∞11断行の島11∞
断行の島、故に幸せに生きとし生きる者の横断の隠滅とも呼べるその名は、オレがまだ町の人たちにクローンということを知られていない時にチラシで見たことがある名だった。チラシによると、断行の島は日本の太平洋側のどこかに位置する小さな島らしく、観光スポットでもなんでもない。どうやらそこには千人といない幸運に恵まれなかった人々が暮らす第二の人生の居場所らしい。島の周りには綺麗な海があり、空気も新鮮で気持ちがいいようだ。内部の端は木や草花に包まれた緑中心の鮮やかな色をしていて鳥たちも沢山になって飛んでいる。その先の内部に行くと、沢山の異なる形をした一軒家が立ち並んでいる。幸運に恵まれなかった人々が家庭を持って幸せに暮らし始めているとも見えた。そして、なんといってもオレが目に付いた場所というのが、断行の島の中心部。東西南北に円形の噴水が立ち並び、その中央にはレンガ上のお城のような塔が立っているんだ。
島の大きさは好むものではなかったが、あの時のオレは自分にピッタシの場だと思ってにこやかにチラシを眺めていたものだ。と、今のオレがそんなところにいるのかと知り、驚愕と嬉しさのあまり頭が混乱していた。
「はい、断行の島です。人生で幸福を満足に得られなかった者が過ごす新たな世界とでも言うべきでしょうか? 地獄の人生を味わってきた者は、昨夜のように私たちがそれぞれの国に渡り、飢えていた者や悲しみを背負っているものを年に二回、探索するのです」
そうか、だから昨夜はあんなところにいたのか。海街に住み着いた住人はそこから一切出ようとしないから不審に思っていた。だが、その執事とやらが助け舟を出しているとなると、海街の人口が増加していっているのも理解に苦しまない。
「……ということは、オレは運良くあんたの乗った車に引かれ、運良く連れてこられたと?」
「短々と言うならばそういうことになりますが、あの世界で幸せを築けていたのなら、私が今すぐお送りさせて頂きますが……どうしますか?」
お送りね……あんな場所に戻ったとして、果たして幸せが築けるものか。日に日に腐れ文句を聞き流し、はたまた暴力で労り、最終的には生死を偽る戦いまでしたあの世界に……。
「行かねぇよ。行きたくもないし、オレも……幸せというのを味わってみたくなったよ」
俯きながらささやかに言う。オレにとってはこれで辛い人生が終わった。そう思っていた。ただ心に引っかかるもの、オレが見捨てたアイツ……果たしてオレは幸せになってもいいのか……アイツを見殺しにしたオレが幸せを築いてもいいのか……。それだけが心残りだった。
「そうですか……それでは――」
執事がにこやかに笑って何かを言おうとしたとき、不意にオレの居る部屋の戸が開いたかとおもうと、中に一人の少女が入ってきた。
猫のように大きなホワイトブルーの瞳。ピンクの腰まで長いストレート髪。まさに美としか言い様のない顔立ち。黒がかった、胸元にひらひらのフリルのついたキャミソールに、上着は同色の透けた薄着。露出された鎖骨部分の肌は白く綺麗で、まるで人形のようだ。さらに髪の色に合わせたのか、ピンクがかった短いスカートを履いている、可愛くも綺麗な少女がオレを見つめて立っていた。
「これはこれはお嬢様。お目覚めになられましたか」
少女に視線を向けながらそう言う執事。オレは、執事の言ったお嬢様という言葉に少々体をビクつかせ、瞬間的に執事に視線を向けた。
「お嬢様……?」