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13歳-11-

 翌日。

 シウラディアはあの後食事や睡眠が取れるようになっていた、と三人から教えてもらった。

 杖剣が持続的に機能してくれているようで、本当に良かった。

 

「捨てたらどんな嫌がらせ受けるか分からないから絶対捨てちゃダメ、って言っておきましたんで!」

「もちろん、これから引き立て役頑張らないとね、とも」

「それでシウ、これからも可愛がってもらえるんだ、って喜んでた」

 

「……あの時言った内容は忘れて欲しいんですけどね……」

 と言ったら、三人とも初めて見る可愛い笑顔で笑ってくれた。

 

 ――貴族に向かって笑えるようになってくれたなら、頑張った甲斐もあるけどさ。

 




 とりあえず、このまま療養してくれればシウラディアは一安心。

 

 だから問題は……黒い女だ。

 ――なぜ前生を知っているのか? 目的はなんなのか……

 

 どんな理由があれ、私とロマを殺そうとしていることは確か。

 取り急ぎロマに昨日のことを話しておくことにした。

 

「ふむ……。確かに、お主がおらねば今頃この世に居なかったのは事実じゃな」

 ロマはポテトを咥え、腕組みしてソファにもたれかかる。

 

「ロマのこともすでに狙ってるらしいから、警戒しておいて欲しいの」

 

 ロマは上を向いて口だけでポテトを食べ進めた。今更『行儀が悪い』と叱る者はこの場に居ない。残念ながら。

 

「事情は了解いたしました。聖教会の本部にも伝えさせていただきます。もちろん我々もロマ様から目を離しませんので」

 とヒルケさんが代わりに頷いてくれた。

 

「はい、お願いします」

 

「……まあ、ワシやルナリアは自衛できるとしても、問題はシウラディアという娘じゃな」

 ポテトを口に入れたロマが言う。

「口封じに来るかもしれん。向こうからしたら用済みじゃろう」

 

 言われて、ハッとする。

「……そうか、治療院の中にも堂々と入れてるし……」

「それもだし、退院後も気をつけた方が良かろう。施設内で殺人は足も着きやすい。出た後を狙われる可能性も高い」

「確かに……」

「となると学園にも話を通しておくべきじゃ。学園の防犯も完璧ではない」

 

 学園の敷地内は基本的に部外者立ち入り禁止で、結界魔法もある。けど、多くの人が出入りするため抜け穴も多い。

 

「信用できる教師は居るか?」

 

 ロマに問われて、真っ先にドーズ先生が思い浮かんだ。

 

「居るなら早めに相談しておいた方が良かろう」

「うん。そうだね、ありがと」

 

 ロマは立ち上がり、テーブルを迂回して私の元へやってきた。

 そのまま私の膝の上にちょこんと飛び乗り、私に背中を預けてくる。

 

「しかし、憶映晶に魔法無効の短剣か。どちらも簡単に手に入る物ではない。背後に大物が居るか、もしくはかなりの規模の組織じゃな」

「なんでこんなキナ臭い事になってきたのかしらね……」

 

 左腕でロマを抱き寄せて、右手で頭を撫でる。洗ったばかりの髪がサラサラとして気持ちいい。

 

「ワシの敵対勢力か。さもなくば世間知らずの子供を聖女に仕立て上げて、聖教会を裏から(ぎゅう)()ろうとでもしとるんじゃろう。妄想激しいヤツはどこにでも居るものじゃ」

 

 ――妄想……だったら、いいんだけど。

 そう楽観するには、あまりにストーリーが前生と一致しすぎている。

 

「敵対勢力については調査を進めておく。そっちは学園への情報共有と、自分の周囲を警戒せよ」

「うん。ロマも気をつけてね」

 

「会話の内容と光景がかみ合わねーよ……」

 ショコラが小声でそう呟いたとかなんとか。



   †

 


 また翌日、朝。

 始業前に職員室に行き、入り口近くの先生に入室の許可を得て、ドーズ先生の席に向かう。

 

「ルナリアさん? おはようございます、ずいぶん早いですね」

 ドーズ先生と共に授業の準備をするギルネリット先生が先に私に気がついた。

 

 続いてドーズ先生が私に振り返る。

 

「おはようございます。実はお二人に話があって……。少しだけお時間、よろしいでしょうか?」

「丁度良い。こっちも聞きたいことがある。ギル、隣の会議室空いてるか確認してきてくれ」

「分かりました」

 

 ギルネリット先生が早足で移動していった。

 

 ――聞きたいことって、なんだろう?

 候補がありすぎて、逆に分からない。





 すぐに隣の会議室に通された。

 

「例の杖、ありがとうございます」

 席に座る前にギルネリット先生からお礼を言われてしまう。

「昨日の放課後にシウラディアさんのところに寄ったら、見違えるくらい回復していて、びっくりしました」

 

「私にできるのはあれくらいだと思いましたので。

 ……それで実は、あれをあげた時にシウラディアから聞いたんですが……」

 

 私は昨日ロマにした話と同じ話をした。

 …………

 ……




「そんなことが……」

 ギルネリット先生が口元を抑える。

 

「ロマには昨日、話を通しておきました。聖教会側でも調査してくれるそうです。けど、学園側にも協力いただきたいんです」

「ええ、もちろんです」

 

「シウラディアが戻ってきたら、私もなるべく近くに居るようにします。けど、私一人では守り切れないかもしれない……。

 どうか、よろしくお願いします」

 

「とはいえ話を聞く限り、ルナリアさんも危ないでしょう。何かあったらすぐに私やドーズ先生に相談してください」

「ありがとうございます」

 

 ――よし、これで話は通せた。

 

「……それで、先生からのお話というのはなんでしょう?」

 ドーズ先生の方を見る。

 

 ドーズ先生は相変わらず、感情の読み取れない無表情で私を見下ろしていた。

 

「……アナライズの件だ」

 ドーズ先生の反応が珍しく鈍いような気がした。気のせいかな?

 

「ああ、その件ですか」

「あれは本当か?」

 二言目には、いつものドーズ先生に戻ったように見える。

 

「本当です。……今まで隠していてすみませんでした」

「謝ることじゃない。味方だろうが関係の浅い相手に手の内を隠すのは当然だ」

 

 ――考え方が完全に戦場なんだよなあ。

 ここは学園。教師……ひいては運営である王宮や聖教会を欺こうとした、と判断されてもおかしくないんだけど。

 

「ルナリアにシウラディアの鑑定を頼みたいと思っただけだ。嫌なら嫌で問題ない」

「もちろん、やらせていただきます。……というか、もう何度もしてるんですけど。

 普段はなるべく使わないようにしてるんですが、シウラディアは異常だったので……」

 

「そうだな。基本的にはあまり使わない方が良いだろう。覗き見られて良い気分になる者は居ない」

「覗きって……」

「相手に許可を取ってないなら覗きだろ」

「うぐっ!?」

 

 ぐうの音も出ない正論パンチだった。

 流石のギルネリット先生も庇えないようで、苦笑を浮かべて私を見ている。

 

「できれば紙に書き起こしてくれると助かる。まあどちらしても、後日またシウラディアが居る時に話をさせてくれ」

「……分かりました」

「そろそろ始業の時間だ。戻りなさい」

「はい、失礼します……」

 

 ――アナライズ、自重しよう。

 

 本当、ドーズ先生は良くも悪くも私の考えを変えてくれる。

 こういう教えをくれるから、『教師』という職業名になっているのだろう。



   †



~~【幕間】???~~



 とある屋敷の、とある部屋。

 一人の女が大きな執務椅子に腰掛け、窓の外に広がる星空をぼんやりと見上げている。

 

 そこにノックの音。

 女が「入れ」と答えると、ドアを開けたのは身長190cmほどの長身の男だった。

 男は部屋を進んで、執務机を挟んだ対面に立つ。

 

「シウラディアについて何か聞いてるか?」

 女は外を見ながら尋ねた。

 

 男は一瞬彼女を伺うように見、

「……俺は詳しく知らんが、順調に回復してるとは聞いている。このままなら2、3日で復帰できるかもしれないそうだ」

 そう答えた。

 

「2、3日……。早いな」

「ある貴族令嬢が、魔力神経を補助する魔道具を渡したことで快方に向かっているらしい」

「……ルナリアか」

「そういうことだ。聖女の件といい、相変わらずぶっ飛んでる」

 

 女はそこで初めて男の方に振り返った。

 机の上に肘をのせ、指を組んで口元に持って行く。

 

「用件はその三人に関わることだ。まず、シウラディアを保護して、私のもとに連れてきてくれ」

「まず?」


 

「そして、ルナリアとロマを殺してほしい」



「……急に剣呑だな」

 そう思ってなさそうな呑気な顔で男は見下ろしている。

 

「あの二人の存在は歴史を歪める。この国を……民を、死地に追いやる。このまま自由にさせておくわけにはいかない」

  

「……シウラディアの病室に潜り込んだのはやはり君か」 

「ああ。憶像晶にスプリットムーンまで持ち出したんだがな」

「その二つを聞いた時に気付いた。……俺達に先に言えば良いものを」

「私の尻拭いで悪いが、頼まれてくれるか?」

 

「それは、君にとっても必要なことなんだろう?」

「無論だ」

「であれば、是非もない」

「助かる」

 

 そう言って手を下ろした女の表情は、険しい。

「礼はなにがいい? 言ってみろ」

 

「礼など要らん。君から受けた無数の恩、その一つを返せるのみだ」

 男は相変わらずの表情で返事をした。

 

「反論は許さん。お前は、恩という首輪で括られた飼い犬。だから恩など返させてやらない。

 さっさと、どんな礼がいいか言え」

 

 男は呆れたように……子供のワガママを仕方なく聞き入れる大人のように、目を細めた。

 

「……なら、この場での会話を全て忘れろ」

「……ほう?」

 眉根を上げる女。

 

「これからトルスギットの娘と聖女が、どこぞの狂った犬に噛まれて死ぬだけ。実は首輪が付いていようが、他人には見えない。

 ……だから君は、気に病むな。彼女らの命を背負い込むな」

 

「なにに気づいてる?」

 女は前のめりに男に詰め寄る。

 

「なにも気づいていない。ただ、君に妄想癖はないし、他者の死に涙を流す人物だ、と知ってるだけだ」

「相手は上級も上級の貴族令嬢と聖女だぞ。それを殺すお前は、捕まれば死罪では済まない」

「愚問だ。それでも必要だと言ったのは君だろう? なら、俺がためらう理由が無い」

 

 話は終わりとばかりに、男はきびすを返した。

 

「……すまない。頼む」

 女は小さく、男の背中に頭を下げる。

 

「飼い主が飼い犬に礼などするな」

 

 そのまま男……『飼い犬』は、部屋を出て行った。

 

 女……『飼い主』は小さく、

「……馬鹿野郎が」

 と呟く。

 

 それは果たして、自分と飼い犬、どちらに向けたものだったか。

 

「……それでも、私は……」

 そこから先の言葉は、更ける夜の虚空に消えていった。



~~【幕間】??? 終~~


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