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【完結】記憶の檻  作者: ドネルケバブ佐藤


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第11章

# 第11章:最後の選択


 僕は、彼女の言葉を、ただ聞いていた。


 頭の中が、混沌としている。


 全てが、繋がった。

 でも、同時に、何もわからなくなった。


 僕が、両親の殺害を依頼した。

 彼女が、それを実行した。

 そして、僕は記憶を消して、逃げた。


 それが、真実。


 でも、受け入れられない。


 僕の中に、その記憶がない。

 だから、実感が湧かない。


 まるで、他人の物語を聞いているようだ。


「信じられない……」


 僕は、呟く。


「僕が、本当にそんなことを……」


「信じなくてもいいわ」


 彼女は、僕から離れる。


 そして、窓辺に戻る。


「でも、それが真実よ」


 彼女の背中が、月明かりに照らされている。


 小さくて、華奢な背中。


 この背中が、両親を殺した。

 僕のために。


「私は、三年間ずっと待っていた」


 彼女は、外を見たまま言う。


「あなたが、真実に気づく日を」


「なぜ……」


 僕は、立ち上がる。


「なぜ、待っていたんだ? 僕が忘れたままなら、君は幸せに暮らせたはずだ」


「幸せ?」


 彼女は、笑う。


 でも、それは悲しい笑いだった。


「私の幸せは、あなたと一緒にいることよ」


 彼女は、振り返る。


「でも、記憶を失ったあなたは、私を見ていなかった」


 彼女の目が、僕を捉える。


「あなたは、ただ私に依存していただけ。私を愛していたわけじゃない」


 彼女は、ゆっくりと僕に近づく。


「私は、本当のあなたが欲しかった。全てを知った上で、私を見てくれるあなたが」


 彼女は、僕の目の前に立つ。


「だから、待っていた。あなたが真実に辿り着くのを」


 僕は、後ずさる。


 でも、すぐに壁に背中がぶつかる。


 彼女は、僕に近づく。


 逃げ場がない。


「そして、今」


 彼女は、僕の目を見つめる。


「あなたは、全てを知った」


 彼女の手が、僕の胸に触れる。


「どう思う?」


「……わからない」


 僕は、正直に答える。


「何が本当で、何が嘘なのか。何を信じればいいのか。わからない」


「そう」


 彼女は、微笑む。


「なら、教えてあげる」


 彼女は、僕の手を取る。


 そして、自分の胸に当てる。


「これが、本当よ」


 彼女の心臓の鼓動が、僕の手のひらに伝わってくる。


 速い。

 激しい。


「私は、あなたを愛している。それだけは、本当」


 彼女の声が、震える。


「あなたのために、人を殺した。それも、本当」


 彼女の目から、また涙が流れる。


「そして、あなたは、私に殺人を依頼した。それも、本当」


 彼女は、僕の手を強く握る。


「私たちは、共犯者なの」


 その言葉が、重く僕にのしかかる。


 共犯者。


 僕と彼女は、同じ罪を背負っている。


 いや、違う。


 彼女だけが、背負っていた。


 僕は、逃げた。


「ごめん……」


 僕は、ようやく言う。


「ごめん……」


 それしか、言えない。


 彼女は、僕を抱きしめる。


「謝らなくていいの」


 彼女の声が、優しい。


「あなたは、苦しんでいた。だから、私が助けた。それだけよ」


 彼女の腕が、僕を包む。


 温かい。

 でも、どこか息苦しい。


「でもね」


 彼女は、僕の耳元で囁く。


「もう、逃げられないわよ」


 僕の体が、強張る。


「あなたは、全てを知った。もう、無関係ではいられない」


 彼女は、僕から少し離れる。


 そして、僕の目を見る。


「あなたには、選択肢があるわ」


 彼女の声が、静かに響く。


「一つ目」


 彼女は、指を一本立てる。


「警察に行く。私を突き出す。そして、私があなたに殺人を依頼されたと証言する」


 彼女は、微笑む。


 でも、その笑顔には、どこか挑戦的な光がある。


「そうすれば、私は殺人罪で捕まる。でも、あなたも共犯として捕まるかもしれない。証拠はないけど、疑いはかけられる」


 彼女は、二本目の指を立てる。


「二つ目」


 彼女は、一歩近づく。


「何もしない。このまま、私と一緒に生きていく」


 彼女の目が、僕を捉える。


「私は、これからもあなたの世話をする。あなたを守る。あなたと一緒にいる」


 彼女の手が、僕の頬に触れる。


「そして、あなたは、私の檻の中で生きる」


 僕の背筋が、凍る。


「檻……?」


「そう」


 彼女は、優しく微笑む。


「もう、あなたは自由じゃない。真実を知ったあなたは、私から逃げられない」


 彼女の指が、僕の唇をなぞる。


「あなたは、私のもの」


 彼女の声が、囁きになる。


「これからも、ずっと」


 僕は、何も言えない。


 喉が、締め付けられているような感覚。


 彼女は、僕から離れる。


 そして、ソファに座る。


「さあ、選んで」


 彼女は、足を組む。


 その仕草は、余裕に満ちている。


「警察に行くか」


 彼女は、微笑む。


「それとも、私と一緒にいるか」


 彼女の目が、僕を見つめる。


「答えは?」


 僕は、立ち尽くす。


 選択。


 でも、どちらを選んでも、僕に未来はない。


 警察に行けば、僕も疑われる。

 彼女と一緒にいれば、僕は彼女の囚人になる。


 どちらも、地獄だ。


 でも――


 僕は、考える。


 本当に、地獄なのか?


 彼女と一緒にいることは、そんなに悪いことなのか?


 この三年間、彼女は僕の世話をしてくれた。

 優しくしてくれた。

 支えてくれた。


 それは、嘘じゃなかった。


 彼女の愛は、歪んでいるかもしれない。

 でも、本物だった。


 そして、僕は――


 僕は、本当に彼女を拒絶できるのか?


 僕には、何もない。

 両親もいない。

 友達もいない。

 仕事もない。


 あるのは、彼女だけだ。


 彼女を失ったら、僕には何も残らない。


 それは、わかっている。


 だから――


 僕は、迷っている。


 警察に行く勇気もない。

 彼女を受け入れる覚悟もない。


 ただ、立ち尽くしているだけ。


 彼女は、待っている。


 静かに、じっと、僕を見つめている。


 その目は、全てを見透かしているようだった。


「時間をあげるわ」


 彼女は、立ち上がる。


「今夜は、ここに泊まる。明日の朝まで、考えていいわよ」


 彼女は、寝室へ向かう。


 そして、振り返る。


「でも、忘れないで」


 彼女は、微笑む。


「もう、逃げられないわ」


 彼女は、寝室に消える。


 僕は、一人、リビングに残される。


 時計の針が、静かに進んでいく。


 僕は、ソファに座る。


 頭を抱える。


 選ばなければならない。


 でも、選べない。


 どちらを選んでも、僕は終わる。


 それが、わかっている。


 だから、僕は――


 ただ、時間が過ぎるのを待つしかなかった。

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