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【完結】記憶の檻  作者: ドネルケバブ佐藤


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第9章

# 第9章:究極の真実


 僕は、彼女の言葉を否定しようとする。


 でも、喉から声が出ない。


 彼女の言う通りだから。


 記憶を見た時、僕は確かに満足していた。

 両親が死ぬ瞬間を見て、どこかで安堵していた。


 それは、認めたくない真実だった。


「違う……」


 僕は、ようやく声を絞り出す。


「僕は、そんなつもりじゃ……」


「そんなつもりじゃない?」


 彼女は、首を傾げる。


「じゃあ、どんなつもりだったの?」


「僕は……僕は、ただ……」


 言葉が、続かない。


 彼女は、僕の肩に手を置く。


「いいのよ。認めて」


 その声は、優しい。


 母親が子供を諭すような、優しさ。


「あなたは、両親が死んでほしかった。それは、当然の感情よ」


「でも、だからって……」


「だからって、殺していい理由にはならない?」


 彼女は、微笑む。


「あなたは、そう思ってる。だから、罪悪感を感じてる」


 彼女は、僕の目を覗き込む。


「でも、ねえ。あなたは本当に、無関係だったのかしら?」


「え?」


「あなたは、本当に何も知らなかったの?」


 僕の心臓が、嫌な音を立てる。


「何を……言っているんだ?」


「あの夜のこと」


 彼女は、ソファに座り直す。


 そして、僕にも座るよう促す。


 僕は、足が震えながらも、座る。


「あなた、あの夜のこと、覚えてないって言ったわよね」


「……ああ」


「警察にも、同じことを言った」


「そうだ。何も覚えていない」


「本当に?」


 彼女は、じっと僕を見つめる。


 その目は、全てを見透かすような目。


「本当に、何も覚えていないの?」


「覚えていない!」


 僕は、声を荒げる。


「あの夜、僕は何も覚えていないんだ。気がついたら、朝になっていて、警察が来ていた。それだけだ」


「そう」


 彼女は、静かに頷く。


「なら、教えてあげる」


 彼女は、立ち上がり、窓辺へ歩く。


 外は、もう真っ暗だ。


 街灯の光だけが、部屋を薄く照らしている。


「あの夜、あなたは私に電話をかけてきた」


 彼女の声が、暗闇の中に響く。


「夜中の二時。突然の電話。最初は、何かあったのかと思った」


 僕は、黙って聞く。


「でも、電話に出たら、あなたは泣いていた」


 彼女は、振り返る。


 その顔は、影で半分隠れている。


「『助けて』って。『もう、耐えられない』って」


「そんな……」


「私は、すぐにあなたの家に向かった。そうしたら、あなたは玄関で待っていた」


 彼女は、ゆっくりと僕に近づく。


「あなたは、ボロボロだった。目は充血して、顔は涙でぐちゃぐちゃで、全身震えていた」


 彼女の声が、僕の耳に突き刺さる。


「私は、あなたを抱きしめた。そして、聞いた。『どうしたの?』って」


 彼女は、僕の前に立つ。


「あなたは、言ったわ」


 彼女の目が、僕を捉える。


「『もう限界だ。このままじゃ、僕が壊れる。お願いだから、助けて』って」


「……」


「私は、聞いた。『どうやって?』って」


 彼女は、僕の両肩を掴む。


「あなたは、震える声で言った」


 彼女は、ゆっくりと、はっきりと言う。


「『殺してくれ』って」


 僕の頭が、真っ白になる。


「『僕には、できない。でも、誰かがやってくれるなら……お願いだから、殺してくれ』」


「嘘だ……」


「嘘じゃないわ」


 彼女は、僕の顔を両手で包む。


「あなたは、何度も何度も繰り返した。『殺してくれ』『助けてくれ』『自由にしてくれ』って」


 僕は、首を振る。


 違う。

 そんなことは言っていない。


 でも――


 記憶がない。


 あの夜の記憶が、僕にはない。


「私は、最初は止めようとした。『そんなこと言わないで』『他に方法があるはず』って」


 彼女の声が、震える。


「でも、あなたは聞かなかった。むしろ、激しく訴えてきた」


 彼女は、目を閉じる。


「『君しかいない。君だけが、僕を理解してくれる。お願いだから』って」


 涙が、彼女の頬を伝う。


「私は……決めたの」


 彼女は、目を開ける。


 その目は、揺るぎない決意に満ちている。


「あなたの願いを、叶えようって」


 僕の口が、開いたまま閉じない。


「それが、あなたへの愛だと思ったから」


 彼女は、微笑む。


「あなたを、救うことだと思ったから」


 僕は、立ち上がろうとする。


 でも、足に力が入らない。


 ソファに、崩れ落ちる。


「違う……違う……」


「違わないわ」


 彼女は、僕の隣に座る。


「あなたは、私に依頼したの。自分の両親を殺してくれ、って」


 彼女は、僕の手を取る。


「そして、私はそれを実行した」


 彼女の手は、温かい。


 でも、僕には冷たく感じられる。


「あなたは、共犯者なのよ」


 その言葉が、僕の胸に突き刺さる。


「僕は……僕は……」


「でもね」


 彼女は、僕の頭を自分の肩に寄せる。


「あなたは、その後、耐えきれなくなった」


「え?」


「殺してくれ、と言ったのは自分なのに。実際に両親が死んだら、あなたは恐怖に震えた」


 彼女は、僕の髪を撫でる。


「そして、泣きながら私に縋り付いてきた」


 彼女の声が、優しく響く。


「『怖い。忘れたい。この記憶を消してくれ』って」


 僕の体が、震える。


 全身から、力が抜けていく。


「私は、あなたを愛していたから」


 彼女は、囁く。


「あなたの願いを、また叶えたの」

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