第4話 門番 GATEKEEPER 『兜の中の、うそとほんとう』
第4話 門番 GATEKEEPER 『兜の中の、うそとほんとう』
門は、開けたり閉めたりするものだ。それが仕事だと、かつてのアミは思っていた。
ミレニアム北門。ここは都市の“顔”であり、“境界”でもある。外から来る者を迎え入れ、内から出る者を見送る。その全てに目を光らせるのが門番の役目。
アミはこの職に就いて三年目の若い女性で、魔法の腕はたつものの、門番としては威圧感に欠けるところがあった。代わりに持っているのは、人を“見る目”と、世間話を嫌がらない性格。あとはまあ、整った“見た目”だろうか。
朝のうちに、顔なじみの旅商人がやって来る。
「おはよう、アミ嬢ちゃん。今日は焼き菓子があるよ」
「はいはい、帳簿通りか荷馬車の中を見せてね。あと、カゴの下。いつもそこに隠すでしょ」
「あはは、きょうもバレたか」
「さっさと“兜”をかぶって、街に入りなさい」
ミレニアムの門には、“ミレニアムの兜”が据えつけられている。
創世戦争の時代、幾多の魔法使いの力を結集して造られたこの兜は、あらゆる精神攻撃を拒絶し、同時に着用者の精神魔法すら封じるという、魔法防御の極致だった。
だがこの兜がいまも使用され続けている理由は、もっと奇妙で、もっと人間的な理由による。
――嘘をついた者、あるいはミレニアムに害意を抱く者は、兜をかぶった瞬間、その“意識の強さ”に比例して“恐怖”が本人に返ってくる。
それがどんな恐怖かは、兜の魔法をかけた者たちすら知らない。今なお、その仕組みは完全には解明されていない。
その日、午後の陽が傾きはじめた頃。
ひとりの少女が門に現れた。
年の頃は十三か十四、旅の荷も杖もない。髪はぼさぼさで、靴は片方だけ泥で汚れている。
「こんにちは」
「こんにちは。どこから来たの?」
「森の……西のほう」
「名前は?」
「……メル」
アミは少女に、ミレニアムの兜をそっと手渡した。
少女は不安げな表情を浮かべながら、それをかぶった。魔力の揺らぎは小さく、だが確かに、兜の縁がわずかに振動した。
「メル、ね。じゃあ、ミレニアムには何しに?」
「……学びに」
「へぇ、そうなんだ。何を学びにきたの?」
「魔法!」
また、兜が揺れた。
アミは頬杖をついたまま、やさしく訊いた。
「“本当のこと”を言うのが、こわい?」
少女は黙ってうなずいた。
数分後。アミは静かに筆を取り、入門記録の紙にこう書いた。
-----
名前:不詳(仮名“メル”)
年齢:だいたい十三くらい
理由:学習目的(おそらく魔法ではない)
状況:保護対象として仮通過を許可、精査要請済
-----
「……入っていいの?」
「ええ。ただし、門の中にはね、“ほんとう”も“うそ”も入り混じってるから」
少女は少しだけ笑った。
「兜の中より、やさしいのね」
「ここは、そういう街なのよ」
その日の勤務が終わった後、アミは兜を所定の台に戻して、ひとことだけつぶやいた。
「今日のは、ずいぶんと可愛かったわね」
兜は何も答えない。けれど、夕陽に照らされたその表面は、まるで何かを語っているように、ほのかに輝いて見えた。




