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∞36再びの手紙36∞

 午後七時。二時四十分頃に別れたオレは、脚も治ったばかりだからか、部屋についたと同時にいつにも増した脱力感を覚え、ベッドに横になると即急に寝入ってしまった。しかし、昨日のように残りの一日を全て睡眠に犯すことが無かったオレは、とりあえず崩れた髪を指で直し、よろよろとベッドを立ち上がった。


「……」


 寝起きはどうしてこんなにもしんどいのだろうか? 夜の睡眠はともかく、昼寝などの休息などになると頭に尋常ではないほどの痛みが襲いかかってくる。


「あー……とりあえず顔洗ってくっか」


 寝ぼけ眼を擦りながら、照明を付けっぱなしにした部屋をあとにする。生憎部屋にはトイレが用意されておらず、廊下を出た先の旅館丸出しのトイレに行くしかないのだ。すなわち、顔を洗う時も同じことだ。もっと過酷な生活を送っていたオレには別に大した不便もないが、慣れない場所になれない行動をするのがキツイのだ。


 あくびをしながら付くなり、トイレと顔を洗って部屋に戻る。すると、今朝も見かけた、照明の光に反射して机の上で輝くものが見えたので、戸を閉めてそれを取りに足を動かす。


 見ると、いつの間に送られてきたのか、お隣の部屋にいるアイナさんからの封書があった。それも一枚ではなく二枚だ。


「すぐ寝たから気づかなかったのか? それとも今送られてきたのか?」


 片腕を後ろに回し、凝った肩を揉む。アイナさんがいつこの封書を送ってきたのかは甚だ疑問を覚えるが、今は何よりも封書を開封して中身の手紙を早く見たいという欲望のほうが断然強く、オレは舌を半分出して慣れた手つきで封書をビリビリと破った。


 中からは、一枚の折りたたまれた虹色の手紙が入っていた。


 今朝に拝見したとはいえ、オレが書いてからたったの七時間で二枚もお手紙をかけるなんて、神の領域を超えている。オレなんて一行書くだけで二時間は手間がかかる。


 折りたたまれた手紙を手に取り、破った封書を机に置き、手紙をそっと開いた。




〈こんばんは、アイナです。

 今朝はお手紙を返してくれてありがとうございました。もしかして返ってこないんじゃないかとギクシャクしてました。

 ところで、また勝手にお部屋に侵入しちゃってごめんなさい。でも、お部屋の掃除は一日たりとも欠かしちゃダメですよ? いったい机の上に何を置いているんですか? 〉




「机の上?」


 手紙を読むのを中断し、オレは自身の机に目を向ける。が、別にたいしたものなどない。あるものといえば、元からあった鉛筆に消しゴム、ノートパソコン、色々な資料。他にはタンスの中にあったパンツだけだ。これのどこにおかしなものがあるのだろうか? 特に拳銃というものもあるわけではないのに……。


 頭の上に疑問符を浮かべつつ、仕方なしにと再び手紙を読み始める。




〈――――――――。

 と、そんなことよりなんですが、もしかしてあなたは国語が苦手なんですか? 誤字脱

 字がとても多かったですよ? もっと勉強しないと! ウフフ♪〉




「……」


 国語を勉強……そんなことを言われても仕方がない。オレは小さい頃……はあったかも知らないが、学校にも通っておらず、勉強も乏しかったんだ。今から勉強室で沢山勉強すれば、数学や物理、政治にまで手に取るようにわかることが可能になるかもしれないが、なんせ一人で勉強室に行くのは心寂しいってもんだ。クローンでも寂しいことくらいあるのは当然なんだ。人間の遺伝子で作られているんだからな。


 アイナさんからの手紙を破ったばかりの封書に入れ、もう一枚の封書に手をつけようとしたところで――


 プルルルルル――プルルルルル――


 真横のノートパソコンよりさらに右側にある白の固定電話が鳴り響き、驚きのあまり後ろにジャンプしてベッドに倒れ込む。


 ど、どうしようか? 電話が鳴っている。しかし、オレがとってもいいのか否か。いくら自分の部屋だからって、やっていいこととダメなことくらいはあるだろう。が、しばらく電話を流して誰かが来るのを待ってみたが、いくら待っても来ないので、一三回目のコール後にベッドから立ち上がってつい受話器を上げてしまった。


 緊張な面持ちで、取った受話器を耳に当てる。


「ぁーぇーとー……」


 あまりの緊張に喉から声が出ない。だが、オレは電話の主から発せられた声で、緊張がすんなり解けることとなった。


『もしもし、ライ様でしょうか? お急ぎでしたらすいません。ファーブルです。ただいまお手は空いてますでしょうか?』


 どうやらファーブルのおっさんだったようだ。こんな不幸者のオレに様を付けるなんて、どれだけ親切気を持っているのやら……


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