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12歳-22-

 ギリカの両膝裏に一閃。

 膝から力が抜けたギリカは、かくん、と膝立ちになった。

 

「……? なに? 今のは……?」

 

 ギリカが不思議そうに膝裏をさする。

 けれど、そこに異常はない。綺麗な膝窩だ。

 

 次の瞬間、周囲に浮遊する三本の魔力剣に気付いた。

 

「私が改心できたのは、一週間くらい経ってからだけど……そんなに時間はかけられないから。

 私の時より荒療治でいくわね」

 

「これは、ルナリア様の魔法ですか? ここは寮内です。攻撃魔法はお控えを……」

 ゆっくりと立ち上がりながら、ギリカが言う。

 

(ひざまず)け」

 魔力剣がギリカの膝裏を斬り付けた。

 

「あぅっ!?」

 再びギリカが膝を折る。

 反射的にまた膝裏を触るが、やはり傷跡は消えていた。

 

「この檻のおかげで、外部からは何が起きてるか分からないのでしょう? ……こんな魔法開発してまで、妹を虐待するなんてね」

 言いながらギリカに近づく。

「誰か、ゼルカ様を」

 

 ゼルカ様の侍女達が近寄り、声をかけて反応を見ていた。ショコラもギリカを警戒しつつ、彼女の方へ。

 

 そちらは任せて、再びギリカを見下ろした。

 

「この三本は『治癒属性』の魔力剣。付けた傷をすぐに治すけれど、痛みそのものはすぐに消えない。だから、傷はないのに、痛いと感じる」

「……治癒属性……?」

「この三本全部に、三つ命令を出してある。一つ目は、『ギリカがドアに移動し始めたら、手足を徹底的に斬れ』。

 貴女が部屋を出たら、檻が解除されるから」

 

「なぜ、それを……」

「二つ目は、『私が止めるまで不定期にギリカを斬り付けろ』。

 貴女に、痛みというものを教えてあげる」

 

 片膝を付いて、ギリカと同じ目線の高さになる。

 

「三つ目は、『ゼルカ様への謝罪が3秒なければ斬る頻度と速度を上げろ』。理由なんて理解しなくて良いから、声が尽きるまでずっとゼルカ様へ謝り続けなさい」

 

「……ルナリア様、さっきから何を言ってるのです?」

 

「この国の法で裁けないなら、私が貴女を裁く。自分が作った檻の中で反省しなさい」

 

 次にギリカの侍女に視線を向けた。

「制服を脱がしてあげて。服まで復元する力は無いから、このままだとボロボロになっちゃう」

 

 返事を待たず、続けてエルザに。

「持ってきた食料を」

 

「はい」

 エルザが持っていた袋を部屋の中央に置く。

 

「調理不要な食料と水が入ってるわ。月曜の朝までなら足りるでしょう」

 

「月曜の朝……? なんなの、さっきから……」

 

「まだ理解できないの?

 貴女がゼルカ様にしたことを、なるべく短期間で凝縮して体験させてあげる、って言ってるの。

 貴女と違って剣しかバリエーションがないから、飽きさせたら申し訳ないけど」

 

「……ふざけ、きゃあ!」

 動こうとしたギリカの両アキレス腱が斬り裂かれた。

 両手で足首を押さえて、ギリカがうずくまる。

「あ、あぁぁぁ、い、痛い、痛い……!」

 

「それが暴力よ。貴女が日常的にゼルカ様に繰り返したね」

「……こんなことして、ただで済むと……」

「私と貴女は、とてもよく似ている」

 

 私が睨むと、ギリカはビクッ、と距離を空けようとする。

 

「頭があまり良くないから、すぐ権力に訴える。それが成功してしまう立場があるから、またそれを繰り返す。

 ……そして、最後はそのせいで破滅する」

 

「なにを……?」

「そういう人間を更生させる方法を知ってる? 人権を全部奪って、監禁して、最後に殺せばいい。

 牢獄ってよくできてるわよね。

『殺す』っていう結果を先に教えておいて、考える時間を与えるんだもの」

 

「……やめて」

 

「でも、貴女と私で大きく違うことがある。

 妹を平気で傷付けられること。

 妹を傷付けることを楽しんでいること。

 それだけは、許せない……!」

 

「た、助けて……」

 這ってドアの方へ行こうとするギリカ。

 

 その両手足を、三本の治癒剣が殺到して斬り裂いた。

「いやあああああああああああああああああああああ!」

 

「これから三日間、泣いても喚いてもこの結界の外には分からない。

 本当は裏山にでも拉致してやろうと思ってたけど、ちょうどいい結界張ってくれたから利用させてもらうわ。

 すぐ治癒されるから、痛みはあるけど死ぬこともできない地獄でしょう」

 

「お、お願いします、死なないなんて嘘です、こんなの続けられたらすぐ死んじゃいます、お助けください……」

 息も絶え絶えにギリカが私を見上げる。

 

「懇願する相手は私じゃないでしょう? 私は貴女のことなんてどうでもいい。いいから、とにかく妹への謝罪を言い続けなさい。

 あと、なるべく指は握り込んでおきなさい。斬ってから治癒まで0.1秒くらい遅延があるから、その間に斬り離されたら二度とくっつかなくなるわよ」

 

 信じられないものを見るように、ギリカが目を大きく見開いた。

 

「……早く制服を脱がしてあげて頂戴」

 私が横目で見ると、若い侍女はビクッと体を震わせた。

「せっかく学園の職人が作ってくれた制服、できるだけ大事に使った方が良いでしょう?」

 

 それから、ギリカの侍女達が彼女の服を脱がせるのを待つ。

 ギリカはすっかり萎縮し、怯えた目で私を見るだけだった。

 

 が、ほとんど全裸になったところで、ギリカは気づいたようにゼルカ様を見た。

 

「ゼルカ! いますぐルナリア様を止めなさい! お前の言葉なら聞くでしょ!」

 

 侍女に治癒魔法を施されたゼルカ様は、ふらふらではあるが自分で立てる程度には元気を取り戻していた。 

 ……もちろん、彼女には事前にこの更生方法を教えてある。

 

「聞いてるの、このグズ! さっさとしろ!」

 

 ゼルカ様はギリカから目を逸らして、私を見た。

 

「……MP消費激しいと存じますが、お願いします、ルナリア様」

 そう、私に向かって小さく礼をした。

 

「大丈夫ですよ、MPだけは異様に多い体質ですから」

 

「貴様! このあばずれ! 今まで生かしてやった恩を忘れやがって! 殺してやる! 汚い妾の血筋を根絶やしにしてやる!」

 

 次の瞬間、三本の治癒剣がギリカの体を斬り、突き、削いだ。

 ギリカの暴言は悲鳴に変わって、部屋中に木霊する。

 

「そんな言葉遣いしてたら0.1秒の間に死ぬわよ?」

 

 忠告するも、ギリカの絶叫に掻き消えた。

 

「首や心臓はなるべく狙わないように設定してあげてるから、下手に動かないように」

 

「こ、この人でなし……、人を裁くなんて、なにさまあああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 第二波が早速ギリカを襲撃。

 

「ゼルカ様への謝罪がないとドンドン加速していくわよ」

「はあ、はあ、し、謝罪なんて……私は、何も悪いこと、してない……!」

「意味なんて分からなく良いって言ったでしょ。思ってなくても、口先だけで良い。『ゼルカごめんなさい』って」

「言うか、言うもんか、なんで私が、寄生虫の娘に……い、いやぁだああああああああああああああああああ!!!」

 

 第三波がギリカを斬り刻む。

 

「まあ、いいわ。私達は行くから。侍女の皆さんも出ますよ」

 全員を連れて、ドアへ向かう。

 

「……は、はは、バカね。ここは、私の筺檻。二度と出られな……」

 

 魔力剣を一本作って、右手に持つ。

 上から振り下ろすように、ドアの前の空間を斬りつける。

 ザシュッ、と魔法が斬られる音がして、そこだけ檻筺が開いた。

 

「なっ……!?」

 全裸で床に横たわりながら、ギリカが目を丸くしていた。

 

「300程度の防御力じゃ私の剣は防げない。最低でも1000はなくちゃ」

 エルザがノブに手をかけて、ドアを開いた。

「それじゃあ、月曜の朝にまた来るから」

 

 私がしんがりになって、素早く皆を外に出す。

 

「……待って」

 私が最後になったところで、もう一つ大きな魔力剣を生成。

 

 突き刺した周囲にギリカの結界と似た効果を放つ剣で、私は『護法剣』と呼んでいる。

 予定ではこれをたくさん生成してギリカを囲むことで、牢屋代わりにするつもりだった。

 

「せいぜい指とか耳を斬り落とされないようにね」

 ――まあ、本当に万が一トラブルが起きたら、私のところにアラートが来るようになってるけど。

 

「置いていかな

 

 護法剣を床に突き立てた瞬間、ギリカの声が途切れる。

 私はそのままゆっくりと、ドアを閉めた。

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