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12歳-18-

 二日後。パーティーの日。

 

 大きな丸テーブルに全員が座り、各ご令嬢にエルザがお菓子とお茶を配って回る。

 ショコラが配るのは私にだけ。

 初回のビュッフェスタイルを反省し、第二回からこの形式にしていた。

 

「皆様、今日はご提案があるんです」

 

「と、申しますと?」

 みんなの視線が私に向く。

 

「こうしてお話をする時間も大変楽しいのですが、もっと皆様と仲良くなりたいと思いまして。

 そこで、一緒にお風呂はいかがでしょう!」

 

 シーン……

 

「……お風呂、ですか?」

 エープル様が聞き返してきた。

 

「はい。名付けてお風呂会です!

 実家に居た頃、妹とショコラと三人で入っていまして。

 お風呂で一緒に過ごすようになってから、とっても仲良くなれたんです。ですので、皆さんともそういう時間を設けたい、と思いまして」

 

「ふふっ、相変わらず発想が凄いですね、ルナリア様」

 そう笑ったのは、アリア様。

 

「お泊まり会は聞いたことがありますが……お風呂会というのは珍しいですね」

 言葉を選んでるようなシャミア様。

 

「お泊まりでも良いんですが、皆が寝られるような大きさの部屋がありません。ですが寮には大浴場がありますから、丁度いいな、と」

 

「ですが、大浴場だと平民や使用人の皆さんが……」

 ゼルカ様が暗に反対を示す。

 ――珍しい。

 これまで基本的に、私のことは真っ先に肯定してくれた彼女なのに。

 

「そうですね。抵抗がある方も多いと思います。

 なので、無理に付き合う必要はありません。あくまで、入っても良いという方が居れば一緒にどうでしょう、という提案です」

 

 そこで手を挙げたのは、ジョセフィカ様。

「ご一緒したいです! できれば侍女も伴いたいのですが……よろしいですか?」

 ジョセフィカ様の侍女……姉のアイリン様が驚いたように彼女を見る。

 

「もちろんです! 私も、ショコラを同伴する予定ですから」

「ありがとうございます!」

 ジョセフィカ様が微笑むから、私もついつい相好が緩む。

 

 ――人手の足りない農家出身の彼女には、個別のお風呂の方がむしろなじみ薄いのかもしれない。

 

「私も是非」

 続けてアリア様が手を挙げた。

「ルナリア様とパイプ作りしなきゃいけないですし。ファン1号としても見過ごせませんので」

 

 さらにシャミア様とエープル様も手を挙げ、五人のうち四人が参加してくれることになる。

 

 ――意外すぎた。0人でもおかしくないと思ってたのに。

 

 基本的にお風呂もベッドもずっと一人な貴族達。

 12歳にもなれば、羞恥心が芽生えてもおかしくない。まして、不特定多数が居る場所であれば余計に。

 

「本当に嫌なら、付き合わないで大丈夫ですからね。無理を言ってるのは分かっていますから……」

 と、念を押しつつ、少数派になってしまったゼルカ様を気遣う。

 

 ゼルカ様はその日、落ち込んだような……、どこか切羽詰まったような表情に見えた。



   †



 そんなこんなで、土曜日。

 大浴場が開放される15時の少し前に、更衣室で待ち合わせ。

 皆様のことを考え、なるべく人が少ない時間帯を選んだ。

 

「皆さんは戦闘魔法、なにか習得できました?」

 参加者全員揃ったところで、シャミア様が皆に話を振った。

 

 それぞれ服を脱ぎながら、進捗を共有し合う。

 

 ……入学から三ヶ月後、つまり今から二ヶ月ほどで戦闘実技の授業が始まる。

 実技は全教科、特別な事情がない限り全員参加。

 戦闘実技も例外ではない。

 そのため、戦闘力がない生徒は三ヶ月間で戦闘魔法か武術を習得しなければならないのだ。

 

 前生では私も戦闘魔法を習得しようとしたけど、全く魔法が使えなかったため、一人で戦術理論を自習する時間だった。

 特別な事情の一例である。

 

 私以外の女子は全員、戦闘魔法を習得しようとしてる。当然だけど、前生と同じく。

 

「ルナリア様は……失礼、聞くまでもありませんでしたね」

 丁度エルザにスカートを脱がされたとき、話題が私に振られた。

 

「まあ、授業とは関係なく、色々考えてはいますけどね」

「そうなのですか? たとえばどのような?」

「最近は治癒魔法の魔力剣を試しています。昔から回復をどうするか、というのが課題でしたので」

 

 ――レナが癒やしてくれる約束だけど、まだ初級中の初級らしいし。そもそも学園に居ないし。

 

「治癒魔法の剣ですか……成功されたのですか?」

「いえ、お世辞にも……、という結果になりました」

 

 私の苦笑いはバンザイでキャミソールを脱がせられ、皆から見えなくなった。

 

「その剣で付けた傷以外には治癒が発動しなかったんです。考えてみれば当たり前なんですけどね」

 

 炎属性をエンチャントして炎の部分だけ飛ばす、なんてできない。それと同じ事だ。

 

「確かに、それでは意味がありませんわね」

「そうなんです。せいぜいアンデッド相手に使えなくもない、くらいでしょうね」

 

 ――とはいえアンデッドは炎弱点であることも多いので、炎で事足りるだろうし。

 

 それから下着も脱がしてもらって、あらためて正面を向く。

 ……と、妙に視線が向けられていることに気づいた。

 

 ――四人のご令嬢、皆が私のことを見つめている。

 

「……そんなに見られたら、流石にちょっと恥ずかしいですよ」

 思わず軽く体を隠そうとしてしまう。

 

「すみません。……その、あまりに美しくて、つい……」

 とシャミア様。

 

「私も。思わず見惚れてしまいました」

「スレンダーで、でも健康的で……なんて素晴らしい……」

「日々鍛錬なさっているからこそでしょうね」

「雪のような肌も相まって、まるで天使のようで」

「分かります! ……同じ女として、ちょっと自信なくしてしまいそうです」

 

 と、皆が同意しはじめた。

 

「もう。皆さん、お世辞も行きすぎると逆効果ですよ?」



「「「「お世辞じゃありません!」」」」



 四重奏の大音量で否定された。

 その音圧に、たじろぐ。

 ――全員私より発育良いし、そっちの方がいいと思うんだけど……

 

 タオルを巻いてる方や、巻かずとも体の前を隠す方も居るけれど、そのくらいの差は一目瞭然である。

 

 と、そこに服を脱いだショコラが遅れてやってきた。 

 みんな、その傷跡にギョッとした様子。

 

「……ルナリア様の後にこのような体、お見苦しく申し訳ありません」

 自分の体を隠そうとするショコラ。

 

「獣人の上流階級では、幼少から戦闘に明け暮れるのが常のようで。最初は驚かれると思いますが……」

 と私が言いかけて……

 

「ショコラさんの尻尾、可愛い……!」

 エープル様が口元を抑えながら言った。

 

 今度は私とショコラが目を丸くする番だった。

 

「あの……、触っても、良いですか……?」

 エープル様はまずショコラの目を見、次に私の方を見た。

 

 ――前までだったら、ショコラが嫌がるなら断っただろうけど……

 

「ふふっ、どうぞ。ショコラ、こっちに」

 手招きして、ショコラを前に。

 

「……そんなに楽しい物ではないかもしれませんが……」

 ショコラが尻尾の先をエープル様の前に動かした。

 

 おすおずとエープル様が尻尾の先を包み込むように触れる。

 

「うわぁぁぁ、すごい、ふわふわ……」

 とろけきった表情でエープル様が呟く。

 

 気づけば、他の三人もそちらを食い入るように見ていた。

 

「よろしければ皆様もどうぞ」

 と、ショコラへ四指を向ける。

 

「……ありがとうございます、失礼します」

 そう先陣を切ったアリア様に続き、各々が私に一声をかけてから、ショコラの尻尾を触りに行った。

 

「本当にふわふわで、気持ちいい……」

「こんな大きさの尻尾、初めて触りました」

「大きな動物は飼えないどころか、近づけさせてもらえませんしね」

「分かります。我が家は虎を飼ってるんですが、触らせてもらえませんから」

 

 などと、尻尾を嗜む皆様。

 

 ショコラは嫌がるというより、どうして良いか分からない……という顔で、四人と私を交互に眺めていた。





 出だしの雰囲気が良かったからか、大浴場に入った後も、とても楽しい会だった。

 

「一緒に体を洗いっこしません?」

 と誘った当初は、恐る恐るだった皆さん。

 

 ……が、数分後にはふざけ合ったりくすぐりあうようになって、誘ったこっちが驚いたくらいだ。

 

 小さい頃から一人のお風呂を強制された彼女達は、お風呂で遊ぶことに潜在的に飢えていたのかもしれない。

 

『もしかしたら全員にドン引きされるだけなんじゃないか』と危惧していたお風呂会だったけれど、予想以上の大成功だった。

 

 それもこれも、皆様の緊張をほぐしたショコラと尻尾のおかげと言っても良いだろう。 

 その夜、ショコラがうっとうしがるくらい、ベッドの中でいっぱいご褒美してあげた。

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