8歳-3-
さて。ということで、『魔法剣』とやらの才能と、『アナライズ』のスキルをもらえたみたいだけど……
「そもそも、その恩恵にあずかれるか、ってのが問題よね……」
前生の通りだと、9歳の誕生日の翌日に、お父様から剣を持つのを禁止される。
と同時に、私は王太子の婚約者候補となる。
その瞬間、私の人生は王太子殿下との結婚に向かう。というか、強制される。
候補といっても他に有力候補が居ないので、ほとんど確定状態だから。
そうなったら、せっかくの才能もスキルも持ち腐れだ。
「それだけは、避けなきゃ……」
ガウスト殿下とシウラディアが結ばれる運命なのは明確。
そこに割って入るなんて、死刑ルート一直線。私みたいに胸の痩せてる女は特に。
なので王太子妃に推薦されるのは、なんとしても避けなければいけない。そもそもなりたかったわけでもないし。
(そこで必要なのが、剣よ)
女が武力を扱うなんて、貴族社会では忌避される。
いい年して剣を振るう女なんて、嫁ぎ先はなくなるだろう。まして王族相手なんてもってのほか。
つまり、剣を続ければ自然と王太子の婚約者候補から外れる。
さらに、私もやりたいことができる。
まさに一石二鳥……いや、それ以上なのだ!
そのためには、なんとか9歳以降もお父様の許可をもらわないと。
「いっそお父様も回生してくれてたら楽なんだけどなあ……」
前生で面会に来てくれた時、私を王太子妃に推薦したことを後悔していた。あの時のお父様なら賛成してくれるだろう
けど、今のお父様はごくごく一般的な公爵様。
私を王太子の嫁にさせたい、と躍起になっている時期だ。
(……剣の許しをもらうなんて、絶対無理よね……)
そう結論づける。
――しばらくは隠れて自主訓練することにしよう。
「よし」
当面の方針は決まった。
……決まったというか、ほとんど逃避に近いけど。
だって、それ以外私の頭じゃ思い付かないんだから、仕方ない。
コンコン。
「どうぞ」
エルザが入ってくる。
「ルナリア様、本日の剣のお時間です」
一瞬「?」ってなった。
9歳以降のことばっかり考えてたけど、そういえばまだ8歳なんだったわ。
「? いかがなされましたか?」
「あ、いや……ちょっと考え事をしてただけよ」
「さようでございますか」
――剣の稽古なんて、何年ぶりだろう。
まあ、今生の記憶では昨日の稽古内容も覚えてるんだけど。
部屋の隅に立てかけてある木剣を見る。
心が躍ると同時に、少しだけ泣きそうになってきた。
コンコン。
と、そこでまたノックの音。
「どうぞ」
と返事をすると、
「おねえさま、ぴくにっくにいきましょう!」
レナが元気いっぱいに飛び込んできた。
「……ピクニック?」
「はい!」
大きく頷くレナ。
その後ろからフラン――レナの専属メイド――が若干慌てた様子で入ってくる。
「いいてんきで、ぽかぽかなのです!」
窓の外を見てみると、確かに快晴の青空だった。
言われてみれば、今日の空気は暖かくて過ごしやすい。一年中寒いこの地方にしては珍しい。
まさに絶好のピクニック日和だ。
「レナーラ様、申し訳ございません。ルナリア様はこれから剣術のお稽古がございまして……」
エルザが本当に申し訳なさそうに言う。
「あっ……」
エルザの言葉に、レナの表情が陰る。
――その表情で、思い出してきた。
前生でも今生でも、何度かこんなことがあった。
この時期の私は、基本的にレナは好きだったけど……
でも剣の稽古のときだけは、レナよりそちらを優先していた。
単純に、剣の方が楽しくなったから。
だからレナが何かに誘ってきても、断るようになったんだ。
その後、9歳で剣を取り上げられて以降は、仲良し姉妹に戻った……つもりだったけど。
この時期に冷たい態度を取ってしまったから、誘拐事件の後、レナは私も遠ざけるようになったのかもしれない。
「ごめんなさい、おねえさま。……剣のお稽古、がんばってください」
一瞬泣きそうな顔になって、すぐ笑顔になるレナ。
その姿に、鳥肌が立った。
まだ6歳の子が。
私と遊びたい、という気持ちを抑え込んだのだ。
それはきっと、『邪魔をしたくない』であり、『お姉様に嫌われたくない』という気持ち。
――私は6歳の頃、ここまで他人を思いやれただろうか?
いいや、この100分の1もできなかった。
(天才だわ! この子は本当に天才すぎる……!)
――どうして前生では気付けなかったんだろう?
この可愛らしさと天才さに。
とともに、少しずつ湧き上がる感情は……怒り。
今生ではすでに何度かレナの誘いを断った記憶がある。
(……どうせ回生させてくれるなら、あと半年は早くしてくれれば良かったのに……)
でも、まだだ。
まだ、間に合う。
今もサイドテーブル上の紙に書いてある文字。
『自分を含めて、
みんなが幸せになるよう頑張る!』
これがその、第一歩だ。
引き下がろうとするレナの両肩に、そっと両手を置いた。
「ピクニック行こう! ていうか、私も行きたい!」
びっくりしたようなレナ。
少しして、徐々に満面の――さっきまでの作り物ではない――笑顔になってくれた。
「わーい! おねえさまだいすきー!」
「私もレナが大好きよ!」
我慢できず、レナを抱きしめる。
――はあぁ、かわいい、とうとい……♪
「……エルザ、バンジョウさんには夕方にしてほしい、って伝えてくれるかしら」
バンジョウさんはいつも私の剣の稽古をしてくれてる、いわば師匠だ。私兵団の剣兵である。
「か、かしこまりました……」
レナ以上にびっくりした様子で、エルザは一礼してくれた。
――剣の鍛錬も、才能の確認も、別にあとでできるし。
こんなに良い天気。
なによりレナが誘ってくれたんだから。
レナとの時間の方が優先に決まってるのだ!
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