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13歳-3-

 翌々日。新年度三日目。

 正一年生になって、初の戦闘実技の授業。

 

 準一年生の時の貴族には三ヶ月猶予を持たせるけど、正一年生はいきなり授業開始だ。

 とはいえ、流石に新入生達をいきなり戦わせるわけではなく。武術も魔法も無縁だった平民の子達に、1から基礎を教える授業だ。

 

 その間、貴族達は模擬戦。

 

 ……なんだけど、どうしてもシウラディア様のことが気になっちゃう。

 

 ――理論的には、いくら才能があっても、すぐに魔法が使えるはずはない。

 

 魔法で重要なのはイメージだ。私は前生の経験があったけれど、彼女はまだ十三年しか生きておらず、魔法を見たことすらない。

 いくら才能があっても、一日で魔法を使うなんて無理だろう。


 ――と、頭では分かっているんだけど。

 ギルネリット先生の指導力は、この一年で実証し尽くされてきた。女子の間では有名だ。私もお茶会で良く話を聞かせて貰う。

 

 そんな有能なら、あっさりシウラディア様の才能を引き出してしまうかも……

(いやいや、いくらなんでも心配しすぎよね……)

 




 などと考えながら、私は正面の男子に魔力剣を放った。

 と同時に、後ろから来た剣撃をガンガルフォンで弾きつつ。

 上からの戦技『イーグルクロウ』を魔力足場から跳んで、空中で交差するように回避する。

 

 すれ違いざまに一撃を加え、私はゆっくりと地面に降りた。

 ふわりとスカートが舞い上がるけど、もちろんキュロットを忘れていないから大丈夫。

 

 着地を狙ってくる男子達。

 五本の魔力剣と連携しながら、一人ずつ撃破。

 

 ……気付けば、七人の男子が私の周りでダウンしている。

 私は剣を収めて、みんなの介抱を始めた。

 

 ――と、こんな感じで、準一年生の二学期の後半から模擬戦は集団戦になっていた。

 ドーズ先生の「一対一では、もう互いに勉強にならんだろう」という鶴の一声により。

 

(そんなことより、ドーズ先生が戦ってくれれば良いんだけどなあ)

 本当にこの一年、一回も模擬戦すらしてくれなかったし。

 いつになったら再戦できるんだろう。そっちのほうがよっぽど勉強にな……

 


 ドオォン!!!



 突然、地震と轟音が中庭に響き渡った。

 音の発生源は中庭の西側。平民の子達が魔法を習っている一角だ。

 

 ――嫌な予感しかしない……

 

 足場を展開して、空を跳んでそちらに向かう。

 空から見ると、何が起きたか良く分かった。

 

 木の的が消し飛び、地面は大きく抉れ、周辺には魔法の炎が燃えている。

 その近くに、水魔法で消火するギルネリット先生の後ろ姿。

 

 そしてギルネリット先生の背後で、杖を抱えながら尻餅をついてるシウラディア様。

  

 シウラディア様の近くに降りる。

 

「ル、ルナリア様……」

「……これは、シウラディア様が?」

 

 シウラディア様は目の前の光景と私を交互に見て、

「そう……なんですかね……?」

 と、未だに何が起きたか良く分からない様子だった。

 

「間違いなくシウラディアさんの魔法によるものですよ」

 そこで消火を終えたギルネリット先生が近づいてきた。

「本当に魔法は初めて? 一度も鍛えないでこれなら、天才ですよ!」

 

「……天才? 私が……?」

「ちゃんと基礎から学べば、卒業までに……いや、二年生の後半には、世界有数の魔女になれるかもしれません!」

 

 その言葉は、シウラディア様の死への片道切符に等しい。

 

 ――まずい……!

 なんとか割って入りたい。

 入りたいが……そのための理由や言葉が見つからない。

 

「本当、ですか……?」

 シウラディア様の、縋るような声。

 

「本当よ。これから一緒に頑張りましょうね」

「はい!」

 シウラディア様は満面の笑みで、大きな声で頷いた。

 

 ――それは自分に自信のない少女が見つけた、希望の光なのだと。

 横で見ているだけで、察せてしまって。

 

 そんな嬉しそうなシウラディア様を止める言葉が、咄嗟に思い付けなかった。





 次の休憩時間に話したところ、シウラディア様はこう言った。

「将来魔女になれれば、両親や妹に美味しい物が食べさせられるかもしれません。それが、本当に嬉しいです」

 

 屈託無く微笑んで言う彼女はいじらしくて、愛らしくて、……悲愴で。

 

 私は、それを真っ向から否定することができなかった。

 その言葉はきっと、前生で命を(なげう)った理由と同じなのだろうから。

 

 ――止めるチャンスがあったとすれば、彼女が魔法に触れる前しかなかったのだ。



   †



 それから、シウラディア様の魔法への意欲は凄まじかった。

 朝教室で会うと、疲れた表情で魔力神経を浮かばせていることもしょっちゅう。

 

 みるみるうちに魔技を伸ばし、三日も経たずに100を超える。

 魔力神経負荷は常に50を超え、90近くに達することも。私からしたら気が気では無い。

 

 本人は常に疲れているようで、けれどイキイキとして。まるで別人みたいに良く笑うようになった。

 

 ――今の彼女からは、魔法を奪えない。

 どんな手段を使ってでも、魔法を諦めないだろう。

 

『愛する者のため』という動機は、なによりも強い。

 

 だからこそ、どうしてアナライズした直後に動き出せなかったのか。悔やんでも悔やみきれない。

 いつだって、予想が甘いのだ。

 

 先に先生達にシウラディア様の状態を全部説明していれば、初日の授業内容も変えてくれた可能性だってある。

 たとえ確率は0に近かったとしても、0ではないなら行動すべきだったんじゃないだろうか……?

 

 ――私に、アナライズのことを晒す覚悟がなかったせいで。

 

 彼女を助けると決意しておきながら、つい保身を優先していたことが、情けなくて悔しくて……なにより、自分自身が憎い。

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