12歳-8-
ギルネリット先生の合図で魔力神経を起動。
魔力剣を九本、周囲に展開。炎三本、氷三本、雷三本にしてみた。属性を分けた方が対策されにくいんじゃないかと思ったから。
「えっ、今、無詠唱……?」
ギルネリット先生や男子達がざわめく。
身内を除けば唯一、動揺を見せないドーズ先生。
タイミングをずらして、九本とも射出。
「かぁ!」
ドーズ先生が一歩踏み込みながら吼えた。
それだけで九本とも吹き飛ばされて消える。
――『咆哮砲』!
『雄叫び』の上位戦技。
周囲の敵をスタンさせる雄叫びの効果に加えて、衝撃波を発生させる。
――アミュレットで能力低下して、この威力……
ショコラの咆哮砲は、せいぜい空中に押しとどめられる程度だったのに……
すぐさま十八本展開。
ギルネリット先生の乾いた笑い。
「やっぱ、あんだけ剣飛ばせるの異常だよな」というショコラの声が聞こえたような気がした。
まずは先ほど同様、九本をドーズ先生に向けて発射。
その後ろから、残りの九本と共に駆ける。
――また咆哮砲で対処してくれれば、後の隙を残りの九本で……
と思ってたけど流石に見抜かれ、五本は回避、三本が叩き落とされる。
が、隙ができたことに変わりない!
最後の一本を叩き落とされたところを、右から薙いだ。
……瞬間。
視界が金色に輝いて。
ガンガルフォンが小楯に弾かれた。
重力が一気に増加したような、圧迫感。
思わず片膝が地面に付く。
(ただのパリィじゃない、これは……!)
『ゴールドパリィ』
盾の戦技『パリィ』の上位版。パリィでは対応できない攻撃でもパリィでき、相手を無力化できる時間も長い。
――パリィ系を警戒してフェイントを入れたのに、あっさり対処された。
それが一番ショックだった。
(あの体勢、しかも視線と逆方向。私の動きなんて、ほとんど見えなかったはずなのに……!)
この人、強すぎる……
……けど、まだ負けたわけじゃない!
ドーズ先生が私の肩口を狙って振り下ろす……
そのシミターを、魔力剣が横から弾いて軌道を逸らさせた。
「なっ!?」
ドーズ先生の、吐息のような驚愕。
先ほど回避された五本と、残りの九本が空中で方向転換して、同時に彼に襲いかかる。
「じ、自律制御!? しかも十八本全部!?」
身を乗り出す勢いでギルネリット先生が叫んだ。
――セレン先生もだったけど、魔女は皆ノリが良いんだろうか。
魔力剣の対処に専念するドーズ先生。
いくら達人でも、剣一本で十四本の連携には対処しきれない。
ドーズ先生が氷剣を斬ったと同時に、炎剣がその脇腹に突き刺さった。
形代の魔法とぶつかって消滅。
ギルネリット先生の右手の水晶玉にヒビが入る。
けれどドーズ先生も流石。
その後は冷静に他の剣を対処し、結局一撃しか与えられないまま魔力剣を全部壊してしまった。
それとほぼ同時に私は体の自由を取り戻し、ドーズ先生から離れる。
ガンガルフォンを構え直しながら、三十六本展開。
「あれだけ体勢崩したのに、パリィできるなんてチートですよ」
ついついクレーム言っちゃう私。
「……どの口が言いやがる、チート娘」
顔をしかめるドーズ先生。
「簡単に自律魔法ポンポン生成しやがって」
「感動してます。こんなに強い人が、世の中に居るんだ、って」
「そいつはどうも」
適当な返事しながら、ドーズ先生は左手を首元に持って行く。
服の下からネックレスを一つ、引き出した。
――もしかして、あれがピーカブーのアミュレット?
「俺も驚いてる。君は、強すぎる」
ドーズ先生はそれを首から外して、ポケットにしまった。
「……それ、外したら怒られるヤツじゃありません?」
「生徒と対等に戦うために付けてるんだ。付けて対等になれないなら、外すのが道理だろう」
「実は、外してくださいって頼もうか悩んでたんですよ。ありがとうございます」
――先生には先生の事情があるんだろう、と遠慮してたんだけど。
「鑑定スキルまで使えるのか」
「……乙女の秘密です」
「物騒な乙女だな」
再び構えるドーズ先生。
まだアナライズをかけてないのに、なぜか一回り大きくなったような気がした。
=============
【ドーズ・ブラッダメン】
・HP 12956/12956
・MP 812/1013
・持久 362
・膂力 236
・技術 172
・魔技 42
・右手装備 ドーズのシミター
・左手装備 竜紋章の小楯
・防具 辺境騎士の軽鎧
・装飾1 ピーカブーのアミュレット
・装飾2 なし
・物理攻撃力 451
・物理防御力 237
・魔法攻撃力 31
・魔法防御力 223
=============
どうやらHP、MP以外を半減する装備だったらしい。
ギルネリット先生がなにやらドーズ先生に文句を言っているが、彼は見向きもしない。
――可哀想、ギルネリット先生。
「もう一つは外してくれないんですか?」
「こいつは一つ付ければステータス四分の一、二つ付けるとその二分の一になる。君が今見てる数値の四倍が俺の実力だ」
――四倍……?
それ、本当に人間?
世の中の騎士って、皆こんなに強いものなの……?
「流石にそれは測定にならんからな」
「……いつか、そっちも外してもらえるよう精進します」
魔力神経に魔力を流す。
――さあ。ステータスで大幅に負けてる相手への対抗手段は、ただ一つ。
そう、エンチャントした武器の火力によるゴリ押しである。
属性は付けなくても良かったけど、なんとなく雷にしてみた。
ドーズ先生はこれまでの魔力剣のうち、雷剣を優先して処理したがっているように見えたから。
とりあえず、+20。
ガンガルフォンが帯びる雷が大きくなる。余った雷が空気に爆ぜて、バチバチッ、と音を立てる。
ギルネリット先生が相変わらず良い反応してくれているようだが、雷の音と、ドーズ先生の動きに集中するのが精一杯で、ちゃんと聞こえない。
(ここまできたら、斬鉱断鉄、見てみたいなあ)
あらゆる戦技を習得したショコラにも使えない、専用戦技――ぜひ体験してみたい。
軽くステップした後、ドーズ先生が仕掛けてきた。
まずは魔力剣で迎え撃つ。
が、上がったステータスを良いことに、ドーズ先生は魔力剣のほとんどを無視。
多少のダメージにはなるけど、先ほどよりもずっと微々たるもの。
やっぱり、格上相手は魔力剣じゃイマイチらしい。
私の魔技が100ちょっとくらいだから、単純に威力が足りない。
まあその対策は後で考えるとして……
今は魔力剣を牽制にとどめ、ガンガルフォンを当てることに集中。
リーチの優位と背の低さを活かして、下から斬り上げる!
――回避か、いなされるか、それともパリィ系を狙われるか……。
なんて予想したけど、正解はどれでもなく。
「斬鉱、断鉄……!」
シミターを上から振り落としてきた。
――えっ? 後出しで戦技……?
戸惑いは一瞬。
人外の速度で、当たり前のようにガンガルフォンにぶつけられた。
まるで巨大な壁を斬り付けたような衝撃。
周囲を雷電が霧散し飛び交う。
「ぐぐぐっ……!」
「ぬうぅぅ……!」
刃競り合いの末、互いに互いの威力に弾き飛ばされる。
強制的に距離が離れ、左手を地面について着地。
一瞬アナライズ。
=============
・右手装備 ガンガルフォン+6
=============
――14エンチャ持っていかれてる!?
パルアスだって3エンチャだった。
木剣よりエンチャント効率が良いガンガルフォンなのに……!
ドーズ先生に意識を戻す。
私の動揺を見抜いたか、一気に駆け寄ってきた。
小楯を放り捨て、シミターを両手に持ち直して。
(まずい! エンチャント急げ……!)
速攻で+20に戻す。
「斬鉱断鉄ッ!」
ガンガルフォン以外で受けたら形代越しでも死にかねない。
あの人外の速度じゃ回避はもう間に合わない。
――受け止めるしか、ない……!
補助魔法全力!
剣と剣がぶつかる甲高い音。
雷が散乱して、地面や壁や柱を抉る。
アナライズを発動しっぱなしだった視界の隅、すごい速度でガンガルフォンの+数値が減っていくが見えた。
(まずいまずいまずい!)
――準入学初日の生徒にこんな戦技ぶっ放すな! しかも二回も!
ついさっきまで『斬鉱断鉄見てみたい』とか思ってた自分は棚に置いておく。
「ぐ、ぐぐっ……、30だぁっ!」
=============
・右手装備 ガンガルフォン+32
=============
魔力神経がズキズキと痛みだしてくる。強度が中に成長したとはいえ、短時間で無理させすぎたらしい。
「くっ、……!」
ドーズ先生の呻き声。
僅かに均衡が崩れて、ガンガルフォンが少しずつ前に動き出す。
「あああああああああああ!」
そのまま渾身の力で、ガンガルフォンを振り抜いた。
バギンッ、と何かを砕くような轟音。
ドォンッ、と激しくぶつかるような雷鳴。
視界があらゆる光で塗りつぶされる中、ただ振り抜くことに精一杯で。
勢いそのまま、私の体は地面に倒れ込んだ。
…………
……
ここまでお読みいただきありがとうございます。
もし「面白い」、「続きを読みたい」などと思っていただけましたら、
↓にある星の評価とブックマークをポチッとしてください。
執筆・更新を続ける力になります。
何卒よろしくお願いいたします。
「もうしてるよ!」なんて方は同じく、いいね、感想、お待ちしております。




