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∞32心理戦32∞

 さて、まずは何を口に入れるか……軽い野菜にするか、重い唐揚げにするか……。オレの考えではまずは軽い野菜からにすべきだ。軽いものはその名のとおり軽いので消化が早い。対して、重い唐揚げなどは消化が遅い。その面でやはり軽いものから食べた方が腹は膨れないと予想する。が、果たして最後に残った重い食材を食べきれることができるのだろうか? オレにはそれは不可能だと見て取れる。


 だからして、オレの選択肢は一つとなった。軽いものからが辛いなら、重いものから行くしかない!


「先行もぉ――らい♪」


 スタートと同時にシャマの突き出された箸が、自身のおかずである野菜炒めに伸びる。


 へっ、馬鹿め。わざわざ野菜、軽そうなものから口に入れようとするなんてな!


 オレは、寸分箸の動きを遅らせ、シャマが野菜炒めを掴んで口に入れたと同時に、唐揚げを突き刺して頬張った。


 刹那――オレの胃袋は限界を迎えた。


「うおぉぉ……ギ、ギブアップ……」


「はい?」


 試合終了。即効敗北。


 あまりの速さに、野菜炒め一口で勝利したシャマは、オレを呆れたような目で見ていた。


「あんた……よくそれでこのあたしと早食い競争なんてしだしたわね? アホなの? それとも馬鹿なの?」


 ギリギリの敗北でも勝利でもないオレは、敗北と同時に呆れた表情のシャマに貶され始めた。仕方がない。こんなあっさりとした戦い、勝った方は誰だって貶し始めるだろう。


「もう……だから胃袋のことを考えて早食い競争なんてやめたほうがいいよって言ったのに……」


 量が量であったためか、綺麗に完食を終えたリウは、お手拭きタオルで口の周りを綺麗に拭き、素っ気なくオレに言っていた。そんなこと一切言われていないんだがな。


 勝負に負け、挙句に腹の膨れたオレは、一人でに黙々と飯を口に運ぶシャマを見つめる。口が動くにつれて、赤いショートの髪が左右に揺れる。しばらくシャマの食べっぷりを見ていると、食器を音を立てて机に置き、手を合わせて「ごちそうさま」と言っていた。


「早いな……一体何分で食べ終えたんだ?」


 あまりの速さに身の毛が引く。というか、オレまだ食べ終わってないんだけど、いつものように子豚ちゃんに上げることにしようかな?


 そう思ったオレは、仕方なく、本当に仕方ないという思いで、両手を揃えた。


「あっれ~? もう食べないの? 男のくせに情けない」


 シャマがオレの行動を見て大笑いする。


 ムカつくが、ここは一旦落ち着こう。そう思ったのだが、やはりオレの精神は左右されやすいようで――


「そこまで言うなら食ってやるよ!」


 揃えたばかりの両手を振り切って、右手に箸、左手にご飯茶碗を持ち、白米を豪快に頬張った。


 刹那――あまりの気持ち悪さに喉がやられ、机にうつ伏せになる。


「あっら~……これは重症ね。もうお腹がいっぱいなら行きましょう? こんなところにずっといると、もっと食べちゃいそうだから」


 シャマはどうやらまだ食べられるようだ。しかし、スタイルのためかこれ以上は控えている。対してオレは全然食べないが、スタイルのためなどではない。ただ食べられないだけなんだ。


「ああ……もう行こう」


 表情を曇らせ、よろよろと座布団から立ち上がるオレ。それに続いて短いスカートに付いたシワを整えているリウとシャマが立ち上がり、オレの残した食事を放って六畳間から靴を履いて出、食堂を後にした。


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