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13歳-エピローグ-

 ……それから時が経ち、約八ヶ月。

 一年生も残り僅か、私の14歳の誕生日が差し迫った日。

 悪魔襲撃の当日。

 

 リーゼァンナ殿下との約束を果たす時が、やってくる。




 私と殿下は、皆になにも知らせないことにした。

 襲撃が確認でき次第、ロマをはじめ聖教会に報告を上げる手筈だ。

 

 私は魔力の足場を駆使して、聖教区の上空をぐるぐるとパトロール。空から襲撃をいち早く察知するためだ。 

 

 ……が、いつまで経っても、悪魔の群れらしき陰は見えない。

 

 私が見てない方向から来てるんじゃないか、と巡回する速度を速める。

 けれど、やはりどこからもそれらしき影は無いまま、やがて夕方になった。

 

 ――前生は、襲撃は昼過ぎくらいにあったはず。

 不思議に思いながら、私は一度殿下の屋敷に戻って報告をした。

 

「なんだ……。悪魔たちの事情が前生と何か変わったのか……?」

 その言葉に、ふと思い当たる節があった。

 

 ――悪魔関係で前生で変わった事なんて、ロマの中に寄生していた悪魔しかないんじゃ……?

 

 確か、バアルといったか。

 前生でロマの体を乗っ取ったあと、一年ほど準備をし、聖教区へ侵攻してきたのだとしたら……。

 今生で襲撃がないのも納得がいってしまう。

 

「……殿下、あの……」

 私は今生でロマを助けたときの詳細から始め、自分の推理を話した。

 …………

 ……




 一通り話し、「前生での悪魔の軍勢は、バアルが主導だったのかもしれません。だとしたら、今生で襲撃は起きないのかと」と締めくくる。

 

 殿下はしばらく沈思黙考していると……

「く、くくく、あはははははははははは!」

 頭を抱えて、爆ぜるように笑い出した。

 

「あー、おかしい……。すると、なんだ。

 私は、とっくの昔にこの国を救ってくれた英雄を殺そうとしていたわけか」

「いえ、別に国を救ったつもりなんてありませんでしたけどね……」

 

 それから殿下の笑いが引くまで、しばしの時を要した。

 

「……さて。いかんともしがたいこの大恩、どう返したものかな。なに、できた恩はすぐに返す主義なのでね」

 言って、リーゼァンナ王女殿下は安心したように、腕を組んで椅子に深くもたれかかった。

 

「本当ですか? じゃあ、リンとロウの続編書いてください!」

「気楽に言ってくれるな。……だが、他ならぬ君への恩返しだ。わかった、善処しよう」



   †



 さて。悪魔の方が解決したとなれば、次の問題の解決に望まなければいけない。

 

「前生でリーゼァンナ殿下がお亡くなりになったのは、なぜだったのですか?」

 

 前生の私とほぼ同時に亡くなったということは、あと半年もない。

 

「……丁度、どう切り出そうか考えていたところだ。聞いてくれて助かるよ」

「別に、普通に切り出していただいて良かったですのに」

「色々と事情があるんだ」

「そんな事情あります?」

「ああ。丁度先週、父上……国王陛下に請願してきた」

 

 殿下はまるで世間話のような気楽さで、ティーカップを取る。



「『次の玉座をいただきたい』とな」



 そして殿下は優雅な仕草で紅茶を一口飲んだ。

 

「……ぎょく、ざ……?」

 玉座。王の座る椅子。それは、つまり……。

 

「そんなことを言ったから、半年後に暗殺された」

「殿下は、将来王になるおつもりで……?」

「ああ、いわゆる女王だな」

 

 魔物との戦いの末に切り開かれた、オルトゥーラ王国。

 その玉座に女性が座したことは、有史以来一度も無い。簡単な話、女性が戦いの先頭に立つことができなかったからだ。

 

『女は王になれない』

 

 ――その常識を疑ったことなど、これまで一度も無かった。

 

「そのために、前生でも今生でも着々と地盤を築いてきた。

 だが『女王』に反対する連中に殺される。

 その日の地方視察の護衛が全員、反対派の手先でな。なすすべ無く、最期は崖から馬車ごと突き落とされた」

 

 前生の死の経緯を、まるで物語のあらすじでも語るように淡々と話す殿下。

 

「だから今生ではドーズやギルをスカウトしたんだ。

 信頼できる、側近の護衛として。

 とはいえ、その日まで飼い殺すのももったいない。だから、学園で教鞭を執って貰うことにした」

 

 私の受けた衝撃をよそに、殿下はするすると話を進める。

 

 ――女王……

 

 もし本当に実現したら、それはこの国の歴史を大きく変えることになる。

 

「……君も、女王になるのは変なことだと思うかい?」

 

「変とは思いませんが……」

 言葉に詰まる。

「……ガウスト殿下も王位を継ぐことに意欲的なようですし、彼と敵対なさるのは少し不思議ではあります」

 

「だって、アイツは王に向かない」

 

 ――弟のこと、好きなんだよね……?

 

「ガウストは生真面目すぎるし、優しすぎるし、頭が足りない。ハニートラップにも弱そうだ。

 だから、自分の方が向いていると思ったまでさ」

 

 言い方は少々アレだけど、弟の将来の心配も込みで、って受け取っておこう。

 ……言い方は本当にアレだけど。

 

「ダンジョンを管理する仕組みも完成し尽くし、モンスターが溢れることなど無くなった。

 王が剣をとる時代は、とっくに終わったんだ。

 現に、ここ数代の王に戦闘力が高い者などほとんど居ない。

 今重要なのは、統治する力、諸外国と渡り合う力……すなわち政治力だ。そういう分野なら、女でもできる。

 実際、女王が治める国だって存在しているのだから」

 

 私はただただ、驚くばかりだ。

 歴史を変えるのはこういう人なのだ、と見せつけられたようで。

 

「……お気持ちは承知いたしました。

 ですが、暗殺のリスクがあると分かった以上、今生では避ける選択肢はないのでしょうか?」

 

 ……私は、前生での死因から遠ざかるようにしてきたのに。

 この人は、真っ向から立ち向かっている。

 それが傍目には、あまりに怖すぎた。

 

「我が身かわいさで引き下がるなら、前生でもそんなことは言っていないさ」

 

 ――それもそうか、と一瞬納得しそうになりかける。

 けれど……。

 死の恐怖を体験してもなお、また真っ向から立ち向かう勇気なんて自分には無い。

 

 私がドーズ先生に勝った後、処刑しろと言われた時も感じたけど……

 この人はきっと、本質的には自分の命なんてどうでも良いと思っているのだ。



 ――この人を助けたい。

 

 レナの時やロマの時と同じようで……でも少しだけ別の理由で、私はその結論に至った。

 

「分かりました。当日は是非、護衛に同行させてください。ドーズ先生達が居れば不要かもしれませんが、居ないよりはマシなハズです!」

 

 殿下がハンサムに微笑む。

 

「もちろん、内心は頼みたくて仕方ない。が、あんなことした手前、さらに君を危険にさらすような真似はできない」

「そうですか。では、当日の予定をドーズ先生かガウスト殿下あたりから聞いて、たまたま同じ場所に居合わせるまでです。

 日時はもう知ってるわけですし、なんとかなるでしょう」

 

 そう私も微笑みで返すと、殿下は予想していたように苦笑いに変わった。

 

「……君は人が良すぎる」

「リーゼァンナ殿下ほどではございませんとも」

 そうして、どちらからともなく笑い合う。

 

「……それでは、当日は護衛を頼めるか」

「はい。お任せください、殿下」

 

 そう答えると、殿下は右手を差し出してきた。

 私はそれを握り返す。

 

「君には迷惑と世話をかけっぱなしだな。次のリンとロウは気合いを入れないと」

「ふふっ、新作楽しみにしております」



   †



 それから、さらに数ヶ月後。

 数年ぶりに出版されたリンとロウの続編は、悪の王女とその手下を懲らしめて改心させるという、ハッピーエンドの勧善懲悪ものだった。

 

 中身はすごく面白くて、笑いあり、涙ありの感動物。控えめに言って、最高に面白かった。

 ――だけど、読み終わってから少しして、そこまで自虐しなくて良いのに、とは思っちゃった。


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