∞23感じてしまう幸せ23∞
次の日――
カチッ!
「のわふっ!」
心地よい、モフモフなベッドで寝ていると、何やら下半身に違和感を覚えたので、オレは声を上げて即座に布団から飛び起きた。
な、なんだったんだ今のは……? 何やら悪寒を感じる。と思っていると、オレの足元の布団から、昨日と同じ、黒のひらひらが付いたキャミソール姿のリウが、ゆっくりと顔を出して来た。頬を真っ赤にして。
「…………」
「ん? なんだ?」
「……おお…………」
おお……? 動揺しているのか、目まで回しそうな表情で急に謝りだした。
「ごめんなさい、なかなか起きなかったから……。ビンタもしたし、こちょこちょも……それにエイッ! て、かんちょうしても起きなかったからつい……触ったら、起きるかなと思ってたんだけど……そんなにだったとは知らなくて…………」
リウが謝っていることがオレには理解できなかった。何について謝っているんだろう? 今起こしたことかな? 確かに若干下半身に違和感を覚えたものの、多彩なことではない。それに起こしてくれたなら謝るではなく、感謝するのはこっちの方だ。
「いや、謝んなよ……それより、ありがとな」
「へっ!?」
赤面しきったリウが素頓狂な声を上げる。何をそこまでリウを困らせているのか……。別に起こしたことに責任を感じているなら、気にしなくていいんだがな。
パニック状態のリウを微笑ましいと思いながら、オレは机の上に置いてある時計を目にした。公園暮らしをしていたオレにとって、遠くを見るのは造作もない。なんたって視力は普通にいいんだからな。
が、オレはディジタルの時計を目にするなり、ベッドの上を立ち上がって発狂した。
「おい、ちょっと待てよ! 夕食の時間に起こしてくれる約束だったろ! なんでもう朝の六時三十二分なんだよ!」
頭を抱えるオレ。こんな形で、オレは大切な一食分の食事を無駄にしたんだ。
発狂するオレを見ていたリウは、リンゴ色に染まった頬を落ち着かせ、元の白い艶やかな肌の状態に戻った。
「だから、ライが起きないから……何度も起こしたんだよ?」
いつものおっとりとした口調。しかし、そこには何か刺のような声色が見えた。
「な……何度もか……」
「うん。でも起きなかったから、今の今まで寝かせておいたの」
くっ……起こされても起きなかったのか。それはオレの責任だ。比は全てオレにある。そう思ったオレは、ため息をつきながらふと思った。
オレ、足治ってね?
気がつくと、オレは松葉杖無しでベッドの上を立ち上がっていた。どうやらすっかり治ったようだ。昨日の食事と、今までの睡眠が力になってくれたのかな? オレは、昨日頂いた味噌汁少々と、蟹の足一本に感謝しながら、冷静になって布団から身を投げだした。
「まあ、いいか。それに腹が減った。朝飯食べに行こうぜ!」
そうリウに言うと、「子供ね」とかなんとか言いながら、駆けていくオレの後ろに続いて部屋をあとにした。
まるで一昨日のことが夢のような気がする。オレは本当に公園で辛い人生を歩んでいたのだろうか? 本当にオレはクローンなのだろうか? 日が経っていくうちに、オレは負の感情が飛び去っていくような感覚を覚え、幸せを感じ始めていた。




