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12歳-2-

 その夜。脱衣所にて。


「今日からルナと入るのやめるんじゃなかったのか?」

「やめるのを、やめることにしました」

 ショコラにレナが答える。


「ショコラは知ってたんだ?」

「一昨日聞かされた。俺に言われても、って感じだが」

「誰かに言っておかないと、決心がぶれそうだったので……」


 そんな話をしながら三人で浴室へ。

 体を洗い始める。


「なんでまた気が変わったんだ? 結構な決意だった感じなのに」

 ショコラがレナに尋ねた。


「だったんですけど……。お姉様に完全論破されちゃいました♪」

「論破された側にしちゃ嬉しそうだな」


「私がワガママ言って止めたのよ」


 それから、あの時レナに言ったことを要約して繰り返した。


「なるほど、それじゃあどうしようもねえ」

 あっけらかんと、ショコラが自分の体の泡を洗い流す。

「この女にそう言われちゃ、逃げられるわけないからな」


「ふふっ、ですよね」

 二人で小さく笑い合う。


 ――『逃げられない』って……ショコラはまあいいとしても、レナ?


「一昨日と全然顔違うし。今となっては良かったんじゃね?」

「そんなに違います?」

「あの時はこの世の終わりみたいな顔してたからな」

「そ、そこまでじゃ……ない、と思うん……ですけど……」


 ドンドン語尾が小さくなるレナ。ちょっとずつ自信なくなってくのかわいい。


「確かに。私に言いに来たときも、私より白い顔してたかも」

「もう、今のお姉様より白いわけないじゃないですか」


 三人で笑い合いながら、体や髪を洗い終える。

 そのまま横に並んで湯船に浸かった。


「じゃあ、もう『自立したい』みたいな気持ちに整理は付いたんだな」

「そう、だと思います。『自立したい』は、そもそも『お姉様の隣にいるため』でしたから。目的と手段が入れ替わっちゃってたな、って気付きました」


「結婚してるからって自立してないわけじゃない、みたいなもんか」


 ――確かに。普通、『結婚相手から自立しろ』と言う人はいない。

 私とレナを夫婦とすれば、『私から自立する』なんて変な話なわけだ。

「なるほど。流石ショコラ、いいたとえね!」


「けっ……こん……?」

 レナが小声で呟いた。ちょっと顔が赤い。かわいい。

 ――ショコラの言葉がちょっと難しかったのかな?


「だけど、そうなるとルナが学園行った後どうすんだ?」

 痛いところ突いてくるショコラ。


 中央学園は、五ヶ月の学期と一ヶ月の長期休暇を繰り返すサイクルになっている。

 全寮制のため、慶弔など特別な事情を除き、長期休暇以外で寮を出ることは許されない。

 なので、親族や社会情勢等になにかがない限り、レナとは最低五ヶ月会えなくなるわけだ。

 ――正規の手順なら。


「それは、あれよ。今の理屈で言うと、単身赴任みたいな?」

「たんしん、ふにん……」

 レナがさっきからオウムみたいになってる。かわいい。


「レナは耐えられそうなのか?」


「耐えられ……」

 と、そこでレナが小さく頭を振って焦点を戻した。

「……はい。耐える、って決めました」


「私も定期的に帰ってくるし! なんなら寮も抜け出すし!」

「それはダメです! お姉様が怒られちゃいます!」

「レナのためなら怒られるくらい別に……」

「やめてください! 私が入学する頃、お姉様が不良生徒として有名、とか嫌です」

「……どうしよう。私の方が耐えられないかも……」

「それは、お姉様も頑張ってください!」


 グッ、と両拳を握るレナ。かわいい。すき。


「……あんま甘く見んなよ。孤独の寂しさは、結構クるぞ。特にレナはまだ10歳なんだから」


 9歳で単身外国に渡ったショコラの言葉は、重みしかない。


「……覚悟だけじゃ、ダメってこと?」


「お前らは本当の夫婦でもねえんだ。その歳で二年も離れたら……」

 そこでショコラが言葉を止めた。

「……いや、すまねえ。二人が決めたことだ。いまさらこんなこと言ってもしかたねえな。忘れてくれ」


 言いたいことは分かる。

 ――私自身、二年間自由に会えなくなると分かっていながら、姉離れの時間を奪った自分が酷いと自覚してるし。


「ま、脱走するときは俺も協力するからよ」

 ショコラが冗談めかして笑う。


「そりゃ当然、協力してもらうけど……」


「だから! ルール違反はダメですってば!」

 レナは頬を膨らませる。かわいい。

「……私なら大丈夫ですから。二年後には私も学園に行くんです。自立したいとか言っておいて、たった二年も耐えられないとか、それこそ自分で自分が嫌いになります」


 そうは言うけど……本人も内心で不安そうなのは私でも分かる。


 ――なにか、ないだろうか?

 ただの姉妹、結婚なんてできるわけもない私達が、離れていても確信し合える何か……。


(……ん?)


 ――『結婚なんてできない』……?


 なんで、誰かが決めたそんなルールに従わなきゃいけない?

 私とレナのことを、誰にも邪魔する権利なんかないんだから。


 それは、まさに閃き。



「結婚しよう、レナ!」



「けっ!?」

 レナが一瞬で真っ赤になった。


「……脳みそ茹だったのか? お前ら姉妹だろ」

 ショコラが呆れたように私を見下す。


「そりゃ、本当の婚姻は無理だけど。

 二人だけの約束というか、決め事というかさ。そうよ! なんで思いつかなかったのか……」

 言いながら、これからのことを考える。

「まずは指輪よね。業者さんに頼んで二個作ってもらって……だからその前にお互いのサイズを測って……」


「おい」

「婚姻届は、私達だけのオリジナルで作っていいかも……」

「待てって」

「あ、証人はショコラお願いね!」

「肝心の結婚相手が付いてきてねえよ」


 レナを見ると、ゆでだこみたいに真っ赤になって目を回してた。


「大丈夫? のぼせちゃった?」

「い、いえ……け、結婚は、その、お姉様、王太子殿下の、筆頭候補ですし……、姉妹で、女同士ですし……」


「あくまで二人だけの決め事よ。だから、もし将来正規の結婚をしても、無くならない。

 世界で私達だけは、奥さんをもう一人持ってる、ってこと。素敵じゃない?」


「確かに、す、素敵です。素敵すぎて、その……」

「……私と結婚するの、嫌?」

「嫌なわけないです! 嫌じゃないんですけど! その、あまりに急展開過ぎて……」


「……ごめんなさい、レナが何を言いたいか、良く分からない。そんなに変なこと言ってるかな?」

「変なことは言ってるだろ……」


 ショコラにツッコまれて、口をつぐんじゃう。


 ――いい案だと思ったんだけど、何か悪かったかな……?

 ――私、またレナのこと考えずに酷いこと言っちゃったんだろうか?


「……レナ、前言撤回だ。なんとしてでも逃げねえと、今後もいろんな意味でひどい目に合わせられるぞ」

「いろんな、ってどういう意味よ?」

「……本気で聞き返してくるのが大物だな、ホント」

「?」


 ――本気で聞き返してるから、本気で答えていただきたいんですけど!?


「……ありがとうございます。でも、こういうひどい目なら、ちょっと本望ですから」

 微笑むレナ。かわいい。


「姉妹そろって大物だな」

 ショコラが犬歯をむき出して笑う。


「お姉様」

「ん?」



「私も、お姉様と、結婚したいです! お願いします!」



 てんし! かわいい! だいすき!


 何て返事したか自覚がない。

 レナがあまりにかわいすぎて、ぎゅーってして。

 レナも抱き返してくれて。


 こういうときいつも苦笑い気味なショコラだけど、今日はどこか優しい笑顔だった。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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