序章 「可愛い彼女っ!」
恋をした。
一目ぼれだった。
最近できた、個人営業の居酒屋さん。
元々人通りが少なかったからかお客さんもあまり見かけず、旦那さんと奥さん、そしてアルバイトで決して可愛いとは言えない――、大太りの女性でひっそりと経営されていた店。
けれど突然、その店に客が集まり始めるようになった。
いつ頃からだったかは憶えていない。
けれど、本当に突然の事だったのは憶えている。
店に活気づき、中から客の笑い声が聞こえるようにもなった。
それと同時に店の味も広がり、店が活気づいた原因とも思える話の内容が耳に入った。
――若くて可愛い新しいアルバイトの子が入った、と・・・。
よくある話で、こういう話は居酒屋では結構重視される。
仕事で疲れたおじさんも、可愛いくて若い女の子が笑顔で働くのを見て和みたいという下心の表れから来る話で、たいてい酒を飲む場所では女の子は重視されてこんな話は必ずあるが――、噂通りの辺りはなかった。
僕は二次元の女の子が好きだ。
可愛いし、なにより優しい。
声も高くて、癒される。
気が付いたら僕は、今の世間で言うオタクと呼ばれる存在になっていたが・・・それでも構わなかった。
僕の唯一の癒しを否定される憶えもなかったし、三次元の女の子より僕には二次元の女の子の方が魅力的に見えたからだ。
オタクと呼ばれる僕も一応成人していて、時間があればお酒を飲む。
家に酒が無ければ出かけて店で飲んだりする。
二次元の女の子を愛しすぎたせいか、三次元の女の子になかなか接することが出来ず、気が付けば年齢=彼女いない歴になっていた僕にとっては唯一女の子と接点を持てる場所でもあったが――・・・
やはり、三次元の女の子に惹かれることはなかった。
現実の女の子は極端だ。
店では笑顔を振りまき甘い笑顔を見せて夢を見させてくれるが――、いざ仕事が終わって彼女たちの日常に戻ればワケが違う。
彼女たちは自分の日常の中で友達に客の愚痴や気に食わない人間の汚い悪口を平然と吐く。
そんな行動をしている彼女たち自身が何よりも汚いものとも気付かずに――。
綺麗なものを求めているわけではないが、こんな姿を見るとどうしても三次元の女の子を直視できない。
あれだ、理想を崩されるのが怖いんだ。
だから僕は、三次元の女の子を愛することが出来ない。
そう信じて疑わなかったし、これからもそれは変わらないと思っていた。
僕はきっと、このまま人生を終えるものと思っていた。
・・・そんな僕に、転機が訪れた。
仕事が終わり、疲れた体を引きずりながら家へと足を運んでいた僕の目に飛び込んできた、最近噂の居酒屋さん。
そういえば、噂ではここの居酒屋さんは酒の種類が豊富だと聞いたことがある。
最近、忙しくて酒を飲んでいる暇もなかった。
家に帰っては寝て、起きて仕事に行く・・・。
毎日その繰り返しで、明日は月曜日だが久々に取れた休日で予定も入っていなかったはず。
少し考えていたが、結局は“中に入る”という選択にした。
ここは個人営業の居酒屋で、この店の旦那さんとアルバイトの子の二人で営業していたはずだから、そんなに大勢の女の子はいないはず。
いたとしても、ここは男のスタッフが多かった気がする。
女の子の一人や二人くらい大丈夫だろうという決断に至ったからだ。
そうして少しためらった後に、僕は木製のスライド式の扉に手を掛けて、軽くスライドさせた。
店の中の温かい空気と料理の香りが僕を迎えるとともに――
『いらっしゃいませ!』
可愛らしくよく響く女の子の声が僕を迎え、僕が顔を上げるとここのバイト服を着た子が笑顔で僕を出迎えていた。
そして彼女を見た瞬間、僕の体を電流が駆け抜けた。
150㎝あるかないかくらいの身長に、くりっとした黒曜石のような愛らしく大きな瞳、遠目からみても分るさらさらの髪は一つに結ばれ、唇は桜色にぷるんと潤っている。
今まで見て来た女の子の中でダントツな彼女に僕はただ見入っていて、この瞬間、心に一つの確信が広がった。
・・・これが恋という感情なのか、と・・・。
この胸を焦がすほどの、息も出来ないくらいの甘く苦しみを憶える痛み・・・。
これを恋と呼ばずして何と呼ぶのだろう?
目の前の愛らしい少女を前に早く脈を打つこの心臓が意味する言葉はそれ以外ないと、僕は理解したと同時に酷く戸惑った。
長年三次元の女の子と接していない分、そう彼女に接したらいいか分らない・・・。
動かない僕に気を悪くするわけでもなく、彼女は愛らしい笑顔を浮かべたまま首を傾げている。
熱を集める僕の顔を、伸ばし続けて鼻辺りまである長い前髪が隠すのを見て、心から彼女に自分の顔色に気付かれていないことに安堵する僕の心情なんて知らない彼女に、僕はただ安堵の息を吐いた。
初めまして、パンダです☆
思いつきで始めたものなのでいつ消えるか分りませんが、精一杯がんばりますのでよろしくおねがいします!!