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09.公平


 そんな声をかけてきたのは、なにやら考え込んでいる様子のチカだった。


「そうなのか?」

「恐らくは。……そもそも、十三様の仕掛けてくるゲームなんですから、そんなに単純な内容ではないはずなんです」


 そんなチカの頭を悩ませていたのは、やっぱりというべきか、予想通りというべきか。

 あえてクソピエロが説明を省いているようにしか感じられなかった『杖』の存在だった。


「仮に先攻側が35という低目を選んでしまっていた場合であっても、それを見た後攻側が回復を選ぶ可能性があると少しでも判断したなら……? 先行側が自分の数値の低さを逆手に取って、あえて盾ではなく攻撃を選ぶという事もありえるんじゃないでしょうか?」


 もし先攻側が35という低目の数字であったなら、普通に考えれば盾を選んでダメージ軽減を狙わざる得ないだろうと判断出来るケースだった。それを踏まえた後攻側が行動を選ぶ場合には、素直に攻撃するのがベターではあるのだが、その他にも、あえてここで回復を選ぶ可能性だって0ではないということなのだろう。


「ある意味、回復という行動のメリットと、ダメージ倍のデメリットが予測を複雑化させているんだと思います」


 確かに、それはあったのだろう。

 問題は、後攻側が回復を選んだ時なのだ。

 先攻側が、自分の低い数字を見て、そういった行動を後攻側が選ぶ可能性が高いと判断できるケースは十分にありうるんだ。

 それは、例えば、後攻側が圧倒的に残ポイント量で負けている場合などだ……。

 ここで攻撃を選んでも最大でも35防がれてしまうと考えると、後々の事を考えて、あえて回復を選びたくなるというのも分からないでもないのだから。


 ──じゃあ、それを先行側が読みきった場合には?


 つまりは、その部分が問題なんだろう。

 後攻側がリスクをとって回復に走るだろうと予測出来た場合に、あえて35という数字であっても攻撃を仕掛けたなら?

 更に言えば、後攻側が回復を選んでしまった場合には?

 35のダメージは倍の70ダメージになって、64という高目を出して回復したとしても、それでもやっぱりダメージを食らってしまうのだ。

 結果は回復に失敗。6のダメージとなってしまう。

 まあ、この数字だけみれば悪くない結果に思えるかもしれないが、たまたま後攻側が64という悪くない数字を引けたから、これで済んでいるが、仮に後攻側が25とかの悲惨な結果に終わっていたなら……?

 全ポイントが幾つか知らないが、全体の半分に近い45ポイントもまとめて減らされるのは、かなりの大ダメージなのではないかと思うのだが……。


「裏の裏をかかれて、35の攻撃時に相手も攻撃だった場合には?」

「64のダメージをダイレクトに食らう事になりますね……」


 そう。互いに剣だったなら、64もの大ダメージを食らってしまう。

 こっちが剣、相手が盾なら、ノーダメージだけど可能性は低いんだよな……。

 ベターに盾で相手が剣なら、29ダメージを食らうけど軽減には成功するのか。

 その場合に相手が杖だったら、相手が悪夢の64回復。最悪の展開になる。

 だけど杖なんて選んで、もし相手が剣だったら93ダメージの致命傷だし……。

 ……むう。結構、ややこしいな。このゲーム。


「相手がどういった行動を取るか、それを予測して罠を張り合うのが趣旨となっている」


 だから、最後の数字表示がもったいぶった物になっているのだ。

 そう言って笑って見せるクソピエロに、俺の中の不快ゲージはぐんぐん上昇を続けていたのは言うまでもないが……。


「ちなみに、互いの持ち点は?」

「双方とも100点だ」

「100点の削り合いをするってことか?」

「その通り。いくら回復しても上限は100点までだ」


 数字の最低値は1。最大値は100だから……。


「余裕で即死がありえるのかよ」


 杖の時に攻撃くらったら倍ダメージなんてルールもあることだし、100ポイント同士の削り合いなんかだと、可能性としては常に即死がありうるってことになる。

 これは想像以上に短期決戦になりそうだ……。


「しかし、意外だった」

「ん? なにがだね?」

「同条件なんていう真っ当な条件での勝負になるとは、正直、思ってなかったんで……」


 ぶっちゃけ、こっちが100で向こうが1000とかの壮絶なハンデキャップマッチとかの可能性も十分にありえた訳で……。


「それでは勝負を楽しめんだろう」

「そうか?」

「そうだとも。君は、ポーカーで自分だけ2回チェンジ出来るような変則ルールで勝負して楽しいのかね? 相手に飛車角落ちを強要したり、9目置かせてもらったりして勝ったからといって、それが何だというのか。そんな下らない変則ルール下でのハンデキャップマッチなんかで勝ったりしても、それを腹の底から楽しめるとでも思っているのか!?」


 心外の極みだとでも言いたげに、クソピエロは手にしたキセルから炎を吹き上げていた。


「条件はあくまでも対等で勝負するからこそ燃えるのだよ! ハンデ無しの殴り合いだからこそ、心の底から楽しめるのだ! 必要最低限のルールを守って、フェアな条件であえて戦う事でしか味わえない愉悦というものも、この世にはあるのさ!」


 まあ、君には、まだ分からないだろうがね。

 そうニタリと笑って口にするクソピエロの言葉が何処まで本気で信じて良い物なのかは分からなかったが、ハンデなしの勝負に拘るっていうのなら、それはそれでありがたい事ではあるのだから感謝すべきなんだろうな……。


「……他になにか聞きたいことは?」

「あ~……。念の為に聞いておきたいんだけど、行動の選択し直しはどうしたら良いんだ?」

「押し間違えということかね?」

「ああ」


 人間である以上、常にやらかしちゃう可能性はあるからな。

 選んだらそれまでよ、な変更不可仕様は正直きついんだが……。


「安心したまえ。行動の選び直しは、いつでも可能だ。ソレをしたからといって相手に手を変えた事が見える訳でもない安心仕様となっている。……ちなみに変更のタイムリミットは、相手が最後に赤ボタンを押して数字を確定させる瞬間までだ」


 ギリギリまで悩めってことか。


「他には?」

「特にないかな。……チカは?」

「私からは特には……」


 それを聞いたクソピエロは嬉しそうにニンマリ笑って。


「それなら、さっそく勝負を開始するとしようか! なお、これ以降、何か分からない事があったら、その都度私に聞いてくれたまえ。あと、チカ君に挑む無謀さに免じて、先攻はチトセ。君からだ! さあ、始めたまえ!」


 そうクソピエロが高らかに宣言すると同時に、ドーンと大砲のような音が盛大に鳴り響いて、デジタル計も猛烈な勢いで変化を始めていたが、その直前に聞こえたクソピエロの言葉に、俺は思わずチカに訪ねてしまっていた。


「チカ。俺が先攻で本当に良いのか?」

「私は構いませんし、賭け事に慣れてなさそうな貴方に譲るというのは賛成です」


 そう了解をもらった所でちょっと気になったので、審判役のクソピエロに尋ねておく。


「今みたいに相談したり、話しかけたりするのは、ルール的には有りなのか?」

「問題ない」

「頼み事は?」

「負けてくれでも、勝たせてくれでも、剣を選んでくれでも、好きなように頼みたまえ」


 そんな予想外な言葉が返ってきた。


「……良いのか? というか、そんなの有りなのか?」

「良いし、有りだ。もっとも、君の味方などではない、コチラ側の人間であるチカ君が、なんで君なんかの頼みを聞いてやらないといけないのか。いささか理解に苦しむがね」


 そんな『お前は馬鹿なのか?』とでも言いたげな皮肉にまみれた言葉ではあったが、それを聞いた俺は思わず納得してしまっていた。

 確かに言われてみればその通りだった。

 この状況で頼みなど聞いてくれる訳がなかったのだ。

 もっとも、そんなやりとりを見ていた向かい側に座るチカは、何故だか口元に笑みを浮かべていたのだけれど……。


 ──(第1ターン)チトセ【100】 VS チカ【100】──


 一応、進行役という自覚はあったのだろう。

 クソピエロのタブレットに俺たち二人の残ポイントなどが表示されていた。


「いきなり『杖』を選ぶなどの馬鹿をやらかさない限りは、そうそう即死はありえないのだ。もっと気軽に行きたまえ」


 そんなクソピエロの言葉に苛つきを感じるが、いざ命をかけて勝負となると色々と怖気づいてしまう部分はあったのかもしれない。

 少なくとも恐怖心とか緊張とかが麻痺してしまっている自覚はあった。

 怖すぎて、緊張しすぎて、かえって何も感じなくなる。

 人には、きっと、そんな一瞬があるんだと思う。


「好き勝手なこと言いやがって……」


 僅かに痙攣を起こしている上に、やたらと重い腕を苦労しながら持ち上げて。

 ようやく赤ボタン目がけて叩きつける。

 その程度の事が出来るまでに、実に数十秒もの時間を要してしまっていた。

 そんな俺が文字通り叩き出した数字は『47』……。


「いきなり微妙な数字だな」


 それがギャラリー兼審判の口にした感想だった。


「なにがだよ?」

「60や70など高目であれば躊躇なく攻撃を選べたのだろうが……」


 まあ、確かに……。

 この程度の数字では、守るにしてもダメージが通りやすいので微妙すぎた。

 後攻のチカが80などを出してしまったら、盾ではダメージを防ぎきれないだろう。

 かといって、この程度の数字では剣は論外だろうし……。

 仕方ないか。ここは『盾』だ。

 ボタンを押して伏せカードを表示させると、向かいに座ったチカもカードを選んだらしく、お互いの伏せカードが台の上に表示されていた。


「……」

「……」


 お互いに無言のままに。

 俺とは対照的に、何ら気負った様子のないチカがボタンを押す。

 そんなチカが出した数字は『78』だった。


「くうぅ……。ダメージは78-47で31か」

「いきなり三割超えか。なかなか良いのを食らったな。チトセ」

「さて。それはどうでしょうか」

「……なんだと?」


 まるで動じた様子のないチカが再度、赤いボタンを押す。すると……。


 ──カードオープン。チトセ『盾』。チカ『盾』。


 双方とも『盾』の行動カード。

 となると、ダメージは当然、双方とも無し。0ということになる。


「あれ?」

「……チカ君。手加減とは感心しないな」


 俺から見ても不自然な、あからさま過ぎる手加減だった。

 そんな手抜きにしか見えないチカの選択に、クソピエロの苛つきもマックスだ。

 しかし、そんなクソピエロを前にチカは笑みを崩さない。


「手加減だなどと、とんでもありません。……まだ最初のターンですから。まずは様子見(ケン)から、という訳です」

「そうなのかね……?」

「そうですとも」


 自分もまだルールを十分に把握出来ていないし、操作にも十分に慣れていないから。

 そんな適当すぎる理由で手を抜いてくれていたのだとすると、次のターンからはチカも流石に本気を出さないと不味いということなのだろうか。

 そんな事を考えていた俺に向かって、チカが素早く一回だけウィンクをして見せていた。

 その意図は、コイツの思い通りにはさせないから安心しろといった所なのか。


「私も“仕事”ですからね。手は抜いたりしません」


 奇妙に「仕事」の部分を強調するチカ。

 それはきっと、自分の本当の“仕事”を思い出せと俺に言っていたのだろう。

 そう理解した俺は、これまでのチカとクソピエロのやりとりを思い出していた。

 その脳裏にチカの本来の上司とかいう人物から何を命じられていたのかを思い出していた。

 チカの上司とかいう人は、チカに俺のことを守ってやれと命じたんだった。

 だったら、少なくとも、ここではチカはクソピエロの奴の敵に回るはず……。

 先程までのように、何らかの形でわざと手を抜いて、こうして俺の手助けをしてくれてるらしい事は間違いなかったのだろう。

 そう理解したことで、ようやく俺は、命がけの勝負の場に心強い味方が表れてくれたことを理解出来ていたんだと思う。


「……何にせよ、命拾いしたぜ」


 地獄に仏とは、まさにこの事なのかもしれない。

 俺のウィンク返しに、チカもわずかに口の端に笑みを刻んだように見えていた。


 ──(第2ターン)チトセ【100】 VS チカ【100】──


 前のターンは俺からの開始だったので、今回のターンは後攻のチカからスタートとなる。


「ご安心を。目押しは得意な方です」


 まるで何かを宣言するかのようにして、チカはそう口にすると赤いボタンを押していた。

 静止するデジタル計。その数字は脅威の『21』だった。


「……えらく低目を出したものだね」

「目押しは得意ですから」

「それは、どういう意味かね」

「さて……?」


 ものすごく不満そうなクソピエロ。

 すっとぼけた口調でとぼけてみせる笑顔のチカ。

 そんなチカから、またしてもウィンクが飛んでくる。

 すぐにカードも選ばれた。おそらくは『剣』を選んでくれているはず……。

 そうは思うのだけど、なかなか自分の判断に殉じる覚悟という奴が湧いてこない。

 チカの出目からして、約八割の確率で上回れるはずなんだ。

 というよりも、これより小さい数字はなかなか出ないはず。

 視線の先で変化し続けるデジタル計。

 まずはココを選べとばかりに光っている三つのボタン。

 ……ここは考えるまでもない。『剣』あるのみ、だ。

 せっかく、ここまでお膳立てされているんだぞ?

 ここで誘いに乗らないのは馬鹿のやることだぞ?

 『剣』だ。それ以外に、何を選ぶつもりだ……?

 それは自分でも分かっているのだけど、それでも踏ん切りがつかなかった。

 理由は簡単だ。

 チカが、ここで裏切る可能性が有るからだ……。


 ──いや、逆か……。


 わざと負けようとしてくれているチカを信用しきれていないんだろう。

 チカへの信頼と疑念、裏切りへの恐怖、警戒心が決断を邪魔しているんだ。

 だけど、それで良いと思っている自分も居るんだ。

 この状況で盲信することは馬鹿のやることだからな。

 常に疑いながら、常に裏切られる可能性を考えながら、状況を判断する。

 俺に求められているのは、そういった種類の冷静さのはずだった。



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