∞31早食い対決31∞
「いや、お前がリウに昼飯一緒に食おうやらなんやら言ったんじゃないのか?」
「え? あたし? …………そ、そうだったわ」
一瞬疑問に思ったシャマだったが、即座に記憶を辿り思い出す。
なんというか、コイツはオレの第一印象から見て、ただのスポーツ馬鹿にしか見えないんだが……。ボサボサになった髪を持参のクシで整えながら、強い瞳を困らせるシャマ。正直言って髪をボサボサにしたのはオレだ。しかし、それを謝ろうにもなかなか謝れない。
「ほら、ボケっとしてないで飯食おうぜ? オレ腹が減って力が出ねぇよ」
腹から巻き起こる雑音を響かせながら、ぐったりする。
「……じゃあ、食べながら話そっか」
リウの提案にオレ、シャマ二人が乗り、三人一斉に手を合わせ、口を揃えて言った。
「「「いただきます」」」
多少シャマがノリで別の言葉を言うのかと思ったが、なんと普通に合唱していた。食べ物では遊ばない。それがシャマの習わしなのだろうか? まるでオレのようだな。
白米の入ったお茶碗を手に取って食べようとすると、目の前に座っているシャマが強い目を細め、オレの食事に注目していた。
「なんだ? 悪いが特に差し出せるもんはないぞ?」
「いや、そうじゃないわよ。というか欲しかったら自分で取ってくから」
「そうか……」
そういえば、ここは普通と違ってバイキング制。無限の料理に囲まれているんだ。欲しければ人から貰わずとも持って来ればいいだけのことなので、あげる必要もないんだ。
箸で掴んだ白米を口に入れ、今朝と同じ野菜炒めを口に入れて白米と絡める。無味の白米とコショウの入った辛めの味が混ざり込み、オレに美味を体感させてくれている。
「って、あたしが言いたいのはそうじゃなくて!」
少しの間を置いて、まだ寝ぼけていたのか目を擦りながらオレに向かって顔を突き出してくるシャマ。生憎シャマは何も口に入れていないのでご飯粒とかが飛ぶことはないが、食事中はもっと静かにできないもんかね?
オレは眉を八の字にして口を動かしながら表情を曇らせる。
「で? お前は何が言いたいんだ?」
重要なことなのだろうか? 口にものを入れて話してしまったせいか、ご飯粒が一粒机に落ちてしまったので、拾って再び口の中に入れる。
シャマはオレの口から零したご飯粒を見るなり冷静に戻り、自分の座布団に正座し、ひとつため息をついたあと箸に白米を掴んだまま口を開いた。
「あんた、そんなに食事持ってきてホントに食べれんの?」
白米を一口食べるシャマ。
なんだろうか、かなりどうでもいいことだった。だが、どうやらオレはシャマに胃袋を舐められているようだ。オレの食事の量を心配するシャマだが、彼女も彼女でオレ並みの食事を持ってきている。
スポーツ系女子には大量の食事が必須なのだろうか? 関取やボクシングは重要だと思うが、スポーツ系女子のほっそりとした体つきからして、食事を大量にとるというイメージはない。
「おいおい、オレの胃袋を舐めてもらっちゃ困るぜ? このくらい楽勝さ」
箸を持った手を半分挙げ、自慢げにカチカチ鳴らす。
「へぇ~、じゃああたしとどっちが早く食べ終われるか勝負しない?」
机に両肘を付いていやらしそうな表情でオレを見つめるシャマ。対してオレはその言葉を聞くなり箸を下ろして額に少々冷や汗をかいた。
別に早食いで負けそうだからという意味ではない。オレの気にしていることはあくまでも健康上の問題だ。食事はちゃんと噛まなければ胃袋に溜まる時間が長くなる。それに一気に食べることで本来の食事の味を楽しめず、満腹感は満たされるものの、味の感想でも聞かれれば真っ先に答えられなくなってしまう。
「何言ってんだ、食事というものはよく噛んで味わって食べるものだ。それを早食いやらなんやらで贅沢に食い荒らそうとしやがって……お前は鬼か? 食事の鬼なのか?」
変顔をしてシャマに向かって軽い罵声を浴びせるオレ。しかし、それに切れたのか、こめかみの上辺りにムカつきマークを浮かび上げ、強い眼をさらに強める。
ど、どうやら怒らせてしまったようだ。
と思ったが、ただ怒りを表情に表しただけのシャマは、呆れたようなため息をついたあと、負けず嫌いかなんなのか、またもオレをいやらしい表情で見つめるシャマ。
「なに? もしかしてあたしに負けるのが怖いの? まあね~、あたし早いから、あんたみたいな馬の骨に負けるはずもないわね」
イライラ。
言っておくが、オレの精神は物事に左右されやすい。なので、こういった軽い挑発にも、めげずに向かってしまう特性があるのだ。別にクローンだからというわけじゃないと思うが……。
「あ? だったらやってやろうじゃねぇか! お前こそオレの速き高速で神速な力に魅了されんなよ!」
「……どんどん早くなってる」
シャマの隣で黙々と少量のおかずを食べているリウが密かに発言するがガン無視。対してオレはシャマを睨む。それを見たシャマもオレを睨み、目と目の間にはものすごい火花が散っていた。
やばい。昼食がとんでもないことになっている。流石にこの御時世早食い競争をしたことがないオレにとって、これが初試合となりうるのだが……果たして勝てるかどうか。
「それじゃあ、準備はいい?」
右手に持った箸を強く鳴らし、邪悪な笑みを浮かべるシャマ。打って変わってオレは白米に箸を刺し、格闘技のような戦闘態勢に入る。
「えーと……早食い競争なのよね?」
オレの体制に疑問を持ったシャマに「ああ」と伝え、オレは白米に突き刺さった箸を右手に持ち、戦闘態勢を保った。
「そ、そうなの……じゃあ、気を取り直して始めるわよ!」
オレたちの間で緊張が走る。仕方ない。早食い競争というのは、ただ早く食べ終わろうと考えるだけでは絶対に勝てないのだ。なので、一番先に考えることは、まず何から口に入れるかということなのである。
「それじゃあ、スタートッ!」
シャマの掛け声とともに、オレたちの早食い競争は始まった。




