11歳-4-
バレてしまったショコラには、もはや取り繕うこともせず。
毎日自分を追い込んで、少しでもステータスを上げていった。
それ以外の時は、いつものルナリアを装う。
そんな日々の先。
ついにやってきた、参謁への出発日。
王都への旅路は四台の馬車で向かう。
先頭は王宮からの迎えの騎士達が乗る大型馬車。
次がお父様とお母様が乗る小型馬車。
その次が私とレナの小型馬車で、最後尾が私兵団や使用人が乗る大型馬車だ。
朝出発し、夜に到着する予定。
襲撃があるのは夕方。空がオレンジ色になった頃だったはず。
(確か、キャラバンに偽装して接近してきて……。それで、まず最後尾の馬車が壊されて……)
――ショコラが居たら、心強かったんだけど……
王宮は亜人立ち入り禁止。
王都も基本的に入れてもらえないため、ショコラはお留守番。
こればっかりはお父様に笑顔のゴリ押ししようが、涙のおねだりしようが、どうしようもない。
「初めての王都、楽しみです」
レナのそんな声で、意識を戻す。
今は昼前、まだまだ旅の前半である。
「……そうね」
今、レナは私の膝の上。
私の隣はぽっかりと空席。レナがそこに座っていたのは、最初の5分までだった。
前生では、ずっと隣に座っていたんだけどね。
――今生はこんなに仲良くなれて、本当に嬉しい。
「私、サーカスという催し物が見てみたいです」
「……ああ、サーカス……」
「お姉様は行きたいところや見たいところあります?」
「え? 私は、えっと、そう、ね……」
レナの質問に上手く返事できない。
――どうしても、この旅路の先に楽しい光景を思い描けなさすぎて。
「……今日はお加減が優れませんか?」
朝から感付いていたんだろう。レナが心配そうに私の顔を覗き込む。
――レナはせっかく楽しみしているのに……
私が水を差すようなこと、したくない。
楽しい光景を思い描けないのなら……。
レナと二人で、実際にそんな光景を見てみれば良いんだから。
「ううん、そんなことないよ。……多分、緊張してるんだわ」
「そうですよね……。両陛下と、将来結婚するガウスト殿下がいらっしゃるんですもんね」
「結婚だなんて、まだまだおこがましいわ」
できる限り謙虚な言い方を心がけたが……どうだろう。本心に気付かれていないか少し不安。
「それより、私の行きたいところだったわね。そうだなぁ……、レナのお洋服とか買いに行きたいな」
「お買い物! 楽しそうですね」
「商人が持ってきた物を見るんじゃなくて、自分の足で店内を巡るの。流石王都、大衆向けのお店だからってバカにできないわ。まあ、お父様が許してくれるか分からないけど」
――レナは何を着ても似合うから、きっと楽しい時間になるに違いない。
なんだか、段々楽しい未来を考えられるようになってきたかも!
流石レナ! お話ししてるだけで心が回復してくる! 天使! かわいい! すき!
「……あの、お姉様」
「んー? なあに?」
「王都のお店に、行ったことがあるのですか?」
「…………」
固まる私。
――初めて王都のお店に行ったのは、正式に婚約者になってからだった……!
「お姉様も、参謁は今回が初めてですよね……?」
私の左肩に頭を乗せるようにもたれてくるレナ。かわいい。
――参謁は九歳以上の子供も同席するのが習わし。
けれど私は前回――二年前の九歳の時、前生と同じく風邪を引いたため同行できなかったのだ。
「ああ、いや、そういう噂を、最近聞いてね……」
なんとか取り繕う。
「そうでしたか。服を作る方達の努力は凄いですね」
「ええ、本当に……」
――前生と今生の記憶がごっちゃになっちゃうの、なんとかしないとなあ……。
「……でも、そうよね。王都に着いたら、デートするんだ、って気持ちじゃないとね」
あらためて気を引き締める。
楽しい想像をしていた方が、良い方向に行きそうだもん!
「で、デート、ですか……?」
レナの声がうわずる。
私はぎゅっ、とレナを抱き締めて。
「私とデートは嫌?」
「まさか! 嫌じゃないです! 嫌じゃない、です、けど……」
耳まで赤くして、レナの語尾は掠れて消えていった。
「それじゃ、決定ね」
ゴリ押しする。
――うん。今決めた。王都でレナと、デートする。
それこそ、まさに『自分も含めて』幸せなんだから。
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