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第3話 鍛冶屋 BLACKSMITH 『焼けた鉄と、焼けたまなざし』

第3話 鍛冶屋 BLACKSMITH 『焼けた鉄と、焼けたまなざし』


カンッ、カンッ――と、正午の鐘の音をかき消すような音量で、それはもう良く響く金属音が通りに鳴り響いていた。

ここは町で一番うるさくて、人によっては一番いい匂いのする場所だ。


鍛冶台の前で黙々と鉄を打つ男の名は、パイオス。見た目はごつい中年だが、無精ひげと火花のせいで、実年齢よりだいぶ老けて見える。

弟子の少年ガレムが、汗をふきながら声をかける。


「親方、これもう魔法で焼いたほうが早くないですか?」


パイオスは鉄を叩く手を止めずに答える。


「早けりゃいいってもんじゃねぇ」

「でも、温度だって一定にできるし――」

「火とはな、適度に喧嘩しとくもんなんだよ。

 黙って言うことを聞いてたと思ったら、すぐ機嫌を損ねる。

 魔法でなだめてりゃ、いざというときに裏切られるぞ」

「でも、親方の火だって怒るときあるじゃないですか」


パイオスは、カンッ!と、ひときわ大きな音を立てて鉄を叩いた。


「かもな。だが、俺は裏切らねえ」




夕方、鍛冶屋に一人の客が現れた。


「すまん。鍔の部分で刃と柄に折れてしまってな……剣の手入れをお願いしたい」


現れたのは、全身に包帯を巻いた見慣れぬ女剣士。一見、無口そうな雰囲気の持ち主だったが、目はギラリとした光を雄弁と放っていた。


「......戦場帰りか」

「ただの演習だ」

「演習で?そりゃあ、やりすぎだろ」


女は軽く笑っただけだった。

パイオスは折れた剣を見て、眉をしかめる。

普通、剣はこんなところから折れたりはしない。


「よく斬れそうじゃないか。……こんなところから折れるなんてな」

「文句でもあるのか?」

「無い。まあ、手入れがかさむ分の料金は上乗せさせてもらうがな」


夜、ガレムが寝静まった後、パイオスは一人で工房に残っていた。

折れた剣を炉にくべ、柄の部分をバラしながら、溜息をついた。


「……ほんとうに壊れてんのは、剣じゃねえんだよな」


彼は道具箱の奥から、ひとつの“石”を取り出した。微かに光る黒曜石。それは意志を通す魔力石で、言葉を持たない道具に“声なき声”を伝えることができる。


「さて......誰の仕事かしらねぇが、焼きが甘かったのは、どっちだったんだろうな」


そう呟いて、魔力石を柄の中に仕込む。




翌朝、女剣士が引き取りに来た。


「直って……いや、魔力の通りが違う?」

「ちょっとした工夫だ」

「そうか。感謝する」


払うものを払って立ち去ろうとする彼女の背に、パイオスはひとことだけ投げかけた。


「剣は使い捨てじゃねえぞ」


女は振り返らなかったが、左手で柄を撫でながら、ぽつりと答えた。


「わかってる」


パイオスは、それを聞いてようやく鼻で笑った。




その夜、ガレムは親方の手元を見ながら尋ねた。


「魔法って、やっぱり便利ですね」

「魔法は道具だ。頼るもんじゃねえ」

「じゃあ、親方は使わないんですか?」


「そりゃぁ……“使う”さ」

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