11歳-9-
虚ろに濁った目、憔悴しきった顔。
痩せ細り、髪も伸ばしっぱなし。
家族の私達にすら怯える、そんなレナがトラウマで……でも、私なんかよりよっぽどレナの方が強いトラウマを抱えていて。
思えばあの日から、トルスギット家は、私は、壊れたんだと思う。
「お姉様ー♪」
もちろん、今生はそんなことなく。
ベッドの中で抱き付いてきてくれる。かわいい。すき。
「レナー♪」
ぎゅっ。
「お姉様、こういうこと言って良いか分かりませんが……」
「言ってダメなことなんてあるわけないでしょ」
「あの、上手く言えないんですが……今の色のお姉様も、すっごく素敵です! もちろん以前のお姉様もお綺麗でしたけど」
いっしょけんめいつたえようとしてくれるレナかわゆ!
「ありがとう! レナもとっても可愛くて素敵よ! 愛してる!」
「あ、あい……!?」
ぎゅーっ!
暖かくて良い匂い。
四日間(体感1日も経ってないんだけど)のレナ分を補給する。
「……毎度毎度、よく飽きねえなあ」
少し遅れてショコラがベッドに入ってきた。
レナの反対側、私の左隣に。
「今日はそっちなんだ?」
レナを真ん中にするのが暗黙の了解だったんだけど。
「ルナが目を覚ますまでこの形だったからな」
「……気付いた方がお姉様の体勢を変えたりできるかと思いまして」
「レナの発案なんだ! 天才! 流石!」
「嬉しいですけど、それほどでは……」
「ショコラもありがとうね」
「俺は別に……」
左腕を伸ばして、ショコラを抱き寄せた。
「二人とも大好き!」
「……大げさじゃないか?」
ショコラが居心地悪そうに言った。
「だって。本当に嬉しいんだもん!」
この二人を両手に抱えて寝られるなんて、前生を思えば本当に奇跡で。
あの事件後も、レナが健康で、怯えたりせず慕ってくれる。
味方なんていなかった私に、一生捧げてくれたショコラが居てくれる。
それを実感すると、とにかく胸の奥から嬉しさが溢れてきちゃうんだ。
「……私も、またお姉様とお喋りできようになって、嬉しいです!」
そういうレナは、ちょっと涙目になっていた。
しがみつくように全身を私に預けて、上目遣いで私を見る。かわいすぎる。
「ギガースと菜の花畑に消えていった時、もう二度と会えないんじゃないか、って……。
白くなっていた時、お姉様はこのまま消えてしまうんじゃないか、って……。
この四日間、ほとんど動かなくて、もしかしてお姉様、このまま死んじゃ……」
ぽろぽろと泣き出したレナを、そっと抱き寄せて頭を撫でた。
「ごめんね、心配かけて」
レナは首を大きく左右に振って否定してくれる。
――前生ほどじゃないにしても、それなりにトラウマを植え付けてしまったらしい。
ただ、結果的にお互いなんともなかったんだから!
これからたくさん、時間をかけて払拭していけばいいよね。
「……さっき、レナと風呂で話したんだけどよ」
ショコラもショコラで私にされるがまま、胸の中で囁いてきた。
「前にルナが見たって言う夢、正夢だったのかもしれねえな」
以前ショコラに問い詰められて、前生を夢と形容した時のことだろう。
「アハハー、ソウカモネー」
「どうした? 急にカタコトになって……」
――だって、いきなり核心突いてくるんだもん!
なんて、もちろん言えるわけないんだけどさ。
「……次どこか行くときは、なにがなんでも付いていく。亜人禁止なんぞ知ったことか。もう二度と、そんな目に遭わせねえ」
「それは、本当にお願いします!」
ショコラの小声の誓いに、レナが力強く言った。
「ありがとう。でもこんなこと、二度も三度もないだろうけどね」
「……そりゃそうだろうし、そう願うけどよ」
「お姉様。この四日間、ショコラずっとイライラしてたんですよ。『なんのための専属奴隷だ!』って」
レナがイタズラっぽく告げ口してくれる。かわいい。
「んなこといったらレナもだろ。『私が運動音痴で転んじゃったから』とか『私が居なかったら逃げ延びられたのに』とか」
「な、なんで言っちゃうんですか!?」
「先に言ったのはそっちだろ!」
「ショコラのは可愛くて良いじゃないですか! 私のは……」
「ああ、見当違いだね! ガキの足で大人の集団から逃げられるわけないだろ! んなことで自分責めてんじゃねーよバカ!」
「だから謝ったじゃないですか!『ルナの前でそういうこと絶対言うな』ってショコラがアドバイスしてくれたのに……」
ちょっとびっくり。
この二人が、痴話喧嘩なんて。
しかも内容かわいい。
――あ、ちょっと嫉妬しちゃうかも。
どっちに対してどうなのかは、自分でも分からないけど。
「私が寝てる間に、さらに仲良くなったのね。ちょっと羨ましくなっちゃう」
二人が同時に私を見上げる。
「安心してください」
「安心しろ」
言葉まで同時で、二人は驚いたように一瞬目を合わせ。
可笑しそうに、再び私を上目遣いで見てきた。
「一番がお姉様なのは変わりませんから」
「一番がルナなのは変わらねえよ」
そう言ってレナは私の首に抱き付いて。
ショコラは私のお腹に腕を回した。
かわいいっ!
二人の仲良しスマイルの火力がハンパなくて、心臓がキュンキュンしちゃう。
そんな二人を、強く強く、抱き寄せた。
――こんなに幸せで良いのかしら。
(もしかして、本当に明日死んじゃわないよね……?)
こうして。
心地良く暖かい二人に包まれながら、人生が大きく変化した第一歩を踏みしめたのだった。
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