表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/105

12歳-28-

 霧を抜けた先は、巨大な石造りの部屋。

 天井は裏山の頂上を遙かに超える高さで、幅と奥行きも裏山をすっぽり覆えそう。

 

 天井の石が光を放ち、視界は明るい。

 

 ――こんなに大きな部屋……ボスはガーゴイルとか、大巨人(ティターン)とかかな?

 

 今のところボスらしき姿は見えない。



「ほう? 四人揃ってここまで来たか、準一年の坊主ども。なかなか見所があるじゃないか」



 女の子の声が、部屋中に反響して聞こえた。

 同時に淡い光を放つ少女が一人、ゆっくりと宙を降りてくる。

 3メートルほどの高さで静止して、こちらを見下ろした。

 

「……なぬ? 女子? これはこれは……今年の準一年のトップは、なかなか変わり種じゃのう」

 少女は何が面白いのか、獰猛に犬歯を剥き出す。

「まあ何はともあれ、よくぞこのダンジョンの最奥に辿り着いた! ワシがここのボスじゃ。まあ、今日限りじゃがな」

 

 両手を腰に当て、胸を張るボス少女。

 ――とても親近感を覚える体型だった。

 

 年齢は14か15歳くらい。

 よく手入れされた、艶やかな蒼い長髪。

 ぷるぷるなスカイブルーの瞳は、私達を……これから蹂躙する獲物を値踏みするように、不敵な虹彩を宿していた。

 荘厳で豪奢な白いワンピースは(かす)かに光を発して、まるで本物の天使みたい。

 

「いやはや、ワシの出番が無いかとヒヤヒヤしたが、杞憂で良かったわい」

 

 見た目にそぐわない古風な喋り方で、年齢不相応にコキコキと首を左右に曲げる少女。

 

 ――アナライズ。

 パァン!

 瞬間、ボス少女の目前で魔力が弾けた。

 

「ぬおっ!?」

(アナライズできない!?)

 ほぼ同時に驚く私達。

 

「なんじゃ、今のは……鑑定スキルでもかけられたか?

 全く発動に気づけぬとは。

 ……どうやら化生(けしょう)が混じっておるな」

 

 ――12歳(中身プラス14歳)の女の子を捕まえて化け物呼ばわりは酷くない?

 と言いたいけど、まさか本当に言うわけにもいかない。

 

「まあ良い、今に分かるじゃろう。それじゃ、ボス戦開始と行こうか!」

 

 右手を真上に掲げて、掌に魔力を収束し始める。

 

「皆さん下がってください!」

 ゼルカ様が前に出、結界魔法を展開した。

 

「前に出る勇気は良し。褒美にど真ん中にくれてやろう! 頑張って防げよ、娘!」

 

 振りかぶって、ゼルカ様に直接魔法を投げつけるボス少女。

 ゼルカ様の結界の正面に、魔法球がぶつかる。

 

「……?」

 だが、何も起きず。球は結界の前に留まった。

 

「なんだ……?」

 と殿下が呟いた――瞬間。

 

 渦巻くように、急激に球が拡大。

 暴力的な光の竜巻は結界を破壊し、全員を巻き込んでいった。

 

「うわああああああ!」

 

 全員がバラバラの方向に吹き飛ばされる。

 私は霧の門にぶつかり、背中から地面に落ちた。

 

「そうそう、言い忘れた。お主らが入ってから、この部屋に結界を張っておる。

 この結界の中ではフリップフロップは発動せん。故に、タリスマンの許容を超えたダメージは、そのまま体に行くから気をつけるんじゃぞ」

 

 起き上がって周囲を見る。

 ダン様は右の床に、殿下は左の壁際に、ゼルカ様はボス少女の向こう側に、それぞれ倒れていた。


「……くっ……!」

 霧の門に手を付いて立ち上がる。

 

 首から下げたタリスマンを見ると、黒くくすんで形代効果が切れていた。

 ドーズ先生の説明では自動転送されるハズだけど、私の体はまだここにある。ボス少女の言うとおり、自動転送機能が封じられているんだろう。

 

「ボスを倒すつもりで入ってきたんじゃ、問題なかろう? 安心せい。殺しはせん」

 言いながら、ボス少女が地面に降りた。

 

 右手の人差し指で指される。

 

 ゾクッと嫌な予感がして、とっさに横に飛び退いた。

 一瞬前まで私が手を置いていた箇所がバチンッと音を立てて、光の粒子を散らせた。

 

「じゃがもし『授業だしとりあえず入るか』と安易に踏み入れたのなら見当違いじゃ。

 授業だからこそ、無謀へのしっぺ返しは教えねばならん。転送して、はい終わり、じゃ勉強にならんからな」

 

 無造作に下手投げで(ほう)られた光魔法。

 途中で十数本に分岐して、回避方向を絞らせない。

 

「くっ!」

 

 ――魔力剣、20本展開!

 ドーズ先生の縛りを破ることになるけど、背に腹はかえられない。

 

 光線に魔力剣をぶつけて消していった。

 

 が、魔力剣を掻い潜ってきた光線が私の元へ。

 

 ――エンチャント、+10!

 

 ガンガルフォンで斬り落として、光線を全て凌ぎきる。

 

「……ふむ、化生はお主か」

 顎に手を当てて、楽しそうに笑うボス少女。

 

 魔力剣を再展開。とりあえず50。属性は全属性をバラバラに。

 エンチャントも+30。

 

「見事な魔法展開じゃ。

 見目も、ため息がつくほど愛くるしい。こんなに美しい無彩者は初めて見た。……それが猛者(もさ)となれば、なおさら、な」

 

 それを言ったらボス少女も美少女だし、女子にしては強すぎる。

 

「……貴女こそ。道中の敵と比べて強すぎる。最初からこのダンジョンをクリアさせないつもりだったのね」

()(よう)。貴族社会という狭い世界で育ってきた小僧小娘に、地べたの味を覚えさせるための(はかりごと)よ」

 

 周囲に無数の光球を浮かばせながらボス少女は答える。

 球の群れはくるくると衛星のように旋回していた。

 

「……地べたの味なら、散々味わってきたわ。確かに、なかなか感慨深い味ではあるかもね」

「自身の未熟を知り、それでも立ち上がるときに噛み締めている味じゃ。戦いに携わる者は特にな」

 

 最初は牢獄で、その次はショコラとの特訓で。

 どちらも確かに、成長の瞬間に味わっていたと言えるかもしれない。

 

「状況は分かったし、この学園の教育方針も納得はできる」

「理解が早くて助かるわい」

「だからって、騙されたことを許せるかは、また別の話よ」

 

 ガンガルフォンを構える。空気と擦れた三十重の魔力が、青い電気のようになって刀身を駆け巡った。

 

「ムカつくものは、ムカつくのよ!」

 

「それはまた、仕様あるまいな」

 ボス少女は可愛い笑顔で……見方によってはニヤニヤして言った。

 

「力でねじ伏せることを教育と言い張るなら、その子供に力でねじ伏せ返されることもある、って教育し返してあげるわ。お姉さん」

 

「くくくっ、お主の場合それが大言にならんから困ったもんじゃ」

 ボス少女が右腕を真横に振る。光球群が一斉に真横に並んだ。

「大いに結構。やってみんしゃい、白の姫。このワシ相手にまかり通せるならな!」

 

 魔力球群が、同時に無数の光線を発射し始めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ