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11歳-3-

 ある日の訓練後。

 いつものようにレナとショコラと三人でお風呂に入っていると。


「ルナ、何にそんな(おび)えてるんだ?」


 ショコラが尋ねてくる。

 ちなみにショコラは最近私をルナと呼ぶようになった。


「……怯え?」

 レナのほっぺをむにむにする手は止めず、ショコラに聞き返す。


「俺との訓練を遊びと言い張るが、そんなわけないのはもう明らかだ。ここ最近のアンタは、特に鬼気迫ってる」

「……そうかな?」

 咄嗟にそんな(とぼ)け方しかできない私。


「私兵団にも自分の命よりレナを優先するよう言ったらしいじゃねえか」


 ――情報源はエルザでしょう。

 最近、エルザはショコラに侍女教育をしてる。将来、学園に共に行くことを見越して。

 それもあって、二人は仲間意識が芽生えてきているようだ。


「貴族で、女で、未来の王妃候補なのに、なにをそんなに怯えてるんだ?」


 真っ直ぐなショコラの目。

 誤魔化しやはぐらかしは通じない――したくもならない、純粋な瞳。


 ――さて、なんと答えよう……

 と考えてると、柔らかい感触が左腕にしがみついてきた。


 レナが私の左腕を抱え、不安そうな目で見てくる。

 そんなレナもかわゆすぎて、自然と口元がほころんじゃう。


「……夢を見たの。とてもリアルな夢。大勢の敵が、為す術ない暴力でレナを攫っていく夢」

 私はそう切り出した。

「私は使用人に(かか)えられて逃げ延びるの。でも、レナは誰も抱えられなくて、そのまま追いつかれちゃう。

『助けて』って、レナは何度も叫んで。

 私も『離して』って言うけど、ダメって言われるだけ。

 そのままレナは取り押さえられて、縄を口に巻かれたところで見えなくなっちゃうの」


 静まりかえる。

 ――うん、嘘ではない。前生を夢と形容しただけで。


「……だから、自分も強くなろう、って?」

「まあ、そんなところ。公爵令嬢なんて身分だし、現実に起きてもおかしくない。そんなときに、少しでも後悔したくないだけ」


「…………」

 ショコラは射貫かんばかりの眼光で私のことを見つめてくる。


「あともちろん、純粋に剣を振るのが楽しくて性に合ってるっていうのもあるよ。

 剣とか魔法に興味ない性格だったら、そんな夢を見てもなんとも思わなかったかもね」


 逃げずにショコラを真っ直ぐ見返す。

 少しして、ショコラが小さく息を吐いた。


「……ルナと話してると、ずっと年上と話してるような気分になる」

「分かります!」

 レナが即座にショコラに頷いた。


「まだ11歳のくせに達観してるというか……。我欲じゃなく鍛錬する様が、どうにもうちのジジイどもと被るんだよ」


「ジジイは口が悪いわね」


「んじゃあ、師範どもだ。あの人達も、子供や孫の危機には当然のように命を掛ける気だった。

 上手く言えねえけど、普通子供って、自分が世界の中心だと思うんじゃねえかな。俺もだけど。

 それを、全く感じねえ。無理矢理抑えてるとかじゃなくて、本当に無に感じる。不気味だし、すげえよ」


「……悪口なのか褒められたのか、判断に困るわね」

「まあ、6:4で褒め言葉寄りだ、多分」

「多分て……」


 そこで、ぎゅっ、とレナが私の左腕を抱く力を強めた。

 僅かに柔らかくなってきたレナの胸がかわいい。


「私は、10褒め言葉ですよ!」

 この世のありとあらゆる幸福を詰めた笑顔でレナが言う。


「ありがとうレナ、もう大好き!」

 抱かれたままの左腕をレナの右脇に入れ、右腕も背中に回して、ぎゅーっ、と抱き締める。


 レナも嬉しそうに抱き返してくれた。


「はいはい、ごちそうさん」

 見なくても苦笑いしてるって分かるショコラの声だった。





 ――考えてみれば、不思議。


 毎日こうしていたら、いずれ飽きてもおかしくないのに……

 全く逆で、毎日こうしているからこそ、今日という日が一番に感じる。


 ――無くしたくない。絶対に。


(私が、師範達と同じ?)

 買いかぶりよ。


 私なんて、我欲の塊。


 前生で間違えた私は、全てを失って、国中から憎まれて、死を望まれた。

 だから今生では何一つ取りこぼしたくないだけ。

 欲しい幸せは全部手に入れたくて、持ってる幸せは一つも手放したくないから、剣を振っている。


 唯一の例外は、一度バカなことして死んだ自分自身に対し、あんまり固執してないくらい。


 ――けれど、ふと、創造神様の『自分も含めて』が脳裏を過る。


 エルザやテンディエットさんが言ってくれたように、レナが……、ショコラや、エルザも。

『私が居なくなると不幸になる』というのなら……


 私自身も含めて大事にしよう、と思えるよ。

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