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12歳-26-

 準入学から三ヶ月。

 いよいよ今日から戦闘実技の授業が開始する。

 

 戦闘実技は準入学測定のような模擬戦もあるけど、メインは『ダンジョン』という魔物の巣をチームで攻略していく実戦形式だ。

 これはダンジョン演習と呼ばれ、この国の開拓当時、男も女も魔物討伐に明け暮れたした史実にあやかっている。

 

 そのため、男女ともこの授業は必修。

 ――前生の私みたいに理由があれば別の授業に置き換えられるけど。

 

 とはいえ、今は未成年が本物のダンジョンに潜ることは厳禁。

 なので、学園の裏山には魔法で作られた疑似ダンジョンが存在していた。





「この疑似ダンジョンは最高レベル10まである。

 上のレベルをクリアできればできるほど評価は高くなる。

 戦闘職を目指す者は、卒業までに最低でもレベル5はクリアできるようになっておけ」

 

 裏山の広場で説明を始めるドーズ先生。横にはギルネリット先生も。

 

「疑似ダンジョン内は千里眼の魔法で映像として記録され、道中も評価対象だ。

 また攻略に際して、『フリップフロップのタリスマン』を付けてもらう」

 

 ドーズ先生はタリスマンを掲げて全員に見せた。

 ギルネリット先生はそのタリスマンが沢山入ったカゴを抱えている。

 

「この疑似ダンジョン専用アイテムで、形代の効果を持っている。

 が、代替できないダメージを受けるとこの場所に転送させる安全装置でもある。

 転送されたらその日は再挑戦できなくなるから注意しろ。治癒魔法や回復アイテムも有効だから、ダメージを受けたら回復を怠らないように」

 

 ――へー、そういう仕組みなんだ。

 

「なお、チームメンバーはこちらで選定する。

 最初のうちは一部例外を除き、成績が近い者同士で組んでもらう」

 

 というわけで、今回の私のチームメイトはガウスト殿下、ダン様、そしてゼルカ様の計四人。

 

 ギリカと同様、ゼルカ様もアーレスト家の空間断絶系魔法を得意としている。

 ギリカほど高度ではなけど、私達の防御の(かなめ)なのは間違いない。

 

「とりあえず説明は以上だ。質問がある者は手を挙げろ」

 

 特に誰も手を挙げなかったため、ギルネリット先生がタリスマンを配り始めた。

 

 ――いよいよダンジョン演習! ワクワクするような、緊張するような。不思議な気持ち。

 

 生徒は全員、学園の制服姿。

 この制服は耐衝撃、防魔法効果が施されており、下手な革鎧よりも強靱という。

 なので、私も制服の上からガンガルフォンを担いでいる。殿下とダン様も、それぞれ制服の上から帯剣していた。

 

 ギルネリット先生からタリスマンを渡され、首にかける。

 

「ではまず第一班。あっちの洞窟へ……」

 

 その後、第一班から順に疑似ダンジョンの洞窟を指示されていった。

 

 私達は第六班。

 第五班が案内されて、次は自分達の番……

 

 ……だったはずが、ドーズ先生はそこで私達に背を向けた。

 

「ダンジョン演習、開始!」

 ドーズ先生の合図で、皆が各々の洞窟に入っていく。

 

 戸惑う私達四人。

 

「お前達はあっちだ。付いて来い」

 ドーズ先生はさっさと山の上に向けて歩き出した。

 

「第六班はレベル1や2じゃなくて、上にあるレベル3を受けてもらいますね」

 ギルネリット先生が言って、後ろに回った。

 

 ――まあ、ダン様も私も測定で優だったし、分からないでもない。

 ゼルカ様も攻撃手段こそ無いけど、防御に関してはレベル高いだろう。

 

 ただ、そもそも私は、ダンジョン演習よりやりたいことがある。 

 私は駆け足でドーズ先生に近寄った。

 

「ドーズ先生、お久しぶりです」

 大きな背中にそう声をかけた。

 

「ああ」

「いつ本気で戦ってくれますか?」

 ドーズ先生は横目でちらりと私を見て、また前を向いた。

 

「そんな日は来ない」

「生徒にアミュレット外すと怒られるからですか?」

 

 ――だとしたら、まず学園長から説得しに行かなければならない。

 

「違う。『生徒相手に本気を出して負けた』と噂になりたくないからだ」

 平然と言いのけて、ドーズ先生はズンズン山道を進んでいく。

「だからもうアミュレットは外さないし、授業の範囲でしか戦わん」

 

「いやいや、圧倒的に先生有利じゃないですか。負けるわけないと思いますが……」

「有利だろうが、可能性は0ではない。0でないなら、そもそも戦わない。そんなリスク負う必要ないんだからな」

「ダメです! 戦ってください!」

 

「無用な(いくさ)は避ける。数々の名将はこの基本ができたから、名将なんだよ」

 ドーズ先生は顔だけ振り返って、ニヤリと口角を上げた。

「確実に勝てる戦いしかしない。兵法の基本だ。勉強になったな、生意気娘」

 

 そこで皆も追いついてくる。

 

「生徒になに教えてるんですか……」

 ギルネリット先生の呆れた声。

 

「戦術の授業だよ」

 

「ぐぬぬ……」

 私の顔の何が面白かったか、満足そうにまた前を向くドーズ先生。

「なんかそれっぽいこと言って逃げないでください! それでも騎士ですか!」

 

「卑怯で結構。初代国王は、確実に駆逐できる国力を付けてから魔物討伐に臨んだ。だから歴史の勝者になったし、そのおかげで今日(こんにち)の我が国がある」

 

「殿下、不敬罪でしょっぴきません?」

 ガウスト殿下にそう提案してみる。

 

「いや、まあ、言ってること自体は本当ですから……」

 困ったように微笑んで、殿下は頬を掻いていた。

 

 ――くっ、この役立たず巨乳好き浮気野郎!

 ……という先生よりよっぽど不敬な悪口は、すんでの所でとどめた。偉い私!





「着いたぞ」

 先ほどより少し大きな広場に出た。

「向こうに見える洞窟の一番左端が、今日のお前達の演習場所だ」

 

 ドーズ先生が指す洞窟は、入り口の立て札に3と書いてある。手前の方には4も見えた。

 

「ルールは他の班と変わらんが……ルナリア」

「はい」

 急に名前を呼ばれて、再び彼を見る。

 

「お前はエンチャント二回まで。魔力剣は同時に五本まで。属性付与も禁止だ。それらを破った時点で失敗とみなす」

 

「え? あ、はい、分かりました」

 ……と言うしかない。

  

「準備ができ次第、中に入れ。ではな」

 ドーズ先生はさっさと来た道を降りていく。さっきみたいな開始の合図はくれないらしい。

 

「皆さんの方は以後、私が見させていただきます」

 ギルネリット先生がにっこりと笑っていた。

「それでは……」

 コホン、と小さく咳払い。

 

「ダンジョン演習、開始です!」

 右拳を掲げるギルネリット先生。

 

 ……が、突然のことに誰も追従できない私達。

 段々顔を赤くして、ギルネリット先生はゆっくりと右手を下ろした。

  

「お、おぉー!」

 私がまず右拳を挙げる。

「おぉー」

「おー」

「おおぅ」

 

 次にゼルカ様、殿下、ダン様の順で、同じようにしてくれた。

 

「……ありがとうございます」

 顔が赤いギルネリット先生に、皆が頬を緩くなる。

 

 そんな若干締まらない合図で、初めてのダンジョン演習は始まった。

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