∞13落ち着く心13∞
「心が落ち着いたみたいだね」
少女の笑みに、オレは少々羞恥心を感じながらそっぽを向く。正直、こんなに泣きじゃくんだのは初めてかもしれない。いつもオレは一人だったからな。泣く意味もなかったんだろう。ずっと強がってたんだ。弱みを見せないように頑張ってたんだ。
「どう……? 落ち着いた?」
少女が首を斜めに傾けながらオレに優しく訊く。
「あ、ああ。おかげで楽になった、ありがとう」
オレの口から、初めてありがとうという言葉が出た。既にオレの表情は曇った表情ではなく、しかしにこやかではないが落ち着いた表情になっている。神様も神様だ。最後の最後にオレを絶望の淵から救ってくれたんだ。あのまま交通事故で死んでたら、こんな解放された空気、一生味わうことはできなかっただろう。その点に関してはいい奴だと改めて思ったよ。
「うん、だいぶ落ち着いたみたいね」
優しい口調でそう言って、少女は後ろでにこやかに笑っている執事に視線を送る。すると、執事はオレの元へと歩いてきて、口を開いた。
「それでは、怪我も大分酷くはなさそうですし、この島にお住みになられるのでしたら街を見回ってみてはいかがですか? 松葉杖をお貸ししましょう」
そう言った執事の前に少女が立ちはだかり、今度は少女がオレに向かって口を開きだした。
「じゃあ、道案内は私がする。あいにくここは島の中央部のセントパルだし、今日は足のことを考えてセントパルだけを回ろ」
セントパル――断行の島で最も有名で主が住み着いているというレンガの塔。まさか、まさかここがそうだったとは……確かにここにお嬢様が居る以上それは合理の上なのだが、レンガの塔、セントパルに入れたのは本能的に嬉しい。
オレは、執事が持ってきた松葉杖を両脇にはさみ、左足を地面に付け右足を直角に曲げる。防水性の包帯で巻かれた脚。ここまで世話をやかしてしまうとは、いつかお礼を言わないといけないな。そう思いながら、腕と左足に力を入れて一気に立ち上がる。
「ファーブル?」
「はい、なんでしょう?」
「彼の部屋を用意してくれないかしら?」
「はい、即急にお掃除をして参ります。用があれば呼んでくださいね。」
「うん。了解」
執事は、少女の最後の言葉を聞いたあと、オレにお辞儀をしながら部屋をあとにした。部屋に残ったオレと少女。少女は立ち尽くしているオレを見るなり、にっこり笑って「行こ」と言うので、オレは松葉杖を付きながら少女の後ろをついて部屋をあとにした。