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またいつか

作者: ゆっくん

とある日、彼女との会話にて出てきた話を元に書いたものです。

所々、俺の勝手な脚色が入ってますが、こういうことってあるんだな、としみじみ思いました。

 私は少し、イライラしていた。

 目の前の小学生たちが楽しそうにしているだとか、一緒に遊んでいるとか以前にイライラしていた。

 「ねーねー、これしてあそぼー!」

 小学生がキライ、というわけではない。ただ好きかといわれればそうでもない。

 私は仕方なしに遊んでやることにした。


 ◇


 ことは数時間前のことだった。

 私は二週間ぐらい前に学校の先輩にこう誘われた。

 ――文化祭が二週間後ぐらいにあるから、一緒にダンスしない!?

 あまりにも唐突すぎだった。

 全然関わりもない人達だったし、なんで私に目をつけたのかはわからないけど、あまりにも突然すぎて私は困惑していた。

 しかし、私に拒否権などなかったのか、私がどうしようかと返答に迷っていると私は一緒に先輩とダンスを踊ることになっていた。

 今までに何度か、そういうステージパフォーマンス的なことはしたことがあるけど、あくまで友達とだったから楽しかったもので……まさか全然知らない人と、半ば強制的にやるはめになるとは思ってもいなかった。

 それに、文化祭の話なんて何も聞いてない。二週間後になんてせまっているのなら、先生がなにか通告するものではないのだろうか?

 通信制の高校に通う私はあまり行事などには興味がなく、なにがいつあるかなんて全然把握してなかった。

 ……それがたたってしまったのかもしれない。


 先輩たちと最近流行っている韓流アイドルのダンスを練習して、なんとか形にはなり、さあ文化祭当日だ、というときだった。

 当日、学校にいってみたものの、明らかに文化祭、という雰囲気ではなかった。

 よくよく考えれば、ダンスの練習に集中するあまり、学校自体のことを見ていなかった。準備など何一つしていなかったのではないだろうか。

 あらゆるところで見落としていた私に、先輩たちは宣告したのだ。

 「ごめん、今日は文化祭じゃないの!」

 ――――はっ?

 「実はね、今日はよそから小学生が遊びに来るらしいんだ。それで一つのイベントとしてステージでダンス踊ろうってことになったんだけど、人数が足りなくてね……」

 えっ? つまり、何?

 「そこであなたを誘ったんだけど、もしもこの小学生たちのため、なんていったらやる気になってくれなかったでしょ? だから嘘ついたんだけど、ごめんね」

 最後の語尾に星マークがついてもおかしくなさげに、まるで先輩はペロちゃんキャンディーの女の子のような顔をしていった。

 つまり、私は騙されて文化祭ではなく……小学生たちのためにダンスを練習していたのだ。


 それが事の顛末。

 嘘をつかれて、ということ自体に私はイライラしていた。

 文化祭だというから、頑張ってダンスの練習もしていた、というのにまさかこのためとは。

 確かにこのためにダンスしない? と誘われても私は断っていただろうけど……。

 でも、きたからにはやるしかないし、先輩たちともダンスの練習をする中で少し仲良くなった。期待を裏切る訳にはいかない。 

 一つ息を吸い込んで、私はステージへと出ていった。

 結果としては、ダンスは成功。私としては満点をあげたいぐらいに完璧な踊りっぷりを見せてやった。ドヤ顔でもしてやりたいところだけど、いったい誰にしてやればいいというんだろうか。したところで何の満足にもならないし。

 ダンスが終わった後は、今日する予定だった――文化祭ということでする予定だった――男装をするために、私は他校の制服姿に着替えていた。

 その状態で小学生の皆とお遊びタイム、となったわけだけど……遊びはじめて二十分ぐらい。一人の男の子が私のほうをチラチラと見ていた。

 ちなみに、今日きている小学生はみんな六年生だそうだ。

 その男の子は、まるであの割れ顎気味のうざいちょっと太った芸人とチャラ男キャラで有名なあの芸人を足して二で割ったような感じの子。こういう目で見るのはどうかと思うけど、私としてはアウトだった。

 だけど、そんな意思とは関係なしにその男の子が近寄ってきて何を言うかと思えば……

 「お姉ちゃんカワイイね。ちょっと一緒に遊ばない?」

 ――――――ナンパだった。

 えっ? 最近の小学生はナンパなんてするの? しかもこっちは高校生だとわかっていての誘い?

 なんてマセガキ。怖い、最近のガキ、怖い。

 しかし、私はそれに優しく返す気持ちの余裕などなく、イライラしていた。

 だから言い返してやったのだ。

 「ごめん、私、年下には興味ないの。っていうか出なおしてこい」

 当然のごとく、男の子は涙目でどこかへといってしまった。


 さらに遊び続けていると、今度は視界の端のほうで私のことをチラチラと見ている女の子を見つけた。

 その子はうつむき加減に私をみながら、なんだかもじもじとしていた。

 そばには別の女の子がいて、その女の子が何やら励ますようにして何かを言っている。

 なんだろうか、と思ってしばらく様子を見ていると、もじもじして女子がこちらへと歩み寄ってきた。

 何か用事でもあるのだろうか、と私がそっちのほうに向くと女の子はこう聞いてきた。

 「あの……彼女さんいるんですか?」

 ん……? 彼…………「女」?

 あれ、私、女なんですけど……。

 「いや、いないけど……」

 一応事実は事実。彼女はいません。私はそういうタイプの人間ではありません。

 「そうなんですか! よかったぁ……」

 やけに安心したような感じでいうと、女の子はさらに続けた。

 「あの、よかったらでいいんですけど……」

 そこでもじもじ。

 「――――付き合ってくれません……か?」

 ………………へっ?

 ナンパの次は告白!?

 いや、ナンパよりかは大分性質はいい。むしろうれしい……けど、私、女子ですよ?

 けど、よく考えれば今の私は男装をしているわけで。

 もしかしたらこの女の子は、本気で私を男として見ているのかもしれない。男装をしている身としては嬉しい事この上ないんだけど、まさか告白をされるなんて思ってもいなかった。

 だからといて、先ほどのマセガキのように対応するわけにもいかない。

 なにより相手は女の子で、しかも純粋な告白だ。

 けど、付き合うわけにもいかない。私は迷った挙句に断ることにした。

 「ごめんね。もう少し大きくなってからね」

 まぁ、確かに私が本当に男だとしても、小学生と高校生っていうのはなんだか危ないニオイがする。恋愛に歳の差なんて関係ない、とはいうけど、やっぱり関係はあると思います。

 その返答を聞いて女の子は「そうですか……」ととても残念そうな顔をしていた。

 「それじゃ、大きくなったら迎えに来てくれますか!?」

 お…………おおっと?

 予想外すぎる展開。なにこれ、こういう展開ってありなんですか?

 もうちょっとちゃんと断るべきだった、と後悔しつつも女の子の目を見ると、それは真剣そのものだった。

 からかっているとか、そういうのじゃない。同じ女子としてこれはわかる。

 その目を見ていると、どうしても断るに断りきれなくて、私は返事をしてその場をしのいだ。


 …


 その後、私はその女の子と手をつないで校内の探索をしたりした。

 付き合えないけど、せめて今だけ一緒にいてほしい、という女の子からのお願いだったのだ。

 「やるじゃん! うらやましいねー! ヒューヒュー!」

 「もう、そういうのじゃないですってば!」

 先輩たちに冷やかされ、それでも女の子はまんざらでもない様な感じだった。

 「おいおい、あいつあの男の人とあるいてるぜ!」

 「なに? 恋人ってやつ!? きゃーきゃー!」

 小学生の男子や女子たちもそれをはやしたてはじめた。女の子はさすがに恥ずかしそうにしていたが、それでも手だけは決して離さなかった。可愛らしい手が、私の手をぎゅっと強く握っていた。

 それにしても驚きだ。まさか男装がここまで効き目があるなんて。

 男装冥利につきる、というかなんというか……とてもうれしいけど、やっぱりなんだか複雑だ。

 「あの、お名前はなんていうんですか……?」

 遠慮がちに、上目で見られながら聞かれ少しだけキュンときてしまった。いや、決して私はそんな気はない!

 「名前は――」

 そこまでいいかけて私はつまった。

 本名をいえばさすがに男ではない、とういことがバレてしまう。

 バレてしまってもいいのだろうが……ここでそのことをばらすのは、女の子に悪い。

 そこで私はだいぶ前にやっていたゲームの男キャラクターの名前を頭の中からひっぱってきて、その名前を告げることにした。

 「へー……かっこいい名前ですね!」

 すると、女の子は躊躇いもなくそれを信じ、嘘なんて一つもないようにそういった。

 私のことをすっかり男として見ているその子の夢。その夢を壊さないように、と私もなるべく男として振る舞うことにした。

 それにしても驚きだ。再度、驚く。

 昼食の時間になり、もちろん私はその子と一緒にご飯を食べることになったのだが、そこで他の女子までもが集まってきたのだ。

 そして早速始まったのが、私の近く、という席をとる女の子たちによる争奪戦だった。

 「私が横に座るの!」

 「あたしがここよ!」

 まさかここまで効果があるとは……逆に何か危ないものを覚えるな、これは。

 「ほほー、羨ましい限りですなー」

 先輩が茶々をいれてきたのをスルーして、私はその争いをおだてることにした。

 私のこの男装を、男と見える子は見えるらしい。もちろん、中にはさっきのマセガキのように、私を女として見ている子もいるのだろうが、その比率はたぶん後者のほうが少ない。

 けど、その女の子たちが私のまわりにたかっている様子を見て、男の子たちは妬ましい目で私のことを睨んでいた。すいません、なんだかすいません。

 もちろん、あの女の子は私の横で昼食をとることとなっていた。あの子たちからみて、かっこいいお兄さんと一緒に手をつないでいる、というのは一種の恋話のネタになるようで、その女の子のまわりにも他の子がたかっていた。

 困惑気味に受け答えする様は、特に嫌がっている様子もなく、むしろ楽しそうにさえ見えた。

 そう、女の子はとても楽しそうで――そのぶん私は、何か罪悪感を覚えていた。

 夢見る乙女と現実を知ってしまっている私。

 あまりにも対立しすぎている立場に私は困惑していた。


 …


 やがて別れの時がやってくる。

 それまで楽しそうだった女の子は、その時になって泣き出しそうになっていた。

 「お兄ちゃん……別れたくない……」

 帰りのバスが近づいている。別れのときは近づいている。避けられない事だった。

 今日来ていた小学生たちは遠い県外からやってきた子たちらしく、普段なら決して会うことのないような子たちだったのだ。

 大げさかもしれないが、もしかしたら女の子にとって今の私は、白馬の王子様だったのかもしれない。

 「またいつか会えるから、ね?」

 いつか会える――そんな保証はないのに、あまりにも無責任な言葉だった。

 「やだ……」

 「でも」

 「いやだーー! わあぁあああん!」

 とうとう泣き出してしまった。

 昼時に私のことを妬ましい目で見ていた男子達は「あーあ、泣かしちゃった」とかなんとかいっていたが、そんなのは気にする必要はない。

 私はどうしようか、と悩む。

 きっと、この女の子にとって私は本当に特別な存在になっていた。

 告白をしてきたぐらいなんだ。その気持ちは本当に違いない。好き、とういその気持ちは。

 それに対して、私は嘘をついていた。つき続けていた。この子の夢を壊さないように、なんていう偽善に似た気持ちがあったために。

 ここでいっそのことばらしてしまおうか? 一瞬、そんなことも考えた。

 ばらしてしまうことで、女の子は私のことをすっぱり諦めるだろう。別れた後も私のことなど想いもせず、他の恋愛をするに違いない。

 けど、それは……私にはできそうになかった。

 目の前で大泣きする女の子。私の背丈より小さい女の子。

 私は膝をついて膝立ち状態になる。

 そして――包み込むように、女の子を抱いた。

 「またいつか、ね?」

 無責任に違いない発言だ。けど、それしかいうことができなかった。

 女の子の泣き声は止み、しばらくの間私は抱いていた。


 「みんなバスにのったかー?」

 はーい、という子供たちの元気な声。けど、女の子だけはバスの中から私のほうを見ていた。

 「よーし! それじゃ出発するぞー!」

 そういって、バスがエンジンを起動する。

 ……バスに走っていく途中、彼女は言った。

 「じゃあね、お兄ちゃん! 待っててね!」

 私は手をふりながら、それに頷くこともできなかった。そこで頷けば、私は彼女の期待に応えなければいけないような、そんな気持ちに苛まされることになるだろうから。

 そして今、バスの中から手を振っている。寂しそうに、けど、うれしそうに。

 「すっかり気に入られちゃったね」

 「そうですね」

 「どーすんの? お婿にいっちゃうの?」

 「………………」

 私は答えなかった。馬鹿らしい、とか思ったわけじゃない。ただ、答える自信がなかった。

 私も女の子に手をふりかえし、見えなくなるまでずっとふりかえしていた。

 バスは去っていき、先ほどの子供たちによる喧騒も全てなくなった。

 「それじゃ今日は帰ろっか! ありがとね!」

 「いえいえ」

 そして、各自解散。ことは終わった。


 果たして、「いつか」はくるのだろうか。

 そんなことはわからない。誰にも。

 その「いつか」がくるまでに、きっと彼女も違う人と付き合っているだろう。

 そうでなければ報われない。「いつか」のために私を想い続けるなんて、それは報われない。

 私がしたことは間違いだったのかもしれない。けど、私がしようとしていたことも間違いだったのかもしれない。

 考えても仕方がないこの話。


 私は、女の私に戻った私は一人帰路につくことにした。

ども、作者のゆっくんです。

まえがきにも書きましたが、この話は彼女が体験した実話を元に書いたフィクションです。

大元の話の筋は同じなのですが、ところどころ脚色を加えてます。

まさか現実でこんなことが、と思うとびっくりです。

はてさて、どこまで彼女の男装が通用していたのかわかりませんが、この話の後日談として、同じ学校の女子高生から「男」として扱われ遊びに誘われたそうです。

誤解されがちですが、決して男っぽい顔立ちをしているわけではありません。


この話はもともと書く予定はなかったのですが、自分が冗談半分で「それネタに小説書いていい?」なんて言い出したのが始まりです。

本当に書くはめになるとは思いもしませんでした。

けど、意外と実話を元に、というのも違った感覚で一つ勉強になりました。

それでは!

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