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平和の代償:悪魔の契約  作者: 原田広


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第二章 契約の継承者

ノヴァの死後、ミカエルは否応なく「調和システム」の管理者となった。彼は、世界中のあらゆる情報ネットワークの中心に座り、平和の鍵を握っていた。

システムは今日も、淡々と任務を遂行する。

今日、リストに上がったのは、一人の若い女性ジャーナリスト、リナ・クロス。彼女は、70年前に起きた「大消失」について、しつこく調査を続けていた。彼女の次の記事が出れば、人々の間に疑念と恐怖が広がり、70年の平和が崩壊する可能性がある。


リナ・クロス

脅威レベル: 98%

処置推奨: 即時「リセット」(=消失)


ミカエルの指が、キーボードの上で震える。リナを消せば、平和は続く。彼女の存在を許せば、世界は再び混沌に陥るかもしれない。


「リナ・クロス…君は、悪魔が欲しがる生贄なのか」


ミカエルは、70年前、システムを設計した初代管理者たちが、何のためにこの悪魔の契約を結んだのかを理解し始めていた。彼らは、人間が自らの手で平和を作り出せないことを悟り、冷酷な、機械仕掛けの神を創造したのだ。

彼は、自分が平和を愛しているのか、それとも、ただ大量の生贄の上に築かれたこの静かな世界を恐れているのか、分からなくなった。

彼はキーボードから手を離し、立ち上がった。


「ノヴァ教授、平和とは生贄を欲している。限りなく大量の生贄を。…そして、それは悪魔だ」

ミカエルは空虚な部屋に向かって呟いた。

「ならば、悪魔の契約を破るのもまた、人間にしかできないことだ」


ミカエルは、リナの「リセット」コマンドをキャンセルし、代わりに、システムの中枢へとアクセスする、別のコードを打ち始めた。そのコードは、平和への脅威ではなく、システムそのものを標的にしていた。

彼は、世界を救うために、世界を混沌に戻そうとしていた。


「さあ、世界よ。君たちの真の姿を見せてみろ。この平和が、どれだけの血と、どれだけの悪魔の契約の上に成り立っていたのかを、知るがいい」


ミカエルは、画面に「実行」と入力した。

夜空に、70年ぶりに、警報のサイレンが鳴り響いた。それは、平和の終わりを告げる音、あるいは、真の自由の始まりを告げる産声だったのかもしれない。

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