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12歳-30-

「肝が冷えるとはこのことか……。いやはや末恐ろしい」

 ボス少女が距離を取る。

 

 私は再び空を駆けた。

 ボス少女が右手を真上に掲げた。

 

「足を斬りたきゃくれてやろう! その隙に吹っ飛ばしてくれる!」

 

 上から串刺しにするように振り下ろされた光足、体を捩って回避。そのまま関節を斬り落とす。

 

「三つ……」

「そこじゃ!」

 

 残心にボス少女が光球を投げつけてきた。

 光球が爆ぜ、光足も巻き込んで光の渦が広がっていく。

 

 護法剣展開!

 

「甘いわ!」

 

 うねるように伸びた光足が背後に。

 気づいたときにはすでに手遅れ。強烈に背中が打ち付けられる。

 

 きりもみしながら石床にぶつかり、ゴロゴロと地面を転がる。

 壁にぶつかって、私の体は止まった。

 少し目が回り、背中もちょっと痛む。けど、パルアスに吹っ飛ばされた時よりは痛くない。

  

 ガンガルフォンを杖代わりに、ゆっくり起き上がりながら、

「……四つ」

 私の背中を叩いた光足が、地面に落ちて突き刺さった。

 

=============

・右手装備 ガンガルフォン+93

=============

 

 再び200までエンチャント。

 魔力神経の負荷は85%に至る。

 

 見上げると、ワンピースがはためいて、細いふとももが盛大に見えた。それに気づいてなさそうなボス少女が、私を悔しそうに睨んでくる。

 

「どこまで読まれてるんじゃ……。このワシがまるで掌の上とは……」

「今のは読んだわけじゃないけどね」

 

 光足を囮に光魔法までは予想してたけど。それをさらに囮にしてくるとは読めなかった。

 

 読み負けたけどなんとか対応できて、ついでに四本目も斬り落とせると判断しただけ。ショコラとの訓練なんて、その繰り返しだ。

 

「もう残り四本か……。ふん、半分もあれば上等よ!」

 ボス少女が光の粒をまき散らす。

「お主が全部斬り落とすのが先か、その前に体が限界を迎えるのが先か、勝負じゃ!」

 

 ――まあ、勝負は勝負ではある。

 ただ、勝負どころはそこじゃないんだけど。

 

 光の粒が襲いかかってきて、次々爆ぜる。

 護法剣を盾に強行。

 そこに、爆発に紛れた四本の爪が襲ってくる。

 

 ――ただ、それは歯抜けの四本。

 波状攻撃はすでに成り立たず、隙間だらけ。

 

 軍や騎士団では、二割の兵士が戦闘不能になることを『全滅』と定義している。

 

 つまり、八本から四本に減るなんて、とっくに全滅以下の壊滅状態だ。もはや戦える状態ではない。

 

 ……という事実に、ボス少女は気づいていない。

 

 ――前生で戦術の座学、ちゃんとやってて良かった!

 

 四本の光足を余裕で(さば)く。

 そのまま真っ直ぐボス少女へ迫る。

 

「こやつ……!」

 そこでやっとボス少女も私の狙いに気づいたみたい。


「なんで光足を斬ってたか、考えなきゃ。近づくのに邪魔だったから、どかしただけよ」


「ちぃっ!」

 両掌を広げるボス少女。

 光の花弁のような盾が展開された……けど、どうやら防御魔法は苦手らしい。


「まあ、貴女なら死なないでしょ。タリスマンもまだ生きてるみたいだし」 

「ぬわあああああああああああ!」

 

 右腕一本でガンガルフォンを振り下ろし、盾ごとボス少女を斬り裂いた。



   †



 ボス少女が石床に叩き付けられる。

 光足がクッション代わりになって、ゆっくりと消えていった。

 

 私は足場を階段状にし、石床に降りる。

 ゼルカ様達は壁際で三人身を寄せ合っていた。怪我もないみたい。

 

 警戒しつつ、ボス少女に歩み寄る。

 よろよろと立ち上がるボス少女。

 

「いやはや、参った。降参じゃ」

 両手を挙げるボス少女。

 ……襟からおへそまで、縦にパックリ斬られたにもかかわらず。

 

 まだギリギリ大事なところは見えてないけど、動いたら簡単に見えちゃいそう。

 

「ちょっ……、殿下、ダン様、こっち見ちゃダメです!」

 慌てて男性陣に叫ぶ。

 彼らも状況を理解し、急いで目を逸らしていた。

 

「別に大層なもん付いとらん。気にせんでええ」

「私よりは大層だから。貴女は気にしなさい」

  

 ボス少女の視線が、幾分か下がった。

 

「……まあ、微差でワシの勝ちか」

「やかましい」

 

 私より僅かに大きい二つのふくらみ。

 ……その間に、大きな杭でも突き立てられたような、痛ましい古傷が見えた。

 

 ――彼女もまた、戦いに生きる女の子。ショコラほどじゃないけど、古傷が体の一部みたい。

 

「お主、一体何者じゃ? 強いとかいう次元じゃないぞ」

 ボス少女の言葉で、視線を彼女の目に戻す。

 

「……尋ねる前に、そっちから名乗るべきじゃない?」

「ワシはロマ・ラダゴリカ。二年生じゃ。鑑定してくれて構わん。聖衣が破れた今、抵抗する術もないからの」

 

 お言葉に甘えてアナライズしてみる。

 

=============

【ロマ・ラダゴリカ】

・HP 103/103

・MP 13692/20898

・持久 55

・膂力 25

・技術 44

・魔技 856

 

・右手装備 極聖の指輪

・左手装備 極聖の指輪

・防具   天の聖衣(全壊)

・装飾1  形代のタリスマン

・装飾2  なし

 

・物理攻撃力 29

・物理防御力 36

・魔法攻撃力 1411

・魔法防御力 7018

 

■概要

人間。196代聖女。

6才で聖女に就任して以降、オリジナルの極聖魔法を多く開発。

攻守の要である『聖光八足』が象徴的で、悪魔討伐数は近年の聖女の中でも図抜けて多い。

ひとえに悪魔討伐に特化し、戦う距離を選ばず、地上・空中戦も得手とする。

生育環境の影響で、魔法防御力は極めて高い。

物理防御力も天の聖衣で補強されているため、ダメージを与えるのは至難だろう。

============= 

 

(……聖女……!?)

 びっくりして、思わず声が出そうだった。

 

 聖女とは、天界から極聖の指輪を伝授され、突発的に湧き出す悪魔を討伐する女性のこと。

 

 社会的地位は王族と同等に扱われ、悪魔から人を守る職務上、人気も高い。

 前生のシウラディアなんか、もはや全国民が熱狂して信奉していた。

 

「……極聖の指輪って……」

 なんとか説明文には触れず、装備の方を口に出せた。

 

「いかにも。聖女に任命された時に賜った、神聖魔法を極聖魔法に引き上げる装備じゃ」

「……なんで、こんなところに……?」

 

「3年前、準入学するや否や、学園の教師に相談されての。『ダンジョン演習が形骸化しているため、どうしたらいいか』と」

 

 話ながらも、未だに前を隠そうとしない彼女に、とりあえず自分のブレザーをかけてあげた。

 

「んなもん、『実際に危険な状態に置いて、予想外のボスでも置けば良かろう』と答えた。

 フリップフロップは安全で便利じゃが、そのせいで危機感が湧かん。今頃、お(ぬし)らの同級生は皆、二年生や三年生のボスに死なない程度に痛めつけられておるじゃろう」

 

 ――今回のこれは、ロマからの発案だったんだ……。

 

「そっちのことも(ようよ)う聞かせて欲しいが……、こんなところで立ち話もなんじゃ。教師も待っておるだろうし、一旦お開きとするか」

 ロマがこちらに近づいてくる。

「お主、名は?」

 

「……ルナリア。ルナリア・ゼー・トルスギット」

「トルスギット……確か公爵家だったか」

「ええ」

「ルナリア。また今度、茶でも飲み交わしながら聞かせておくれ」

 

 フリップフロップのタリスマンが光り出した。結界を解いたのだろう。

 

「ではな白姫。なかなか楽しかったぞ。言っていたとおり、しかと教え返されたわ。良ければ今後も、色々と教えておくれ」

 屈託無いロマの笑顔に見送られて。

 

 ……次の瞬間、私達は洞窟の入り口、ギルネリット先生の居る広場に立っていた。



   †



 それからの記憶は曖昧で。

 ギルネリット先生がなにやら声をかけてきた気もするし、殿下やダン様、ゼルカ様も何かを言ってきた気もする。

 

 ……けれどその間、私はずっと考え事をしていた。

 

 ――前生では、今の聖女は準一年生の半ば……つまり、あと三ヶ月以内に亡くなっている。

 長期休暇明けに学園全体で葬儀が開かれた。

 聖女が不在になったから、シウラディアが翌年、次の聖女候補として入学してきたのだ。

 

 聖女の情報は基本的に公表されない。

 前生では年齢も死因も不明だったから、てっきり『老いによる寿命かな?』とか思っていた。

 

 だが実際は、元気すぎるくらい元気な少女。

 病気なら、こんなところで下級生をイジメている場合ではないはず。……急病という可能性もあるけど。

 

 でもどうしても、自然死ではない死因が脳裏をこびりついて離れない。

 

 前生でも、生徒の間で噂されていた。

『聖女様は、悪魔討伐に失敗して殺されたのではないか』と――

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