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∞29殺意の決定打29∞

 人は皆弱い。しかし、それは人に限ることだ。動物は人間と違い、仲間と協力、信頼して行動している。しかし、人間にそれは不可能だ。他人が怪しい行動をすれば、自分はそいつを怪しみ、自分が怪しい行動を取れば、他人が怪しむ。そうして人と人との付き合いのバランスは崩れていって、いずれ、崩壊する。


 しかし、それは人間に限ったこと。そんな感情、本来ならば人間しか用いていないのだ。だから、クローンが我が子を見捨てるはずなどなかったのだ!


 太陽がまだ頂上に上り詰めていない頃、私は家から持参してきたビール瓶を振り下ろし、公園を出たすぐの道路で、瓶を叩き割った。


 パリンッ!


 瓶が割れ、私の左腕を掠めるように破片が飛び散る。


「親方! 冷静になってください!」


 私はすでに酔っ払っている。今目の前にあのクローンが表れでもしたら、真っ先に懐に忍ばせておいた拳銃で心臓を打ち抜くだろう。しかし、できればそういうのはしたくない。やはり私の子を奪った罪はでかく、一発で死んでもらっては意味がないのだ。もっと私を楽しませるべく、皮剥や、切り刻み……アイツに恐怖を与えなければ気が済まないのだ。


 私は破片で掠めた左腕に激痛ではないが痛みを感じ我に返った。


「あ、ああ……冷静だ。冷静になった。それより、まだアイツは見つからんのか? 早くせねば本当に逃げられるぞ?」


 我が子を見捨てて逃げるなど逃亡者同等だ。逃亡者には逃亡者らしく、私が死の鉄鎚を下してやる。


「すいません、それが、やはり公園近くの道路にも手がかりがなく……」


 タオルを首に巻いたスキンヘッドが状況を報告する。しかし、やはり耳寄りな情報などは入ってこない。


 これが私の限界か? 私はまたアイツを取り逃がすのか? そんなのは許されないことだ。


「ならば、この町一帯の見物を探せ! くまなく探して――」


「もう……探し終えました」


 私の言葉を遮って、更なる絶望への情報を下す別のスキンヘッド。その言葉を聞いて、私は足を崩し地面へと倒れこんだ。こんな現実、許さない。こんな世界滅茶苦茶にしてしまおうか? 


 雲一つない快晴の空。雪も完全に溶けて暖かみが増した今日、私は絶望――


 その時、地面を思い切り殴ろうとしていた私の手に、何やらのしかかる違和感を覚えた。すぐさま自分のこぶしを握り締めた手を睨み、舌打ちをしたところで私の動きは止まった。私だけではない。残り五人のスキンヘッドも、私の腕に落ちたものを見て唖然とした顔で固まっているのだ。


 なんだろうか? 神は私にチャンスをくれているのだろうか? 神は、まだ私を見捨てていなかったのだろうか?


 手に落ちたそれを掴み取り、膝を曲げて眺める。古い、一年以上前のチラシだ。それがどうしてか、空から私の手へと降りてきたんだ。そして、私はチラシに書いてある赤文字の大きく書かれた文を声に出して読んだ。


 不幸な人生はもういやだ。そんな人々が暮らせる唯一の街。


「『海街へ……ご招待……?』」


 このチラシには、その海街、もとい断行の島の場所や、島内の施設が描かれていた。私がしばらく黙って眺めていると、タオルを首に巻いたスキンヘッドが何かを思い出したかのように、口を開けて叫んだ。


「なんだよ、大きい声を出すなよ……」


 隣にいるスキンヘッドがタオルを巻いたスキンヘッドの肩を叩く。


「いや、思い出したんだよ」


「何をだ?」


「日本列島、東側の太平洋に位置する島、断行の島についてよ?」


 その言葉に、私は顔を上げた。私の行動にスキンヘッド全員が振り向き頭を傾けるが、私の持っているチラシをそっと取り上げて皆で見たあと、何かを確信したように私に頷いた。


 その姿を見て、私も頷き立ち上がる。そして、空を見上げるなり口元が緩みだした私は、もう笑いを我慢できなくなっていた。


「はは……はははは……」


「お、親方!?」


 急に笑い出した私を見て、スキンヘッド共が驚く。無理もない。さっきまで絶望感に満ち溢れていた奴が急に笑い出したんだ。驚かない方がおかしい。


「なんだよ……ははは……ははははははははははっ!」


 スキンヘッドたちが私をぎこちなく止めようとするが、生憎私は止まらない。この上ない嬉しさ。身も心も救われたような安心感。今の私は、誰からも、私から見ても、まさに暴れ狂う獣のようだった。


「うらぁ! あはは、ははははははははっ!」


 近くに落ちている割れた瓶の大きな破片を腕の怪我など気にせず握り、公園に向かって思い切り投げる。


「もう私からは逃げられないぞ! クローンがぁ! ははは、はははは! お前ら、私たちも行くぞ! 不幸者の集まる、断行の・・・・へ!」


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