8歳-1-
一通りイチャイチャした後、レナは私に抱かれながら眠ってしまった。
そんなレナを優しくポンポンしながら、状況を確認。
14歳の記憶と8歳の記憶もだいぶ切り分けられるようになってきた。
今は朝の6時。
朝食の時間には少し早い。
で、今の私は8歳で、あと2ヶ月で9歳の誕生日を迎える。
問題はとにかく、14歳の頃の記憶がまるごとそのまま、という点のみ。
「なにがどうなってるの……?」
引き続き周囲を観察していると、サイドテーブルの上の封筒を見つけた。
レナを離さないように、起こさないように、なんとかその封筒を取る。
中を開くと、手紙が三枚入っていた。
折り畳まれたそれを開いて、まず一枚目から読んでみる。
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おめでとうございます!
あなたは人類誕生以降、丁度一兆人目の死者となりました!
幸運なあなたに、天界から回生をプレゼントいたします。
回生とは、もう一度人生をやり直すこと。
やり直す年齢は自動的に決まるので、ご了承くださいね。
最初は前生の記憶と今生の記憶が混濁してると思いますが、うっかり未来の話をしないように!
頭のイタい子と思われるか、研究対象にされるか、どっちにしてもロクなことになりません。
基本的には隠しておくことをオススメだよ♪
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一枚目はそこで終わっていた。
――人生を、やり直す……?
だから私は、死ぬまでの14年――前生――と、この体の8年――今生――の記憶が両方ある……?
「……なに、それ?」
『だよ♪』って締めくくられても……
とりあえず二枚目をめくる。
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さらに今回は特別キャンペーン!
ついに一兆人の大台に乗ったということで、あなたには希望する才能をひとつだけ差し上げます!
三枚目の【希望する才能】の欄に書いてね。
さらにさらに!
おまけで特殊なスキルをあげちゃいます!
よっ、創造神ちゃん太っ腹!
【希望する才能】の欄を記入したら、それと相性が良いスキルが自動的に浮かび上がってくるよ。
ただし!
この手紙を見てから8日以内に記入しないと無効になるから気を付けて!
逆に、8日以内なら何度でも書き換えられるよ♪
あなたの二度目の人生が幸せなものとなりますように!
エンジョイ、ハッピー回生ライフ!
この世界の創造神より
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――テンションうざい創造神だな……。
創造神とは、文字通りこの世界を創ったとされる神のこと。
絶対神とか唯一神とも呼ばれ、世界最大の宗教である聖教の信仰対象でもある。
(……神の名を騙った、誰かのイタズラ……?)
ただ、そう断言するには、あまりにも死の記憶が生々しい。
死ぬまでの14年間が夢だったとは、とても思えない。
三枚目をめくってみた。
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【二度目の人生に向けた抱負】
※まずこっち書いてね♪
【希望する才能】
※複雑な才能はなるべく具体的に!
【おまけの特殊スキル】
※この下には何も書かないで!
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――抱負……?
「んぅ……」
と、そこまで読んだところで、レナが目をこすりながら起きた。
「……あれ? おねえさま……?」
きょろきょろと周囲を見渡すレナ。
「寝ぼけて私のところに来ちゃったのよ」
言って、レナを膝の上に乗せた
「またお母様に文句言われちゃうわね」
「あう、ごめんなさい……」
「私は幸せだから良いんだけどね」
「えへへ」
――かわゆすぎる……!
嬉しそうにはにかむレナが可愛すぎて、寝起きの心臓に悪い。だけど、これならいくらでも心臓をいじめて欲しい。
と、そこでレナが私の持ってる紙に視線を向ける。
「……の、に、けた……?」
「え? もう字が読めるの?」
「むずかしいところはよめないです……」
「ちょっと読めただけでも凄い! まだ6歳なのに、私の妹は天才ね!」
ぎゅっ、と抱きしめると、嬉しそうにレナは抱き返してくれた。
「きょうのおねえさま、いっぱいぎゅってしてくれて、うれしいです!」
――ああ、可愛すぎて、涙出ちゃいそう……
……前生の心を病んだレナを知っているから、余計に。
~~【回想】前生、ルナ11歳の頃~~
レナが9歳になったばかりの頃。
家族で王都に移動中、野盗の襲撃に遭う。
逃げ出す最中、転んでしまったレナ。
助けようと手を伸ばすけれど、使用人に抱き上げられて、私はそのまま逃がされた。
――その時の、レナのこちらを見る目が、今でも私を苛む。
わずか9歳で見捨てられた時の絶望は、果たしてどれほどだっただろう? 想像もできない。
それから10日後、騎士団がレナを保護してくれたけれど……酷い有様で。
帰ってきたレナは、他人への極度の恐怖症を患っていた。
私がどんなに手を差し伸べても、振り払われるだけで。
私がどんなに笑いかけても、睨み返されるだけになってしまった。
それは、前生における一番のトラウマ。
――私は、抱き上げてくれた使用人とたまたま近かっただけで。
自分が同じ目に遭っていてもおかしくなくて……。
レナを身代わりに助かった私は、彼女のためにも、なんとしても我が家を王家の傍流にのし上げなければ……と、誓ったのである。
~~【回想】前生、ルナ11歳の頃 終~~
「今度は、私が守るから」
レナの耳元に、誓う。
誓いは、私の胸の底から、力を沸き立たせてくれるようで。
取り急ぎ、レナを抱きしめるのに使うことにした。
「おねえさま……?」
コンコン。
と、そこでノックの音がした。
「……どうぞ」
なんとかそう返事する。
(私とレナの時間を邪魔するのはどこの誰!?)
なんて、もちろん声には出さないけどさ。
カチャリとノブを回す音がして、ゆっくりとドアが開いた。
「おはようございます、ルナリア様。朝食のお時間でございます」
一人の侍女が、そう言って一礼した。
「おはよう」
レナを抱きしめながら挨拶を返す。
この人は確か……私の専属侍女、エルザ。
6歳年上で、私が10歳の頃に寿退職したんだっけ。
「おや、レナーラ様もこちらでしたか」
「おはようございます、エルザさん」
「おはようございます」
律儀もう一度礼をするエルザ。
「久しぶりね、エルザ」
思わずそう言ってしまった。
「……はて、昨日もご一緒させていただいておりましたが」
顔を上げて、不思議そうに見返してくるエルザ。
「あ、いや、ごめんなさい。……ずいぶん長い夢を見ていたの。それで、つい」
「それはそれは。楽しい夢でしたか?」
「楽しくは、無かった。もう二度と見たくないくらい」
「そうでしたか。それでは、今夜は良く眠れるハーブティーをご用意いたします」
「ええ、ありがとう」
ということで、私とレナは支度をして、朝食の席に向かった。
レナと一緒に食堂に入る。
すでにお父様とお母様、それに従者の皆が揃っていた。
――その光景が、あまりに懐かしくて。
「レナ。またルナのところに行ってたのね。私と寝るのがそんなにいやなの?」
お母様は、まるで子供みたいに唇を尖らせて言って。
「おかあさまとねるのはだいすきです! でも、おねえさまもだいすきです! むいしき、です!」
なんて、真っ直ぐにそんなこと言うレナ。その手は、ぎゅっと私の手を握って離さない。
「まあまあ、姉妹仲が良いのは良いことじゃないか」
厳しいときは厳しいけれど、いつも私たちを思ってくれるお父様が、少しだけ苦笑いを浮かべる。
「それより、今朝は二人が好きなオムレツだぞ。冷める前に食べてしまおう」
――気付いたら、頬を涙が伝っていた。
さっきので涙腺が緩んじゃったみたいだ。
止める暇も無いくらいに早く。段々と多く。
どうしてだろう、と考えれば、すぐに答えに行き着いて。
――もう何年も渇望していた幸せの具現が、この光景だったからに違いない。
それからしばらくの間、私の涙は止まってくれなかった。
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