∞16 1000/1 16∞
「って、ここが十階か!?」
足を踏み入れるなりオレは大きな声を上げた。その拍子に既に意味をなくした涙が溢れてきて色々おかしな場面状況に変貌したが、今オレの顔を説明するのも面倒くさい。それより十階の景色の方が今はやばいのだ。
「ここって感動するの?」
オレの表情を見たリウが顔を傾けながら訊いてくる。
「いや、オレの顔は気にしないでくれ……」
気にされてもどうしようもできない。オレの溜まりに溜まった涙は出尽くすまで流れるんだからな。
それにしても……何だここ? フロアの大きさは別に五階と異なる部分は無いように見えるのだが、オレの気にしているところはそこではない。明らかに改造が成された形相の数々の戸、白の壁に二メートル感覚で支えられている木の間には、複数の太いパイプがたち並んでいる。床にも糸にしか見えないコンセントが散らかっており、どこからどう見ても
「実験? それとも科学者でも住んでんのか?」
というほど実験道具が置いてありそうな場所なのだ。
「ええ、十階は街の新たな進化を遂げるための場所。科学者の拠点地よ?」
「へ……へぇ……」
セントパル塔にはそんなところがあったのか。十階にしたのはある意味正解な気もするが、そこはそこでセントパルとどこかで分ければよかったんじゃないか? なんだかセントパルに傷をつけるな、この施設は。
「まあ、そんな些細なことはいい。それより、鐘へはあそこから行けるよ」
この十階のことをあまり話したくないのか、そう言ってオレに向かってすぐ傍の……エレベーターの戸のような場所を指差すリウ。なんだろう……この白銀の戸……まさか鐘の場所までもエレベーターで行けるというのだろうか?
気になってリウに指差された戸をそっと開けてみると、オレは思いもよらない光景に目を見開いた。
「な、なんだこれは……」
雲一つない輝かんばかりの青空。下には沢山の街が蟻のように小さく見え、人々が見えないほどである。心地よい風が吹き通り、オレの髪を優雅に揺らす。オレは今、風にあたっているのだ。戸の向こうはオレの思っていたようなただの階段ではなく、何もない、断行の島を綺麗に映し出した空間だったのだ。
「って、階段はどこだよ階段は!」
オレは、飛び出さなかったから良かったが、長く続く下を見て鳥肌が立ち、後退しながらリウに言っていた。
「あるじゃない。ライの足元に」
「え?」
何もない空間を指差すリウ。気になって再び歩み寄ると、リウの言葉通り、さっきまでいた戸の前には、微かだが見える透明な階段があることに気づいた。
「うおっ! ホントだ!」
それを見てさらに驚くオレ。なるほどな。こんな階段が千段続いているということか。そしてその上に鐘が……とてもと言わんばかりにお宝がありそうな雰囲気を醸し出しているが、それを教えてもらう前にオレは階段を全て登りつくすことにしよう。
両脇の二つの松葉杖を透明な階段に付け、腕に力を入れて力いっぱい一段を登ったところで、リウの方を振り向いて動作を止めた。
オレが見た時、リウはしゃがみこんでいて、オレの目と合うと「なに?」と柔らかな声で聞いてきたものだから、不意に本音が溢れ出てしまった。
「もう疲れた。つーか足が痛いや」
この階段、思ったよりも高さが高い。こんなの怪我をした足で登れるようなもんじゃないだろう。そう思ったオレは、登ったばかりの階段を一人でに降り、戸を閉めてリウの下に松葉杖を付きながら並んだ。
「えーと……」
どうしようか悩むリウ。
「鐘まで行くのはやめよう。そ、それより風呂に入りてぇな~」
少々動揺の表情を見せながらオレが言うと、「わかった」と言って、二人でまたも同じエレベーターに乗り、一階にあるという銭湯目指して降りていった。
――今回の成績、千段中一段登ることに成功――
鐘への到達はどうやらまだまだ厳しいようで……。