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10歳-2-

 そこでノックの音がした。

 エルザが室内に戻り、ドアを開ける。


 レナとフランの姿が見えた。

 手を振ると、レナも元気に手を振り返しくれる。かわいい。


 レナがテラスまで来て、私の横に立った。

 この一年で少し大人びたレナは、愛らしさの中に(ほの)かな美しさを芽生えさせ始め、老若男女誰しも一目でときめかせるほど可憐な美少女に育っていた。かわいい。


「お姉様、鑑定の結果はどうでしたか?」

 鈴のような声が私の耳を打つ。


「初級魔法なら習得して良いって。また習い事の数が増えそう」

「私の相手をする時間を減らしていただいても……」

「そんなことするわけないでしょ。……って、言わせたいだけのくせに」


「バレちゃいましたか」

 てへへ、と小さく舌を出す。


 キューン!

「全くもう! 可愛いんだから!」

 力一杯抱き寄せた。


「でも、半分くらい本心ですよ? お姉様が体を壊されたら元も子もありません。お休みの時間をしっかり取って欲しいです」

 言いつつ、いつものようにそのまま私の膝の上に座ってくれる。かわいい。すき。


「レナとの時間がなくなる方が体調悪くなっちゃうもん」

「お姉様ったら♪」


 いちゃいちゃ。


 ――最近、レナと居ると知能指数下がるような気がしてる。

 だとしても、レナと知能指数なら、レナを取るに決まってるんだけどね!


「エルザ、レナの分のお茶を……」

「はい、ただいまご用意してございます」

 気付いたら、すでに紅茶をエルザが淹れている所だった。

「流石、私の自慢の侍女」

「滅相もございません」


「それはなんですか?」

 とレナ。

「紅茶よ。エルザ、レナの分はミルクと砂糖を多めにね」

「はい、かしこまりました」


 次にレナは私のカップを見つめた。


「お姉様はいつもストレートですよね」

「基本的にはね。あんまり口に合わないときはミルク入れちゃうけど」


 ちなみに前生の今の年齢ではまだミルクも砂糖も入れていた。体は小さくなっても、味覚は14歳の頃のものらしい。


「かっこいいです」

「別に、好きに飲めば良いのよ」


 とはいえ、褒められてまんざらでも無い私。頬が緩んじゃう。


 レナの分の紅茶が置かれる。


「クッキーもあるからね」

「わーい!」


 私も右手に持ったままだった半分のクッキーを食べようとした。


「ありがとうございます。いただきます」

 パクッ。

 レナがそれを食べてしまう。


「あっ……」

 思わず声が出た。


 私がクッキーを食べさせようとした、とレナは思ったんだろう。

 確かに、普段から食べさせてあげることはあるけど……流石に食べかけをあげたことは一度もないのに。


「上品な甘さで、とっても美味しいです。これはどちらで?」

 しっかり噛んで飲み込んだレナがエルザに尋ねた。

「私の手作りでございます」

「本当ですか? 凄いです!」

「お褒めにあずかり光栄です」

 エルザが礼をする。


「ねえ、レナ……」

「はい」

「今の、私の食べかけだったのよ」

「……えっ?」


 レナの顔がみるみる赤くなっていく。


「も、申し訳ありません、はしたない真似を……」

「ふふっ、間接キスだね」

「っ!」


 ぴくっ、と体を震わせ、唇を右手で押さえていた。

 とうとう耳まで赤くなってくる。


(……あれ?)

 なんか予想した反応と違う。


 姉妹なんだからいいじゃないですか~、くらいの反応を予想してたんだけど……。


 ――もしかして、怒ってる?


「ごめんごめん、許して。ほら、新しいの食べさせてあげるから。ねっ?」

 言って、もう一つクッキーを手に取った。


「……別に、怒ってはいないですけど……」

「怒ってる人はみんなそう言う。ほら、あーん」

 レナの前にクッキーを持っていく。

 ゆっくりと、レナがそれを一口かじる。


「許してくれる?」

 左手で優しく頭を撫でながら尋ねた。


「……でふから、おふぉってないでふ」

 ほっぺふくらませながらしゃべるレナかわいい。


「本当かなあ……」

 食べ終えた頃を見計らって、残ったクッキーを差し出した。


「……それ、お姉様に差し上げます」

「また間接キスになっちゃうけど、嫌なんじゃない?」

「嫌ではないです」

「……? そう、ならいただくね」


 残ったクッキーを食べた。

 レナが私を見つめてくる。

 食べてるところをじっと見られるの、少し恥ずかしい。


 しばらく噛んでから飲み込んで、紅茶で口を潤した。


「……なんで見てるの?」

 なおも私から視線を逸らさないレナに尋ねた。


「……お姉様、ずるいです」

「ごめんなさい、さっきからなにに怒ってるのか分からないんだけど……」

「怒ってはないですってば」

「じゃあどうしたの?」

「…………」


 静まりかえるテラス。

「……って、エルザ? フラン?」

 気付いたら二人とも居なくなっていた。


 侍女が主に黙って居なくなるなんて。

 いつもだったら、ちゃんと『我々は外で待機いたします。どうぞ姉妹水入らずで』的なことを言ってから出て行くのに。


 ――もしかして、さっきから私では及びもつかない、なにか重大なことが巻き起こっているのだろうか……?


「一体、なにがどうなってるの……?」

「……お姉様の、鈍感」

 拗ねたように視線を逸らすレナもやっぱり可愛らしい。


(怒ってないって言ってるけど、やっぱり機嫌を損ねてるよね……?)

 けれど、いくらそれ以上聞き出そうにも、レナは(がん)として答えてくれなかった。


 ――そんな、せっかく、前生と違って本当のオシドリ姉妹になれたと思ったのに……!


 その後、とにかく謝り倒して、自分がいかにレナを愛しているかを語った。

 それでレナも、「私もお姉様が大好きですから! ……ちょっと変な態度取ってすみませんでした。本当に、嫌いになるとか、そういうことはあり得ないんで、もう気にしないでください!」って言ってくれた。


 それからレナは――ちょっといつもと違うような気もしたけど――私とお喋りしたり、ハグしたりしてくれる。


 ……結局、変な態度になった理由は不明だし、エルザ達が何も言わずに出て行ったのも不明のままだけど。

 レナとの仲が悪くなることはなさそうだったので、とりあえず一安心だ。

ここまでお読みいただきありがとうございます。

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