8歳-2-
一度部屋に戻って落ち着いてから、少し遅い朝食を食べる。エルザが運んできてくれた。
しきりに皆が心配してくれて、嬉しい反面、説明が大変だったけど……
『二度とみんなに会えなくなる夢を見た』と言ったら、なんとか納得してもらえた。
ということで、大泣きして気持ちもすっきり。ご飯を食べてお腹も満足。
エルザが食器を下げてくれて、私は一人になる。
……目に付くのは、例の自称創造神の手紙。
再びそれを手に取って、三枚目を見た。
【二度目の人生に向けた抱負】
目をつむって、さっきの光景を思い出す。
――私から剣を取り上げて、王太子との婚約を進めたお父様。
それは、政略結婚の側面はあれど。
私に『王妃という幸せを掴んで欲しい』という思いだったこと、前生で最後の面会で気付かされた。
――いつも優しいお母様。
ときどき貴族のしきたりを無視して、私たちと友達みたいな時間を作ってくれる。前生でも最後の最後まで、私の味方でいてくれた。
――なにより、あんなに可愛らしいレナの存在。
このまま健やかに育ってくれたら、どんな風になるか。見たくないわけがない。
(今度こそ、守りたい……!)
前生では私のせいで没落したであろう、このトルスギット家を。
今から約3年後に訪れる残酷な事件から、レナを。
私をはじめ貴族たちからイジメられ続けた、シウラディアを。
(……決めた)
私の、抱負。
ペンを取って、私は三枚目の紙に書き始める。
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【二度目の人生に向けた抱負】
※まずこっち書いてね♪
みんなが幸せになるよう頑張る!
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ペンを離すと、その下に文字が浮かび上がってきた。
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ぶっぶー!
その抱負は受け付けられませーん!
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「……は?」
抱負に受け付けるもなにもないでしょ。
その文字はすぐに消えて、また同じところに別の文字が浮かんできた。
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こう書き足すならいいよ!
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すると、今度は私が書いた文字の上に浮かんでくる。
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【二度目の人生に向けた抱負】
※まずこっち書いてね♪
自分を含めて、
みんなが幸せになるよう頑張る!
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「……自分の幸せなんか、別に……」
妹を見捨てて、罪もない女の子をイジメた私に、そんな資格無いし。
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私はそんな子を創造した覚えありません!
例外なく幸せになる権利はあるんだから!
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「書いてないのに返事すんな!」
なんなのよ、もう……。
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抱負はこれで受理しました!
撤回は受け付けません!
じゃあ次は才能書いてね!
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(勝手な創造神だなホント……)
と、思うけれど。
私の筆跡ではない『自分を含めて、』を見つめてしまう。
「……全く、しょうがないなぁ」
創造神様に言われたら、逆らえるわけもない。
まあ、考えてみれば、レナが笑ってれば私も幸せだ。
誰かを幸せにするとき、『自分のためにも』を足して考えればいっか。
ということで、次は才能。
どんな才能が欲しいかと聞かれたら、答えは決まってる。
剣。
それ以外、思いつけない。
今生の私の本棚にもある、女の子が聖剣を取り相棒の狼と旅する絵本。タイトルは、『リンとロウ』。
私のバイブルであるその物語の影響で、小さい頃は剣士になりたかった。
トルスギット家の私兵(お父様個人が雇ってる護衛隊)に教わって鍛錬するのも楽しくて。性に合ってたんだと思う。
9歳の時にそれを奪われてから、私の人生は狂ってしまった。
だから、それを取り戻したい。
「自分の幸せも考えろって言われた……というか、書かれたし」
――お父様には反対されるだろう。
けど、今度こそはなに言われたって絶っっっっ対に政略結婚なんてしない!
野蛮だ粗野だと言われようが、嫁の貰い手が居なくなるとか、知ったこっちゃない。
戦闘力があれば、レナが心を病んだ事件も阻止できるかもしれないし。
そう考えて、いざ『剣』と書こうとペンを持ち上げた。
……けれどそこで、手が止まる。
(でも女は、剣に向いてないのよね)
当たり前だけど、男性とは筋力が違いすぎる。
さらに、私は女性の中でも小柄。
仮に、『剣の天才である私』と『普通の才能で平均体型の男性』が戦ったとして。練習量が同じなら、ほぼ男性側が勝つだろう。
それじゃあ才能をもらったって意味がない。
それじゃあレナを守れない。
「……なら、どうする……?」
一般的に、女は魔法が向いている、とされている。
『聖女』と『魔女』は女がつく有名な職だけれど、どちらも魔法職。なにも男性を差別してるのではなく、女性でないとそのレベルに到達できないのだ。
……まあ、前生の私は魔法の才能も皆無だったけど。
(魔法が使えれば、筋力差も補えるし!)
リンとロウでも、ロウが魔法でリンをサポートしてた。
「よしっ」
再びペンを手に取る。
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【希望する才能】
※複雑な才能はなるべく具体的に!
剣と魔法
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すぐに文字が浮かんできた。
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ひとつだけって書いてるでしょ欲張りちゃんが!
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「あっ……」
すっかり抜け落ちてた。
――そっか、どっちかだけかぁ……
(だとしたら、やっぱり剣が……
いやいや、だから魔法がないと……
でも今度こそ剣を扱いたいなぁ……)
体勢を変え姿勢を変え、うんうん唸って考え込む。
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じゃあ、魔法剣はどう?
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「……魔法剣?」
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文字通り、魔法と剣の複合職よ。
今は廃れちゃったけど。
『剣にまつわる魔法』と、『魔法にまつわる剣』を習得できる。
剣に魔法をエンチャントしたり、
魔力で剣を作って遠距離に放ったりできる。
筋力も、魔力で補助すれば補えるし。
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――へえ、そんなのがあるんだ。
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ただ、普通の剣士や魔法使いと比べてデメリットもあるの。
戦技は習得できないし、
剣に関係ない魔法も習得できない。
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『戦技』とは、魔法を使わない戦闘職が習得できる特殊技能。
周囲の敵を一時的にスタンさせる『雄叫び』や、ジャストタイミングで攻撃を弾いて相手を崩れさせる『パリィ』などが代表例だ。
――つまり、近接戦の要である戦技が使えない上、普通の魔法も使えなくなる、ってことか。
となると、確かに取り回しづらそう。そりゃ廃れるよね。
けれど……でも。
(『剣』に特化してるというのは、すごく、いいなあ)
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気に入ってもらえたみたいね。
じゃあそれで受理するねー
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「……いちいち心の中読まないでください」
気に入った、という点は否定できない私だった。
『剣と魔法』の文字が、ゆっくり『魔法剣』に書き換えられる。
すると間もなく、最後の欄に文字が現れた。
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【おまけの特殊スキル】
※この下には何も書かないで!
戦闘系の才能を選んだあなたにはこちら!
『アナライズ』
対象のステータスとかが閲覧できるよ。
戦いの役に立ててね!
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それを読み終えた途端、紙面から光が溢れ出した。
「きゃっ!?」
思わず目を庇う。
光は徐々に収束して。
私は薄目で周囲を窺った。
三枚目の紙の一番上に、またも文字が増えている。
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才能を変えたかったら8日以内に【希望する才能】欄の余白に書いてねー
まあ、あなたなら変えないだろうけど
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――そうとは限らない……、かもしれないでしょ。
と反論したくなったけど、自分でも説得力がなさ過ぎて、やっぱりやめておいた。
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