表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/107

10歳-11-

 それから、さらに二週間ほど経ったある日。

 この日はセレン先生の休日。

 勉強やダンスの先生と合わせて、今は週に一回休んでもらっている。


 こういう日は当然、魔法の授業もショコラとの訓練もお休み。

 図書室で本を読んだり、お父様やお母様と過ごしたり、お忍びで街に降りたり、レナとお昼寝したりしてる。


 そして夕方には、一人で魔力剣の練習。

 裏庭で一人(エルザが離れたところで見守ってるけど)、魔力剣を百本ほど空に浮かべた。


 今の目標は、二百本の生成。

 けれど百本を超えた辺りで、体が痛む。

 アナライズで見ると、魔力神経負荷が70%に到達。

 早く体が成長してほしいところだけど、言ってても仕方ない。


 なので、今は数より練度を上げることを優先していた。


 シンプルな魔力剣、炎の剣に氷の剣、雷、風、水、光、闇……


 それら全てに、簡単な命令を与える。

 レースさせたり、剣同士で戦わせたり。


 いざというときのため、どんな命令をするとどういう風に動くか、観察する。

 魔力神経を休めつつ、飛び交う剣の観察しながら、与える命令を変えて調整。そしてまた観察に戻る……


 そんな、いつもの一人訓練中。


 ふと、背後から芝生を歩いてくる音がした。


 振り返ると、ショコラが立っている。

 空を飛び交う魔力剣を凝視していた。


「あれ? 今日はお休みじゃなかったっけ?」

 セレン先生の休みに合わせて、イズファンさんがショコラの休みを調整してくれているのだ。


 ――後に知ることだが、ショコラは休みの日でも体を動かしているらしい。

 この日は望領の丘でトレーニングした後、裏庭でジョギングするつもりだったそうだ。


「……なんだ、こりゃ」

 私の声が届いてない様子のショコラ。


「魔法の練習。今日は魔力剣にレースさせたり戦わせたりしてる」

「はぁっ!?」

 あ、届いた。


「どう命令すればどう動くのか、把握しようと思って」

「……あれ全部に命令してるってのか?」


「うん。私がいちいち『飛べ』とか『斬れ』とか言うのも面倒だし。私が作った物なのに、わりと個性があって(おも)(しろ)……」


 そこで、いきなりショコラに胸ぐらを掴まれた。

 チュニックの胸元が少し破れてしまう。


「てめえ、いつもは手加減してたってのか……!」

 キスできるほど近くにショコラの顔。

 これまでで一番くらい怒ってる。


 エルザが駆け寄ってくるのが、視界の端に見えた。


「ど、どうしたの?」

「魔法に疎い俺でも分かる。これは異常だ。なんで普段、俺との試合で隠してた!」

「隠してたんじゃなくて使ってないだけ。最初に言ったでしょ? 私は近接戦の訓練がしたい、って」


 気付いたように、ショコラがハッとする。


「……そりゃ、言ったけどよ……」

 ショコラの勢いが弱まる。


「遠距離戦はセレン先生とも訓練してるし。ショコラとは、自分自身の剣術を伸ばしたかったの」


 そこでエルザが、黙ってショコラと私を離そうとした。


「……エンチャントが異様に早くて完璧だったときに、気付くべきだった……。とんだ化け物じゃねえか」


 ショコラが手を離す。

 今度は、まるで泣きそうな顔で。


「ははっ、最初っから俺に負けるつもりなんて無かったってことかよ。性格わりい……」

「? いや、ショコラには近接戦で勝つよ?」


 今度は、初めてマシュマロの食感を味わったような顔になった。

 コロコロ表情が変わってちょっと楽しい。


「それくらい強くなりたい、っていうのもある。けど何より、魔力剣でショコラに勝っても意味無いじゃない?」

「……じゃない? って俺に聞かれてもな……」


「魔法防御が低めなショコラに、空から振る百本の魔力剣で勝っても理不尽なだけ。

 それじゃあ、ローディ様が権力で無理矢理ショコラを送ってきたのと、本質的に変わらない」


 ――なすすべ無い強大な力で人生をねじ曲げられる……

 そんなのはもう見たくないし、ましてやしたくもないんだ。


「私をガキと呼んで、胸ぐらを掴んで、容赦なく叩きのめして……良い戦いができたときは褒めてくれる、そんなショコラが欲しい。

 魔力剣の雨で命令を聞かせるなら、最初から契約書と首輪で縛った奴隷でいいもの」


 胸元を正す。けれどすぐ、ダラン、と開いてしまう。胸元がかなり見えちゃう。

 ……まあ、それでもショコラの格好と比べたら全然だけど。


「……権力も紙も首輪もないなら、それは奴隷って言えるのか……?」

「私は別に奴隷にしたいなんて思ってないもん。法律があるから仕方なく奴隷ってことにしなきゃいけないだけ」

「じゃあ、なににしたいと思ってんだよ?」

「別に形式にこだわらなくて良くない? 友達であり師匠であり奴隷でもある……そんな、私とショコラにしかなれない関係になりたいな」


「……欲深いヤツだ」

「そりゃあ、私ってばワガママで強欲ですから」


 なに一つ諦めない、って決めたから。


「ははっ、自分で言ってりゃ世話ねえな」

 ――良かった、少し笑ってくれた。


 そこで、魔力剣が古い方から消えていく。

 魔力の残滓が多数、空から雪のようにふわふわと振って来た。


「……服、すまねえな」

「急にしおらしくなっちゃって」

「悪い癖だ。頭に血が上ると、つい」

「まあ、感情的なのもショコラの良いところだと思うけどね」


「……怒らないのか」

「ショコラはそういう子だって知ってるし。だから奴隷に欲しい、って思ったんだもの」

「本当、変なお嬢様だぜ」

「そんなこと言ったら、ショコラも変な奴隷だと思うけど」

「んなこと言われてもしょうがねえだろ」

「うん。だから私も、変でしょうがないのよ」

「ああ言えばこう言う。そういう女はどの人種でも嫌われそうだ」

「少なくともレナは好きでいてくれるから、それで充分よ」

「はいはい、ごちそうさん」


「……ルナリア様。代えの服を取って参ります。ショコラ、お任せしてもいいですか?」

 と、そこでエルザが見かねたように言った。


「……手を上げかけた俺と二人きりにしていいのかよ?」

「問題ないと判断しました。これだけ仲良しでいらっしゃいますから」

「正気か……?」


「問題ないわ。ありがとうエルザ、お願い」

「はい、行って参ります」


「……アンタも変なメイドだな」

「ルナリア様の側付ですから。光栄でございます」


 と会釈して、エルザは屋敷に入っていく。


「……あのメイドは不敬罪にならないのか?」

「どうして? 私の意を正確に汲んでくれる、優秀な方よ」

「大物だな。どっちもよ」


 ――褒めてるのよね、それ……?


 エルザが戻ってくるまで、ショコラはずっと側にいてくれた。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

もし「面白い」、「続きを読みたい」などと思っていただけましたら、

↓にある星の評価とブックマークをポチッとしてください。

執筆・更新を続ける力になります。

何卒よろしくお願いいたします。

「もうしてるよ!」なんて方は同じく、いいね、感想、お待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ