12歳-10-
翌朝。学園に来て二日目。
今日から本格的に学園生活が始まる。
エルザに制服を着付けてもらい、最後に襟元のリボンを締めて完成。
二度目の新品の制服は、それでもどこか身が引き締まる気がした。
「なかなか良い生地だな」
ショコラがスカートの裾を触る。
「なんでも、そんじょそこらの防具より頑丈らしいよ」
「確かに。普通の包丁程度なら刃を通さなそうだ」
「ショコラ。こういうときは生地のことより、まずルナリア様に感想をお伝えするのが先です」
エルザが私の襟元を整えながらショコラを窘めた。
「感想……スカート動きづらそうだな。まあ俺ほどじゃないが」
私の方は膝丈だけど、ショコラは足首まである。
「そうじゃありません。お似合いであること、お美しいこと、愛らしいこと……そういったことを伝えるのです。心から」
「昨日からうっせえな、お師匠様。今は三人しか居ないし、別に良いだろ」
「神は細部に宿る。友として接するのは止めませんが、『できない』と『できるけどやらない』は天地の差です。
最初のうちくらいは『できる』ことを見せてみなさい」
「エルザの言うことももっとも。ショコラに褒めて欲しいなー」
言って、くるりとその場で一回転して見せる。
「えー……?」
ショコラが面倒そうに頭を掻く。
「……えっと……可愛くて、お似合いです、お嬢様」
「どういうところが?」
メイドとして練習半分、気になる半分でさらに問い詰めちゃう。
「どういうところぉ?
……あー、あれだ、その、これから毎日見られると思うと、結構テンション上がるくらいは、まあ、可愛いと思うぞ」
「えへへ、ありがとー」
エルザも小さく笑う。
「そういうことです。貴女はルナリア様大好きなんですから、正直に言えば良いだけです」
「なんか妙に恥ずかしいんだけど……結構ブラックじゃね、この職場」
「じゃあ、師匠の模範解答を聞かせてもらいましょう」
「確かに。そりゃそうなる」
私とショコラが同時にエルザを見る。
「大変お似合いですルナリア様。全員揃いのデザインがゆえに、ルナリア様ご本人のお美しさと愛らしさを極限に際立たせ、圧倒的な差を周囲に知らしめることでしょう」
「「おお~」」
思わず拍手しちゃう私とショコラ。
「……拍手いただくようなことではありませんが」
「服のことじゃなく、私本人をメインにしたんだ……。うーん。これは確かに、エルザの勝ちかなあ」
「勝負だったのか……」
「ショコラはまだ照れがある。まあ、エルザはエルザで、ちょっと褒めすぎな気もしちゃうけど……本気でそう思ってくれてるの知ってるから」
「……確かに、これは少々恥ずかしいですね」
「アンタが始めたことだろ」
「二人ともありがとう。大好き」
「……この勝負、ルナリア様の圧勝でしたか」
「一言で圧勝なの、ズルすぎね?」
「仕方ありません。惚れた弱みというヤツでしょう」
「納得できちまうのが悔しいな」
ということで、私に惚れてるメイド二人を連れて寮を出た。
寮を出て、歩いて3分とせず学園の門に着く。
門を入ると、すぐ右側に大きな掲示板が複数台。
そこには準入学測定の結果が、ずらりと羅列されていた。
「そういえば昨日説明がありましたね。測定の結果は公表されると」
「人間は人間で競争社会か。世知辛えな」
私の名前を探してみる。
心なしか一番人だかりが多い掲示板に、私の名前が書かれていた。
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【ルナリア・ゼー・トルスギット】
筆記 :良(77点/100点)
マナー:優(90点/100点)
実技 :優(戦闘、武術)
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――筆記、良!?
二回目なのに1/4間違いとか……
めっちゃ恥ずかしい。
「流石でございます」
エルザが褒めてくれる。
「……エルザは優しいわね」
「ご不満な結果ですか?」
「ああ、うん、まあ……。自分の頭の悪さにがっかりしてたところ」
――誰にも共有できないのがもどかしい。回生者はつらいよ。
「十二分かと存じますが……。志が高く素晴らしいですね」
(そういうんじゃないんだけどねぇ……)
「あはは……」
とりあえず笑ってごまかしておいた。
「おはようございます」
後ろから聞き覚えのある声がして、振り返る。
にこりと微笑んで、ゼルカ様が一礼してくれた。
「ゼルカ様、おはようございます」
私も礼を返す。
「凄いですねルナリア様。女性で戦闘が優なんて」
すでに掲示板を見たのか、ゼルカ様は言う。
「ありがとうございます。えっと、ゼルカ様は……」
掲示板から探す。
「あちらですわ」
ゼルカ様が隣の掲示板の上の方を指さす。
=============
【ゼルカ・ゴドー・アーレスト】
筆記 :優(93点/100点)
マナー:可(65点/100点)
実技 :可(芸術・音楽、ピアノ)
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(人生一周目の子に知力で負けてるんだよなあ……)
「可が二つで、お恥ずかしい限りです」
シュン、とするゼルカ様。
――さっきの微笑みは、無理して作ってくれてたのかな。
前生での私は、彼女になんと言っただろう?
多分、見下すようなことを言った気がする。もう覚えてすらいないんだから、お察しというものだ。
ぎゅっ、とゼルカ様の両手を握る。
私より少し背の高いゼルカ様は、驚いたように私を見下ろした。
「マナーなんて、12歳なら相手に失礼じゃない程度で充分です。ピアノが演奏できるのが凄いですし、なにより、知力が群を抜いて優れていることを誇るべきです!」
いやもう、本当に。
ゼルカ様はしばらく目を瞬かせると……、少し照れたように、笑ってくれた。
――そんな表情が、衝撃で。
なにせ、全く見覚えのないゼルカ様だったから。
「……実は、ちょっとだけ、それが嬉しかったんです」
はにかむようなゼルカ様は、とても可愛らしかった。
「はい! それでいいと思います。人には向き不向きがありますから」
まるで自分に言い聞かしてるみたい……、と言ってから思っちゃった。
「そう言っていただくと、心が軽くなるようです。ありがとうございます」
「こちらこそです。もし良ければ、今度勉強を教えてください」
「私で良ければ! 是非お願いいたします」
「あはは、お願いするのはこちらですから」
そうして、自然と二人で並んで教室に向かう。
殿下やダン様の成績も見ようと思っていたけど、完璧に忘れていた。
――ゼルカ様と話しながら、先ほどの彼女の表情が脳裏に浮かぶ。
前生であれだけ長く一緒に居たのに、あんな屈託無い笑顔、初めて見た。
それだけ私は、前生の彼女から笑顔を奪ってきたのだろう。
(ごめんなさい、ゼルカ様。せめて、今生で償わせていただきます)
自分が破滅したくない、という理由は確かにある。
けれどそれ以上に、もっと彼女の笑顔が見てみたい、と強く思った。
創造神様から、『自分も含めて』が今生の抱負に入れられちゃったわけだし。
二人で未来も笑っていられたら、それが一番素敵に決まってるんだから!
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