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名札のない光

作者: 北大路京介

松村ミユの握手会には、いつも風が通っていた。

人が少ないからではなく、広い会場に対して、彼女の前に並ぶ人がほとんどいなかったからだ。


机の上には、小さな星の形をしたスタンド。

それが今日も、少し傾いて置かれている。


時間になると、スタッフが合図をする。

ミユは背筋を伸ばし、いつもの笑顔を作った。


そして——

今日も、その人は現れた。


名札には、見慣れない名前。

昨日とも、一昨日とも違う。

でも歩き方も、声の高さも、手を差し出す速さも、全部同じだった。


「こんにちは」


ミユは名札を見て、にこっと笑う。


「今日は、その名前なんですね」


それだけ言って、何も聞かない。


彼の手は、いつも少し冷たい。

それでも、握るとほんのり温度が戻る。


「……不思議ですね」


彼は、名札を気にしながら言う。


「何がですか?」


「ここに来ると、少しだけ……明るくなる」


ミユは頷いた。


「それ、キラキラですよ」


「え?」


「目に見えないけど、ちゃんとあるんです」


彼は、少し笑った。

名札の文字が、少し揺れた。


握手の時間が終わると、彼は深く頭を下げて帰っていく。

ミユは、その背中を見送る。


——名前を変えても、来てくれる。

それだけで、十分だった。


ある日。

彼は名札をつけずに現れた。


少し不安そうに、手を差し出す。


ミユは何も言わず、そっと握った。


「……今日は、名前、ないんですね」


「はい」


それだけの返事。


ミユは、いつもより少し強く、手を握った。


「大丈夫ですよ」


「何がですか?」


「キラキラは、名前がなくても消えません」


彼は、安心したように笑った。


その日、握手会の会場は、いつもと何も変わらなかった。

人も増えなかった。

拍手もなかった。


でも、ミユには分かった。


——誰かが、自分のままで来てくれた日。

それは、確かに光っていた。


松村ミユは、机の上の星形スタンドを、そっとまっすぐに直した。


そして、次の誰かを待った。


キラキラは、待つ人の手の中に、ちゃんと残っていると信じて。

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