10歳-15-
仕切り直し。再び間合いを取る。
またも先手を仕掛けてくるショコラ。
下から斬り上げて迎え撃つ。
と、それを左爪で受けながら、体を横に一回転させてきた。
――まずい!
これは、私が初めて一撃入れた時と、全く同じ構図……!
ただ、立場だけが逆転して。
木剣が振り抜かされた直後、背中を強打された。
……そのまま私が倒れて、再び仕切り直し。
次はこちらから斬りかかる。
けれど斬り落としは半身で、横薙ぎはスウェーで、斬り上げは爪を引っかけられながら宙返りと、どれも躱されてしまう。
まるで当たる気がしない。
(当たりさえすれば、二重エンチャントで防御ごと吹き飛ばせるのに……!)
少し距離が離れたところを、魔力の足場を渡って空中から振り下ろした。
けれど、ドンピシャで跳躍を合わせられ、振りかぶった瞬間を斬り裂かれる。
そのまま地面に叩き落された。
――嘘でしょ……。完全に手口が読まれてる……!?
まさか、戦技無しでもここまで実力差があったなんて……。
(いかんいかん! 心折れるな! まだチャンスはある……!)
ショコラの手を掴んで起き上がろうとするとするけれど……
ショコラは、もう私を起こそうとしてくれなかった。
「……ショコラ?」
「……もうやめとけ。魔力神経が真っ赤だぜ」
言われて、自分にアナライズをかけた。
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・魔力神経負荷 86%
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二重エンチャントをかけ続けた影響か。
今鏡を見れば、部族のボディペイントのように体中に青い光の線が浮かび上がっているだろう。
「まだ、できる。まだ……!」
上手く言葉が出てこない。
でもとにかく、私はそう訴えた。
セレン先生は位置的にまだ私の状態に気付いてないはず。
「手立てはあるのか?」
敵のはずなのに、そんなことを聞いてくる。
「ある!」
即答。
「はっ、上等だ」
ショコラが私に手を伸ばした。
「センセーもすぐ気付くだろう。次がラストと思っとけ」
ショコラは背中を向けて距離を離した。
――考えろ。
――回避に専念させてるところまでは良い。
――ただ身軽すぎて、回避のみで対処されちゃってるのが問題だ。
――どうにかして、防御させる形にしないと……
手立てなんてないけど、「ある」と答えた以上、なにか見つけなければいけない。
(やっぱり、これでお別れなんて、嫌だから……!)
全部、私のエゴ。
自分が破滅したくないのも。
レナの未来を守りたいのも。
……ショコラと、せめてあと一年ちょっとを一緒に過ごしたい、って思うのも。
「ごめんねショコラ。まだ故郷に帰してあげないから」
ショコラは私を一瞥して、言葉は返してこなかった。
相互に構えて、見合う。
――ここまでほとんど、回避された後に攻撃を入れられている。
――だったら……
仕掛けたのは、お互いほぼ同時。
こうなると、リーチの長い私が先手。
右腕一本で振り抜いた木剣を、ショコラはギリギリで躱した。
私の木剣と体は右に流れて、空いたスペースにショコラが一歩を踏み込む……
――ショコラ、見えた? 私の右手が、柄のギリギリを握っていたことを。
見られてたら避けられるかもしれない。
でも、もう見られてなかった事に賭けるしかない!
振り抜いた勢いそのまま右手を返して、背中に持って行く。
左手も背後に移して、木剣を持ち替えた。
ショコラが左手を振りかぶったところで、私の動きに気付く。
「ちっ!」
ショコラの舌打ち。
――察するのが早い!
それでも私は左脚を踏み出して。
左手に握り変えた木剣を、渾身の力で振るった。
ショコラが体勢を崩しながら、右爪でそれを受け止める。
左腕の補助魔法を全開!
バギンッ、と鈍い音が響き渡った。
「くうぅっ……」
「やあああああっ!」
全力で左手で押し込む。
ショコラは歯を食いしばって耐えていた。
――押し勝てる!
右手も柄を掴んで両手持ちにし、さらに力を込める。
ショコラも左手を使うけれど、二重エンチャントの前ではほとんど抵抗を感じない。
ショコラは体勢を少し崩しているし、私の方が背も高い。
少しずつ少しずつ、押しつぶすように、ショコラを追い込んでいく。
――いける! このまま、もっと体重を前に……
さらに一歩を詰めた。
……瞬間、ふっ、と抵抗が弱まる。
つんのめるように、私の体が空を泳いでいた。
(……あれ……?)
一瞬遅れて、ショコラが背中を地面に付けて。
その両足は、私のお腹に当てられていて……
――しまった!
そのまま、巴投げの要領で蹴り飛ばされた。
私の体は永遠にも感じるくらい、長い時間空中で弧を描いて……背中から地面にぶつかる。
肺の中身が全部押し出されて、一瞬息が止まった。
天地逆さまな視界。
ショコラは両足を振り上げ、勢いを利用して一気に立ち上がる。
私もなんとか呼吸を取り戻し、体を返してうつ伏せに。
木剣を杖代わりにして、膝立ちになる。
――押し込みすぎたから、その力を利用されてしまった……でも、あとちょっとだった。次こそは……
「ストップ! 両者動きを止めてください!」
そこで、セレン先生の声がした。
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