。


 でも、何故オレに用があるのだろうか?


 一階についたエレベーターから身を投げ、一度近くの玄関に足を踏み入れ、そこから見える真っ直ぐな廊下を歩き出す。


 廊下の奥まで来た頃だろうか、目の前には国会議事堂の本会議室を超えんとばかりの大きな扉が立ちすくんでいた。


「で、でけぇ…………」


 一階は他の階よりも断然広いのか、ここまで大きな扉を見たのは今日が生まれて初めてだ。


 オレは、両手を胸元辺りにもっていき、意を決したかのように大きな扉を思いきり引いた。ガラガラと音を立てて、STP会議室が全貌を表す。


 金でできているのか、数百と天井に立ち並ぶシャンデリア。両端には大きな窓ガラスがあり、夜だからか半分ほどを純白のカーテンで閉めきっている。オレの目の前には、勉強室にある机と同じものが、軍隊のように沢山整列していた。そして、一番奥には教壇というのだろうか? 全ての机と並べても一際大きく、目立つ存在の机が置いてあった。それはまさに例えるなら国会議事堂、本会議室そのものだ。セントパル塔には、本会議室というものがあるのか。


 しばらく考えようもなしに辺りを見回していると、STP会議室の後方、つまりオレから見て左端のところに、ファーブルのおっさん、リウ、シャマ。そして二人のメイドがなにやら会話をしているのを見かけたので、オレはすかさず足をそちらに動かした。


「おお、やっと来たぜ。ファーブルのおっさんは説明上手だな」


「ライ様、お待ちしておりました」


 オレに気づいたファーブルのおっさんは、自身の目の前まで来たオレにお辞儀をし、続いて残りのメイドも頭を下げた。


 こう見ると、なんだかオレが偉そうな人に見えて気分が釈然としない。


 オレは後ろ頭を掻きながら、ファーブルのおっさんを見つめる。


「失礼、実はですね、この断行の島に不法侵入をしたという人物がいるという噂があるのですが、この島に最後に訪れたあなたではないかという情報がありまして……念の為この島で国籍を作られたかどうかお聞きになりたいのですが」


 申し訳なさそうに言うファーブルのおっさんの言葉は、オレには理解できるものではなかった。


 国籍を作る? オレがこの島に連れてこられた以後から、そんな話は一度も聞いたことがない。なので、急にそんなことを言われても困るというものだ。


 オレがしばらく口を開けずに黙っていると、何故か呆れ顔でファーブルのおっさんにため息をついたリウが、オレの代わりに口を開いた。


「あのね……前にも言ったと思うけど、私がライの国籍を作っておいたって言わなかった? それに、国籍があってもなくても私が知っているのならそれでいいの」


「お、お嬢様が国籍を……? それはご迷惑をおかけしました。これは私の間違いだったようですね」


 ぎこちなく笑みを零すファーブルのおっさん。しかし、それを聞いて今度はシャマが疑問を抱き始めた。


「あれ? ライが不法侵入者じゃなかったら、誰が侵入者なの? ライがこの島に来るまでは一切たりとも侵入者の情報がなかったのに……」


 シャマの疑問に、リウを初めにオレたち全員が疑問を抱く。


 この島に来る方法といえば、オレのようにファーブルに連れられる。あるいは、自力でこの島まで泳いで来るの二択しかないのだ。飛行機という選択肢もあるのだが、それでは誰かが気づき、飛行機が着陸したという情報が島中に響き渡るはずだ。というかそれ以前に、ここは七年前から既に忘却された島。このような島に飛行機が降り立つことはありえないのだとすれば……。


「なあ、オレをこの島に連れてきたとき、それってオレだけだったのか?」


「……はて? よくわかりかねますが……」


「あー……つまり、オレがこの島に連れてこられた時、同時に別の誰かがオレと同様にこの島に来たかどうかってことだ。もしいるのならば――」


「いえ、それはいなかった」


 オレの言葉を遮ってそう答えたのはリウだった。


「あの時私も同行してたから、ライだけが連れてこられたのには間違いは無い」


 くっ……そうなのか。だったら侵入者とはだ誰なんだ? リウがオレではないと断言している以上、オレだという確率は間違いなくゼロだろう。


「じゃあ、不法侵入者って誰なの? もしかしてそれ自体が嘘の証言ってこと? もしそうなら、あたしが直々にその証言した奴を懲らしめてあげるわ」


 ガッツポーズをしながらそんな恐ろしいことを口走るシャマ。だが、確かにそれは一理あることだ。その証言をした人物が嘘をついている可能性も考慮しておかなければならないのだ。


「あ、あの……」


 不法侵入者の行動を頭の中で試行錯誤していると、不意にふたりの中の一人のメイドがぎこちなく手を上げ、シャマに向かって潤んだ瞳を向けてきた。


「な、なによ……」


 その瞳を見て困惑するシャマ。急に涙目で見つめられては、誰だって動揺や困惑の一つだってするだろう。オレだってそんな経験はある。


 確か五ヶ月前の早朝だったか、オレが滑り台の上で寝転がっていた時だろうか、急にオレの前に現れた小さな女の子が、可愛らしいうさぎの人形を抱えて涙目で見つめられていたことがあるんだ。あの時どうして見つめられていたかは皆無だが、ああいった見つめられ方をするのはなんだか癪に障ったものだ。


「その……私は嘘をついておりません」


「へ?」


 急な発言にさらに困惑するシャマ。それを見てか、すぐさまリウがなにか理解したようで――


「もしかして、あなたが不法侵入者を見つけたという証言者?」


「は、はい……。それで、その……確かに見ました。五人……」


「ご、五人!?」


 新たな証言に驚いたのはオレだった。


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