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ここはなにかが欠けている

罪科の行末

作者: 浮月重月
掲載日:2026/08/08

8/11後書きに付け足し。

王国は当然ながら、身分差がある君主制国家である。


王族を筆頭に、大公、公爵、侯爵、正伯爵、副伯爵、男爵。

また男爵に比する宮中伯が一代限り上級文官として扱われる。

侯爵に比する辺境伯は、現在王国内には存在しない。


ここまでが貴族として扱われ、以下は準貴族となる。

準男爵は世襲称号であり、中級文官や騎士隊長に与えられる。

一代騎士は世襲されないが、下級文官や無役の騎士に。

それでも平民から見れば地位も年収もかなり高い。


彼らは爵位に応じて、貴族年金が毎年支給されている。

領地や事業からの収入には税がかかるが、貴族年金は非課税。

また、国家機関に従事する者達はその収入もあるのだが、

これは税を天引きされた上で支払われている。


一代騎士の貴族年金だけでも、およそ一般家庭の年収の三倍。

ゆえに富を求める者達の多くは、更なる立身出世を目指す。

地位に応じた責任や、仕事の負担は当然増えるのだが、

爵位がひとつ上がるだけで、収入は驚くほど変わるのだ。


法に背く行為をしてでも、と考える者も現れるぐらいに。



ここにいる準男爵の男。いや、元準男爵だった男。

先日まで財務局で中級文官を務めていたが、予算横領が発覚。

失職し貴族籍も失い、現在は犯罪者として牢獄にいる。


近年、王国の税収は飛躍的な伸びを見せていた。

治安の改善による流通の円滑化。それに伴う損失の激減。

温室などの生産改革による農作物や畜産物の増産と安定供給。

好転した食糧事情による大幅な死者の減少と人口の増加。

労働人口が増加し、生産品の輸出も好調。


数年間の好循環により、税収は上がる一方であった。

国民への還元として、税を下げたのにも関わらず、である。

これ程王国が潤ったのなら、自分もおこぼれに預かれそうだ。


日々報告される税収の増加を追っていたこの男、

魔が差したのか書類を偽造し、昇進と給金増額を目論んだ。

文官としては男も確かに優秀だったが、手口が雑だった。

おこぼれと主張するには、あまりに過剰な金額。

出所の分からない、不審な昇進辞令。


男の昇進を受け、仕事を引き継ぐ予定の者が即不正に気付き、

上司に報告した事で男は直ちに憲兵に捕縛される事になる。

細工した書類が通っていれば、給金も激増しただろうが。


今は上司と引き継いだ者への怨嗟の声をあげつつ、

訪れる処分を前に鉄格子を睨みつけている。



「判決。被告人は懲罰として、無役文官の職務を命ずる」


えっ?

予想では危険地帯で過酷な肉体労働を課されるかと考えていた。

思っていたより軽い刑罰に、男は驚くと同時に安堵の息を吐く。

平に降格されただけでお咎めなしなのか。ありがたくはあるが。


「期間は終身。給金は無給。日々の飲食のみ保証される」


違う。降格ではなかった。奴隷と変わりない。実質的な道具。

休憩は保証なし。使い潰されるまで働いて返せ、という事か。

屋内のため危険こそないが、逃亡は難しい。


いや、それでもここで不満を口にすることは出来ない。

真面目に長く勤めれば、働きぶりに恩赦もあるやもしれない。

自分は確かに優秀だったのだ。再評価も有り得るだろう。


「また、王都に所有していた屋敷は競売に出品され、

 被告人からの罰金代替金として国庫に納める。

 被告人の使用人への退職金は、余剰金を充てる」


懲罰は無料労働だけではなかったのか。


男にはもう、家族はいない。使用人もこれで縁が切れた。

親族も遠縁の者ばかりで頼れないし、関わろうとしないだろう。

仮に恩赦があっても、帰る場所は失われたのだ。


何が悪かったのか。自分が多少いい目を見ても良かっただろうに。

今後も決して報われぬ未来に、男は不満を漏らし続ける。

ブラック社畜終身刑。

肉体労働で使い潰すより、見せしめを兼ねて飼い殺し。

公侯伯子男、が好きではないのでviscountを副伯爵としました。

宮中伯もこの国では男爵扱いとします。本来子爵らしいですが。

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